其の四「ななふしぎ」
これから語るのは、もしかすると、これから広まるかもしれない
いや、広まってしまうかもしれない、「怖い作り話」です。
全部で壱百八話。どれも短い物語です。
しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、時に、見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。
そして、ひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。
これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。
この話、本当なんです。
学校の七不思議──みなさん、覚えていますか?
誰もが一度は耳にしたことがあるはずです。小学校でも、中学校でも、高校でも。どこにでも存在する、学校という空間に潜む怪異の話。放課後の教室、夜の廊下、誰もいないはずの理科室。そんな場所にまつわる、様々な説話。
たとえば、理科室の標本が夜な夜な動くという話。誰もいないはずの時間に、ガラスケースの中の骨格標本が、カタリと音を立てる。見た者はいない。けれど、音を聞いたという証言はある。
音楽室の肖像画の目が光るという話も有名だ。壁にかけられた古い肖像画。昼間はただの絵なのに、夜になると目が赤く光る。誰かを見ているように、じっと、静かに。
図書室の奥にある「開かずの書架」。そこには、誰も借りたことのない本が並び、時折ページが勝手にめくられるという。風もないのに、紙が揺れる。もしかすると見えない誰かがそれを読んでいるのかもしれない。
保健室のベッドに、誰もいないはずなのに沈み込む跡が残っている。そこに誰かが横たわっていたのか、それとも、まだそこに横たわっているのか。
階段を数えると、なぜか一段多い。上ると十三段、下りると十四段。数えるたびに違う。その余分な一段には、何が潜んでいるのか。
トイレの個室に、誰もいないはずなのに水音が響く。それは誰かが泣いているような声にも聞こえる。そこを覗いてはいけない。声をかけてもいけない。そう言われている。
そして、七つ目。それが何だったか、思い出せますか?
ここで、人は奇妙なことに気づくのです。
七不思議の話は、どこにでもある。しかし、すべてを正確に覚えている人は、ほとんどいない。六つまでは語れるのに、七つ目がどうしても思い出せない。話しているうちに、順番は曖昧になり、数も合わなくなる。
なぜでしょうか。それには、ある説話があるのです。
「七不思議をすべて知ると、呪われる」
七不思議にはそんな言い伝えが語られています。
七つすべてを知った者には、不幸が訪れる。夢に現れる、声が聞こえる、誰かに呼ばれる。
そして、七不思議の世界に引き込まれ、戻ってこられなくなる。
だから、人は七つ目を思い出せない。自然と記憶の中から、そっと消えていく。
そこには、呪いを回避するための「何かの力」が働いているのかもしれません。
人の記憶に干渉し、七つ目の説話を隠す力。語ろうとすると、言葉が詰まり、思い出そうとすると、頭がぼんやりする。何かが守っているのか、それとも、何かが封じているのか。
実はこの「七つ目を思い出せない」という現象自体が、七不思議のひとつなのです。
つまり、七不思議は常に「六つの説話と一つの忘却」で構成されているのです。
語る者は、知らず知らずのうちに、その構造に巻き込まれていく。七つ目を探そうとする者は、何かに触れてしまう。だから、七つ目は思い出さないほうがいい。語らないほうがいい。
でも、もしもあなたが、今、七つすべてを思い出してしまったなら。
その時は、静かに目を閉じてください。
耳を澄ますと、あなたを誘う誰かの声が聞こえるかもしれません。
この話、本当なんです。




