其の十九「かき消された怖い話」
これから語るのは、もしかするとこれから広まるかもしれない
いや、広まってしまうかもしれない「怖い作り話」です。
全部で壱百八話。どれも短い物語です。
しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、
時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、
時に見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。
そしてひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。
これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。
この話、本当なんです。
心霊スポットの中には、時に誰にも知られていない場所があるらしい。
これは、私がとある喫茶店で友人から聞いた怖い話。
その友人は昔から心霊や怪談に興味があり、各地の心霊スポットを巡るのが趣味。
その日、彼がふと口にしたのは、ある公園の話。
その公園は、かつて地元では「出る」と噂されていた場所だった。
夜になると、ブランコが誰も乗っていないのに揺れていたり、
ベンチに座る人影が消えたり、子供の笑い声が聞こえたり
そんな話が、ひっそりと語られていた。
だが、ある時期を境に、その公園の心霊話はぱったりと聞かれなくなった。
理由は、凶悪な暴力事件が起きたから。
その公園で若い男性が複数人に襲われ、命を落とした。
犯人は未成年で、動機も曖昧。
報道は連日過熱し、世間の注目はその事件に集中していく。
その日を境に公園は心霊スポットではなく「事件現場」として
人々に記憶されるようになったのだ。
そして時は過ぎ、誰もがその公園にまつわる心霊話を忘れていった。
「今、あの公園が心霊スポットだったことを知っている人は、どれくらいいるんだろうね」
友人はそう言って、コーヒーを一口飲んだ。
心霊スポットというのは、何かが「残っている」場所だと思っていた。
過去の悲劇、未練、記憶。そうしたものが、形を持たずに漂っている場所。
でも、あの公園は違った。そこには、形を持った「恐怖」があった。
人間が引き起こした、現実の暴力。
それは、幽霊よりもずっと生々しく、凶暴で、とても冷たい。
「心霊スポットは怖いよ。でも、それ以上に人間はもっと怖い」
友人の言葉が、妙に重く響いたことをとても良く覚えている。
その後、私はその公園について少し調べてみた。
事件の記録は残っていた。犯人の供述、被害者の名前、裁判の経過。
だが、心霊に関する情報は、ほとんど見つからなかった。
まるで、誰かが意図的に消したかのように。
そんな中私は、ある掲示板でひとつだけ気になる書き込みを見つけた。
「あの公園、昔は幽霊が出るって言われてた。でも、事件のあとから、何も見なくなった。むしろ今は、静かすぎて怖い」
それを読んだとき、私はぞっとした。幽霊が出なくなったのではない。
もっと強い「恐怖」が、その場所の空気を塗り替えたのかもしれない。
人間の行為が、霊的な気配すら押しのけてしまったのだとしたら
それは、いったい何を意味するのだろう。
私は、その場所に行ったことはない。
でも、もし行くことがあったら
夜の静けさの中で、何かが「いない」ことに気づくかもしれない。
それは、幽霊ではなく。それ以上の、もっと深い「何か」。
この話、本当なんです。




