其の参十「神様の真似事」
これから語るのは、もしかするとこれから広まるかもしれない
いや、広まってしまうかもしれない「怖い作り話」です。
全部で壱百八話。どれも短い物語です。
しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、
時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、
時に見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。
そしてひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。
これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。
この話、本当なんです。
神様の真似をしてはいけない。先日、私はそんな話を聞きました。
最初は、ただの迷信だと思っていました。神様の真似?それがどうしていけないのか。演劇や祭りでは神様の役を演じることもある。神話を語るとき、神の言葉を借りることもある。だから、私はその話を聞いたとき、少しだけ笑ってしまったのです。
しかし、話を最後まで聞き終えたとき、私はもう笑えなくなっていました。
その話は、ある男の話でした。彼は、悪ふざけで神様の真似をしたのです。
白い衣をまとい、神のような口調で語り、人々の前に現れました。
冗談半分で「願いを叶えてやろう」と言い、手を差し伸べる。
周囲は最初こそ笑っていましたが、次第に彼を「本物」だと思い始めたのです。
人は、信じたいものを信じる。彼のもとには、神頼みに来る人々が集まり始めました。
病を癒してほしい者。失ったものを取り戻したい者。
誰かを許してほしい者。誰かを消してほしい者。
男は、最初は戸惑いながらも、演技を続けました。
神様の真似をしているだけなのに、周囲は彼を神様だと認識してしまったのです。
そして、ある日。彼の前に一人の女が現れました。彼女は、静かに願いを口にしました。
「私の願いは、ある人をこの世から消すことです」
男は、冗談のつもりで微笑みながら言いました。
「その願い、叶えてやろう」
しかし、願いは叶いませんでした。当然です。
男は神様の真似をしているだけで、神様ではないのですから、そんな力など持っていません。
女は、願いが叶わないことに怒り、そして、自らその願いを叶えたのです。
その場で彼女は神様の真似をした男を刺しました。そして女は、静かに立ち去ったそうです。
突然のことでした。
誰もそれを止めることができず、何が起きたのか理解することもできませんでした。
ただ、ひとつだけ確かなのは、女の願いは叶ったということ。
男は、彼女の前から姿を消した。
神様の真似をしていた男は、神様のように扱われ、神様のように願いを託され、
そして、神様のように責任を負わされた。
でも、彼は神様ではなかった。
真似をする方も、真似をする方。信じる方も、信じる方。
真似をした男も、信じた女も、それぞれに自業自得だったのかもしれません。
私は、この話を聞いてから、神様という言葉に少しだけ慎重になりました。
人は、藁にも縋る気持ちで何かを信じたいとき、目の前のものを神様にしてしまう。
それが人であろうと、ただの演技であろうと。
そして、願いが叶わなかったとき、その神様は、罰を受ける。
神様の真似をしてはいけない。それは、ただの戒めではない。
人の信仰は、時に現実を超えてしまう。
そして、現実を超えた信仰は、現実の中で誰かを壊してしまう。
これは神様の真似をした男が叶えられなかった願いを、
それを願った本人に叶えられてしまった話。
私は、この話、本当だと思います。




