其の弐十四「過労死」
これから語るのは、もしかするとこれから広まるかもしれない
いや、広まってしまうかもしれない「怖い作り話」です。
全部で壱百八話。どれも短い物語です。
しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、
時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、
時に見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。
そしてひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。
これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。
この話、本当なんです。
これは、ある心霊スポットで起きたという、とても不幸な話です。
その場所は、誰もが知っている有名な心霊スポットでした。
山の中腹にある廃墟のような施設跡で、かつてそこは何かの研修所だったとも、
病院だったとも言われていますが、正確な記録は残っていません。
ただ、そこが「幽霊が出る」と噂されるようになったのは、
ある男性の死がきっかけだったと聞いています。
その男性は、過労で心を病み、鬱状態のまま行方不明になった末
数日後にその場所で遺体となって発見されたそうです。
自ら命を絶ったのか、事故だったのか。
それも定かではなく、ただ「彼はここを最後の場所に選んだ」とだけ語られていました。
それ以来、この場所では心霊写真が撮れる、怪奇現象が起きる、声が聞こえる。
そんな報告が相次ぎ、心霊スポットとして知られるようになりました。
有名観光地ほどではありませんが、肝試しや心霊巡りを目的に
ここを訪れる人は後を絶ちませんでした。
若者たちが夜中に車で乗りつけ、スマホ片手に騒ぎながら廃墟に入っていく。
中には動画配信のネタにする者もいたと聞きます。
しかし、ある時を境にその場所にまつわる怪奇現象の報告が、ぴたりと止んだのです。
写真に何も写らなくなった。音も聞こえなくなった。誰も「何かを感じた」と言わなくなった。
それは、まるでその場所が「普通の廃墟」に戻ったかのようでした。
それを不思議に思った霊能者が、現地に赴き霊視を試みたそうです。
そして、その霊能者は、手を合わせたまま静かに涙を流したといいます。
「もう、ここには何もいません」
そう言って、霊能者は静かに語りました。
ここを自身の最後の場所に選んだ男性の霊は、訪れる人々に次々と呪いをかけていたのだと。
彼は、自分の苦しみを誰かに伝えたかったのか、
あるいは誰にも気づかれずに死んだことへの怒り、それが呪いだったのかもしれません。
しかし、その場所はあまりにも多くの人が訪れた。多くの人が訪れ過ぎた。
彼は、ここに来る者すべてに呪いをかけ続けていたのです。
一人、また一人。夜ごと、昼ごと。週末、連休、夏休み。
その呪いは、怨念というより、もはや作業のようになっていったのかもしれません。
そして、ついに彼は霊として「過労死」したのです。
延々と呪いをかけ続けた末に、力尽きて消えてしまったのです。
今、その場所にはもう、幽霊はいないと言われています。
そこはただの廃墟。誰もが騒ぎ立て、写真を撮り、何も感じずに帰っていく。
でも、私は思うのです。
それは、怖くない場所になったのではなく
あまりにも哀しい場所になったのではないかと。
誰にも気づかれずに死んだ人が、死後も誰にも気づかれずに消えていく。
その場所に残るのは、ただの静けさだけ。
そこにはもう霊はいない。それでも、私はそこへ行こうとは思いません。
何も感じないからこそ、そこには終焉の気配が漂っているような気がするのです。
この話、可哀想ですが本当の話なんです。




