其の六「霊の道」
これから語るのは、もしかすると、これから広まるかもしれない
いや、広まってしまうかもしれない、「怖い作り話」です。
全部で壱百八話。どれも短い物語です。
しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、時に、見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。
そして、ひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。
これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。
この話、本当なんです。
霊の道。そんな言葉を、あなたは聞いたことがあるだろうか。
これは私が、バイク友達から聞いた話。
霊の道。それは、霊たちがこの世とあの世を行き来するための「通り道」だと言われている。
人の目には見えないが、それは古くから、神社や墓地、山道や川辺などにあるとされ、そこに不用意に建物を建てたり、道を塞いだりすると、霊が迷い、災いが起こると言われてきた。
この話は、ある街に実在する「とても高い橋」にまつわるものだ。
その橋は、街の南北をつなぐ重要な交通路であり、景観も美しく、昼間は多くの人が行き交う場所だった。だが、夜になると、そこには別の顔が現れる。
投身自殺。その橋では、なぜかそれが多発していた。
年に数件、時には月に複数件。警察も市も対応に追われ、フェンスを高くしたり、監視カメラを設置したりと、様々な対策が講じられた。
だが、その効果は全くなかった。まるで、何かに引き寄せられるように、人はその橋を選び、命を絶っていった。
ある日、対応に行き詰まりを感じた市の職員が、地元の神社の神主に相談した。
「この橋には、何かあるのではないか」と。
神主は橋を訪れ、南側の入り口に立った。そして、しばらく黙って目を閉じた後、こう言った。
「この橋の南側にある看板が、霊道を塞いでいる」
看板。それは、交通安全を呼びかけるために設置されたもので、橋の入り口に堂々と立っていた。だが、神主によれば、その看板が霊界への通路を遮っており、霊たちが橋に留まってしまっているという。
「霊は進むべき道を失うと、彷徨い始めます。そして、そこに生きた人間が来ると、無意識に引き寄せてしまうのです」
半信半疑ながら、市はその看板を撤去した。
するとそれ以降、その橋での投身自殺はぴたりと止まった。
偶然かもしれない。たまたまかもしれない。だが、それまで何をしても止まらなかった現象が、看板を外した途端に止まったのだ。
神主は言った。
「霊道は、人の都合では動かせません。そこにあるものを、ただ尊重するしかないのです。」
今では、その橋は再び静かな交通路として使われている。昼も夜も、人々が行き交い、風が吹き抜ける。ただ、南側の入り口には、もう看板はない。そして、誰もがその理由を語らない。
霊の道。それは、見えないが、確かにある。
この話、本当なんです。




