其の弐十「いってはいけない」
これから語るのは、もしかするとこれから広まるかもしれない
いや、広まってしまうかもしれない「怖い作り話」です。
全部で壱百八話。どれも短い物語です。
しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、
時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、
時に見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。
そしてひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。
これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。
この話、本当なんです。
検索して興味を持っても行ってはいけない。
世の中にはそんな場所があるという話を聞きました。
これは私が実際に体験したことと、友人から聞いた話が重なった
少し不思議で少し怖い話です。
私は小説を書いており、舞台のモデルにした土地へ取材に行くこともあります。
現地で見た風景や空気感を作品に落とし込む。それを大切にしていますが、
取材からの帰宅後「あれ、あそこどうなっていたっけ?」と細かい部分を思い出せないこともあります。
そんなときに便利なのが、グーグルマップのストリートビュー。
以前、作中に登場させた地下鉄駅の出口番号がどうしても思い出せず
ストリートビューで確認したところ、見事に解決しました。
そんなこともあり、とても重宝しています。
それはそれとして。
ある日のこと。
私はふとした興味で自宅付近のストリートビューを見たことがありました。
そこに映っていたのは、家の前で庭掃除をしている私の姿。
思わず笑ってしまいました。もちろん顔にはぼかしが入っていましたが
服装で自分だとすぐに分かりました。
まさか自分が写っているとは思わず、少し驚きながらも面白がっていたのです。
その話を、後日友人にしたときのことでした。
話を聞いて最初は笑っていた彼女でしたがその後、少し真顔になってこう言いました。
「ストリートビューで、ぼかしを入れる必要がないのにぼやけている場所を見つけたら、そこには行ってはいけないって話、知ってる?」
それを知らなかった私は、首をかしげました。
「人が写ってるわけでもない、車のナンバーがあるわけでもない、明らかに申請されて消されたようにも見えないのに、なぜかぼやけている場所がある。そういう場所には…霊がいるらしいの。」
彼女の言葉に、私は少し笑いながら返しました。
「それってAIさんの処理で、隠すべきものに似てるからぼかして消されてるだけじゃないの?」
ストリートビューでは、顔やナンバーに似た形状をAIに誤認されて自動でぼかされることはあると聞いたことがありました。だから技術的な誤りだと考えれば、説明はつくと思っていたのです。
でも、それに彼女は首を振りました。
「それがね、それで説明がつかない場所があるの。」
彼女はそれを実際に見たことがあるという。
そしてこんな話を聞かせてくれました。
ある山間の道。誰もいない。建物もない。ただ、木々が並ぶだけの風景。
その一角だけが、妙にぼやけている場所があった。
それはまるで、その場所が現実ではないかのように。
「もちろん、これは聞いた話で私はそこに行ってないよ。怖いし。でも、これも聞いた話だけどその場所に行った人がいたみたいで…その人、帰ってこなかったんだって。」
私はごくりと唾を飲み、言葉を失った。
ストリートビューは、カメラで現実を写したものだと思っていた。
しかし、この話のようにもしもその中に「現実ではないもの」が紛れ込んでいたとしたら。
誰もいないはずの場所に、誰かが「いる」。
誰も申請していないはずの場所が、なぜか「隠されている」。
それは、見てはいけないものなのか。
それとも、見つけてしまったから、何かが始まるのか。
私は、それ以来、ストリートビューを見るときに少しだけ注意するようになりました。
画面の端に、ぼやけた場所がないか。
誰もいないはずの道に、何かが写っていないか。
そして、もし見つけてしまったとき
私はそこに、絶対に行かないことを決めています。
そしてこの話、友人が言うには本当らしいです。




