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これから広まるかもしれない怖い作り話  作者: 井越歩夢


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其の七十吾「夜行行列」

これから語るのは、もしかするとこれから広まるかもしれない

いや、広まってしまうかもしれない「怖い作り話」です。


全部で壱百八話。どれも短い物語です。


しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、

時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、

時に見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。


そしてひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。

これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。


この話、本当なんです。



これは以前、彼から聞いた「怖い夢」の話です。

……なのですが、あの日の取材以降、私はこの話について、どうしてもこう思ってしまうのです。


──彼のあの話は本当に“夢”だったのだろうか、と。


◇◆◇


彼は私より五つ年上で、ある会社の室長を務めています。普段は自宅マンションとオフィスを往復するだけの生活ですが、時々、私の住むマンションに顔を出します。


彼にも私にも家族はいません。

私たちは周囲に「仕事と結婚している」と冗談めかして言っていますが、実際、仕事に人生のほとんどを捧げているようなものでした。

それでも──私たちは時々、秘密の逢瀬を楽しむ仲でした。


そんな彼が数年前からハマっているのが、ソロキャンプ。

毎週末になると「待ってました」とばかりにキャンプ場へ出かけていきます。


そして昨年の夏。

地元でも特に標高の高い場所にあるキャンプ場へ行ったとき、そこで彼は“とても怖い夢”を見たのだと、私に話してくれました。


◇◆◇


そのキャンプ場は、地元でも一番高い場所にある林間キャンプ場。

猛暑の夏でも木陰が多く、驚くほど涼しくて快適だったそうです。

最初彼はこの場所をすっかり気に入り、「ここにしばらく通おう」と思ったほどだと言います。


テントを張った場所は、周囲を木々に囲まれており、そのすぐ脇には小川が流れていました。

サラサラと水の音がよく聞こえる、静かで心地よい場所。


手際よく設営を終え、お酒を飲みながらのんびりしているうちに日が暮れ、簡単な夕飯を作って片付けを終えた頃には、もう21時。彼はテントに入り、横になった途端、お酒も入っていたせいかスッと眠ってしまったそうです。


しかし──早く寝すぎたせいもあってか、深夜0時ごろ、ある“夢”を見て目を覚ましてしまいます。

そしてその瞬間から、彼は明るくなるまで一睡もできず、テントの外を見ることすらできなかったと言います。


◇◆◇


夢の中で、彼はふと目を覚ましました。

そのとき、小川の水音に混じって、何か別の音が聞こえてきました。


「ドーン……デーン……ドォーン……」


それはとても低く、規則的で、どこか不協和音のよう──

心の奥をじっとりと押しつぶすような、気味の悪い音だったと言います。


何だろうと思い、彼は寝袋から出て、テントの入り口をそっと開けました。

頭だけを外に出し、周囲をうかがいます。


外は真っ暗。月明かりも届かず、木々の影が黒く沈んでいる。

シン……と静まり返った空気の中で、小川のサラサラとした音と「ドーン……デーン……ドォーン……」だけが妙に際立って響いていました。


小川はテントの左側。その音も、左側から聞こえてくる。

彼はそちらに目を向け──そして、すぐに後悔しました。


小川のほとりに、白くぼんやり光るような姿をした、無数の人影の“行列”が見えたのです。


ゆらり……


ゆらゆらり……


ゆらり……


まるで小川沿いをゆっくりと歩くかのように、揺れながら進んでいる。

それを見た瞬間、彼はガバッと頭をテントの中に引っ込めました。


◇◆◇


そこで彼は目を覚まし、そして夢だったんだと気づいたことで、

胸を撫で下ろした──はずでした。


しかし。


サラサラと流れる小川の音。

そして、あの低い「ドーン……デーン……ドォーン……」。


夢とまったく同じ音が、現実でも聞こえているのです。


「……嘘だろ」


彼は寝袋に潜り込み、背筋をゾゾゾと震わせました。

夢で聞いた音が、現実でも鳴っている。


これは夢なのか?それとも──夢の続きが現実になっているのか?


そして今、テントの外を見たら、夢で見た“白い行列”が

ゆらり……ゆらゆらり……ゆらり……と小川沿いで揺れているのではないか!?


そう思うと、怖くて怖くて、彼は外を見ることができず、明るくなるまでただ目を閉じて耐えるしかなかったそうです。


◇◆◇


「夢で聞いた音と、目を覚ました時の音が全く同じで……本当に怖かった。外を見たら、夢で見た行列が本当にいるんじゃないかって思ったよ。」


彼はそう言って笑いましたが、その笑顔はどこか引きつっているように見えました。


「それで、そのキャンプ場ってどこなの?」


「地元の〇〇〇湖キャンプ場。標高が高くて涼しいって聞いてね。でも……あの体験をしてからは行かないなぁ。」


彼は軽く笑っていましたが、私はその話しぶりから、あの恐怖がまだ彼の中に残っているのだと感じました。


◇◆◇


それから数か月後。

私は地元観光地の記事を書くために取材に出かけました。


その中に──彼が泊まったキャンプ場のすぐ近くにある湖、〇〇〇湖がありました。


後に知ったのですが、〇〇〇湖は全国心霊マップに載っている心霊スポットです。

そして、その隣にもピンが立っていました。


クリックすると──表示されたのは、〇〇〇湖キャンプ場。


◇◆◇


これが以前、彼から聞いた「怖い夢」の話です。

……なのですが、あの日の取材以降、私はどうしてもこう思ってしまうのです。


彼が見たあれは、本当に“夢”だったのか?


白い行列。あの不協和音。そして、夢と現実が重なるようなあの状況。


もしかすると──彼は夢の中でそれを“見てしまった”のではなく、

夢を通してそれを“見せられた”のではないか、と。


そう思ったとき私は、怖くなって背筋がゾゾゾと冷たくなるのを感じたのでした。


この話、本当なんです。



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