其の弐十壱「第一発見者」
これから語るのは、もしかするとこれから広まるかもしれない
いや、広まってしまうかもしれない「怖い作り話」です。
全部で壱百八話。どれも短い物語です。
しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、
時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、
時に見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。
そしてひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。
これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。
この話、本当なんです。
これは、私が若い頃、友人から聞いたある女性Aさんの話。
Aさんは、見た目も性格もごく普通の人だった。
職場では穏やかで、誰にでも丁寧に接する。趣味は読書と散歩。
特に変わったところはない。
しかし、Aさんにはひとつだけ、妙な「傾向」があった。
それは、なぜか事件や事故の「第一発見者」になってしまうということ。
友人が最初にその話を聞いたのは、彼女の職場の休憩室だった。
「Aさん、また見つけちゃったんだって。」
彼女の同僚がそう言って、耳打ちするように少しだけ声を潜めた。
「今度は、駅のホームで倒れてた人。誰も気づいてなかったのに、Aさんだけが気づいたらしいよ。」
彼女はそれを偶然だろうと思った。
そんなのたまたま通りかかっただけで、誰にでも起こりうることだと。
だが、同僚が言うにそれは一度きりではなかった。
公園のベンチで亡くなっていた高齢者。深夜の交差点で起きた交通事故。
河川敷で見つかった遺体。
以前からAさんは、なぜかいつも「最初に見つけてしまう」らしい。
Aさんについて、同僚の話は続く。
Aさんは、いつも人の少ない時間帯に行動している。
朝早く、夜遅く。それはまるで、できるだけ人のいない場所と時間を好むようにも見える。
だが、それはただの「好み」だけでは無いのではと思いながら
彼女は同僚の話を聞いていた。
そんなある日、彼女とAさんに二人で昼休みに話す機会があった。
その時彼女は、思い切ってこのことをAさんに聞いてみることにした。
「どうして、そんなに事件や事故に遭遇するんですか?」
それにAさんは、しばしの沈黙のあと
少し考えるようなしぐさをしながら、こう言った。
「わからないのだけど、昔からそうなの。小学生のとき、通学路で倒れてた人を見つけたのが最初。中学では、校舎裏で怪我して動けなくなってた子を見つけた。高校では、電車の中で意識を失った人に気づいた。」
「それって、偶然ですよね?」
「うん、そう思ってた。でも、あるとき、母に言われたんです。あなたは、呼ばれてるのかもしれないね、と。」
その言葉に、彼女はぞっとした。呼ばれている?誰に?
Aさんは、それ以上語らなかった。
そしてある日、Aさんは職場に来なくなった。理由は、事故だった。
早朝、通勤途中の踏切で、倒れていた人を助けようとして自らも巻き込まれたという。
新聞には「勇敢な女性」として報じられていた。
だが、彼女は思った。Aさんは、「呼ばれた」のではないか。
そして、今度は戻ってこられなかった。
それ以来、彼女は人の少ない時間帯に外を歩くことを避けているらしい。
誰もいないはずの場所に、何かが「待っている」
そしてそれに「呼ばれるのではないか」そんな気がするのだとか。
これが私が若い頃、友人から聞いたある女性Aさんの話。
もし、あなたが何度も事件や事故の第一発見者になっているなら。
それは、偶然ではないかもしれません。
それはもしかすると「呼ばれている」のかも。
この話、本当なんです。




