其の四十四「怪貌千変」
これから語るのは、もしかするとこれから広まるかもしれない
いや、広まってしまうかもしれない「怖い作り話」です。
全部で壱百八話。どれも短い物語です。
しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、
時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、
時に見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。
そしてひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。
これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。
この話、本当なんです。
皆さん、こんな話を聞いたことがありますか。
同じ心霊スポットに現れる幽霊なのに、それを見た人全員の言う姿が、まるで一致しないという話を。
ある人は「女性の幽霊だった」と言い、ある人は「男性の幽霊だった」と言う。
ある人は「赤いコートを着ていた」と言い、ある人は「赤い革ジャンを着ていた」と言う。
ある人は、少女の幽霊で、世の中で言う有名なところの花子さんのようだったと言えば
ある人は、少年の幽霊で、世の中で言うマイナーなところの太郎君のようだったと言う。
同じ場所に現れるはずの幽霊なのに、語られる姿はすべて違う。
私はこの話を聞いたとき、なぜそうなるのかと疑問に思いました。
そこで、自分なりに考察をしてみたのです。
ここからは、私が考えたこの心霊スポットに現れる「幽霊の正体」です。
結論から言えば、ここに現れる幽霊は
「見る人にとって一番怖いと感じる姿が投影された幻」ではないかと。
心霊スポットという「何かが出そうだ」という先入観。
そして、夜の闇や湿った空気、異様な静けさといった場の雰囲気。
それらが重なり合い、そこに立った人の深層心理に眠る「幽霊の姿」を呼び覚ます。
だから、そこで見る幽霊は人によってすべて違った姿をしている。
つまり、強い思い込みが生んだ幻なのです。
その場に立った人たちが見たのは、幽霊ではなく、自分自身の恐怖心が形を取ったもの。
自らの心が、自分にとって一番怖い姿を作り出してしまったのではないか。
ただ、これにはもう一つ考えられることがあります。
それは「ここに現れる幽霊は、見る人にとって一番怖い姿になって現れる、変化自在な存在なのではないか」ということ。
心霊スポットという「何かが出そうだ」という先入観。そして、夜の闇や湿った空気、異様な静けさといった場の雰囲気が、人の心の奥底に眠る恐怖を呼び起こす。その恐怖を模倣して現れる怪異という存在。
だから、そこに現れる幽霊は、見た人によってすべて違った姿をしている。
つまり、強い思い込みを読み取って形を変える、変幻自在な怪異的存在。
幻か、怪異か。 どちらが正しいのかは分かりません。
これ自体、私のただの妄想に過ぎないのかもしれません。
ですが、もしあなたがその場に立ち、目の前に「あなたの一番恐れる姿」でそれが現れたとき。
あなたはそれを、幻だと考えますか?
それとも、あなたの恐れを模倣した怪異だと考えますか?
幻であれば、あなたの心が作り出したもの。
怪異であれば、あなたの心を読み取り、恐怖を形にして現れたもの。
どちらにせよ、あなたが恐れているものが目の前に立っている。
その瞬間、あなたは逃げられるでしょうか。
それとも、恐怖に足を縫い止められ、ただ見つめるしかないでしょうか。
因みに、この逸話のある心霊スポットの場所は……伏せておきます。
知ってしまえば、行ってみたくなる人もいるでしょう。
でも、もし本当にそこに立ち、あなたの恐れが形を取って現れたら……
この話、本当のようなので、探さないでください。




