其の弐十八「確約されたもの」
これから語るのは、もしかするとこれから広まるかもしれない
いや、広まってしまうかもしれない「怖い作り話」です。
全部で壱百八話。どれも短い物語です。
しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、
時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、
時に見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。
そしてひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。
これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。
この話、本当なんです。
これは本当なので、どうか探さないでください。
DNS、あるいはDSNSと呼ばれるソーシャルネットワークサービスがある。
そんな噂を、あなたは聞いたことがあるでしょうか。
私は友人からこの話を初めて耳にしたとき、その略称のあまりの安直さに、
思わず飲んでいたビールを吹き出しそうになりました。
DNS。デス・ネットワーク・サービス。
あるいはDSNS。デス・ソーシャル・ネットワーク・サービス。
死のSNS。まるで中学生が考えたようなネーミングだと思いませんか。
しかし、私はその軽薄な響きとは裏腹に、
これがとても恐ろしいものだと、後になって知ることになりました。
このDNS、DSNS、「投稿すると必ず死ぬ」と言われているのです。
正直最初は、都市伝説の一種だろうと笑っていました。
ネットの奥底に潜む、誰かの創作。そう思っていたのです。
しかし、それについて興味本位で調べ始めた私は、次第に笑えなくなっていきました。
DNSに関する情報は、表の検索ではほとんど出てきませんが、ある層の掲示板や、アーカイブされたログの中に、断片的な証言が残されていました。
「投稿したら、すぐに“いいね”がついた。」
「最初のコメントは優しかった。でも、そこから地獄が始まった。」
「通知が止まらない。音を消しても鳴り続ける。誰か助けて!」
そんな言葉が、いくつも、いくつも。
DNSに投稿すると、すぐに最初の“いいね”がつくそうです。
続いて、コメント通知が鳴り、投稿は拡散される。反応があることに、投稿者は喜びを感じます。
ですが、それは悪夢の始まり。
最初のコメントは、たしかに好意的なものだといいます。共感、賞賛、励まし。
しかし、その後に続くコメントは、すべてが悪意に満ちた酷いものなのです。
人格否定、嘲笑、罵倒、脅迫。それらが、まるで湧き出すように、秒単位で増えていく。
通知をオフにしても、なぜか音は止まらない。
スマホを再起動しても、電源を切っても、通知音は鳴り続ける。
投稿は削除できない。アカウントも消せない。ログアウトもできない。
ただ、延々と、悪意のコメントが届き続ける。
それは、まるで“呪い”のようだと、ある書き込みには記されていました。
そして、投稿者は、心労の果てに、自ら命を絶ってしまう。
私は、ここまで調べて、そっとパソコンの電源を落としました。
これは、興味を持って調べるべきものではない。
深入りしてはいけない領域だと、直感的に感じたからです。
世間一般のSNSでも、炎上騒ぎは珍しくありません。
何気ない一言が拡散され、誤解され、悪意の渦に飲み込まれる。
そうして、取り返しのつかない結末を迎える人もいます。
けれど、DNS、DSNSは違う。
これは、最初から“炎上”が確約されたSNSなのです。
投稿した瞬間に、死へのカウントダウンが始まる。
誰が作ったのか。なぜ存在するのか。どうやってアクセスするのか。
私はそっと、ノートパソコンを閉じました。
これは深入りしてはいけない。
なのでこれ以上のことについては、私的に謎のままです。
ただ、ひとつだけ確かなのは
この話、本当なので、どうか探さないでください。




