其の十参「もうひとつのこっくりさん」
これから語るのは、もしかするとこれから広まるかもしれない
いや、広まってしまうかもしれない「怖い作り話」です。
全部で壱百八話。どれも短い物語です。
しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、時に見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。
そしてひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。
これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。
この話、本当なんです。
これは私がある居酒屋で女将さんから聞いた話。
場所も店名も伏せさせてもらいますが、女将さんはとても気さくで話好きな方で
その日、常連さんが語った「こっくりさん」の話に触発されて
彼女もぽつりと「私も昔、やったことがあるのよ」とこれを話してくれたのでした。
それは、彼女がまだ中学生だった頃のこと。
放課後、彼女は友達3人でこっくりさんをしたという。
この学校でもこっくりさんは禁止されていたのですが、
若さからくる好奇心にはやはり勝てず。
紙に「はい」「いいえ」「ひらがな」を書き、
10円玉を置いて準備をし、指を添えて静かに呼びかけます。
「こっくりさん、こっくりさん、いらっしゃいましたら、どうぞおいでください」
最初は何も起きずに10円玉は紙の上でじっとしていた。
誰かが業を煮やして動かすのではないかと互いに疑いながらも、質問を続けた。
その時、何を聞いたのか。それは、彼女は覚えていないという。
ただ、答えの中に、ひとつだけ鮮明に覚えている言葉があった。
「わ・た・し・は・や・け・し・ぬ」
私は焼け死ぬ。その言葉を指した瞬間、3人は顔を見合わせた。
誰かが動かしているのではないか。そう思った。
互いの顔を見ると誰も笑っていなかった。誰もふざけていなかった。
それに気付き彼女たちの指先はフルフルと震えていた。
「動かしてないよね?」
「うん…私じゃない。」
「私も…」
互いに確認し合い、誰も動かしていないことを確かめた。
その後、彼女たちはこっくりさんを終える儀式をして、紙を破り、10円玉を神社に返したという。怖かったけれど、これで終わった。と思っていた。
女将さんは、語りながら笑っていた。
「何を聞いたのかは、ほんとに覚えてないの。でもね、『私は焼け死ぬ』って言葉だけは、今でも忘れられないのよ。」
私は、彼女がこうして元気に話してくれていることに内心ほっとした。
「でも、無事だったんですよね?」
そう尋ねると、女将さんは少しだけ間を置いて、こう言った。
「私はね、大丈夫だったの。でも……」
彼女は、グラスを拭く手を止めた。
「その後、こっくりさんをした3人のうち、ひとりの家が火事になったの。夜中に突然、台所から出火して。家族は逃げたけど、彼女だけ……」
言葉を濁しながら、女将さんは目を伏せた。
「私は焼け死ぬ。あれは、誰の言葉だったのか、今でもわからないのよ。」
私は、何も言えなかった。
女将さんは、静かにグラスを棚に戻しながら、最後にこう言った。
「こっくりさんってね、遊びじゃないのよ。だから、もう二度とやらないって決めたの。」
私はこの話を聞いて、様々な降霊術の話を聞いても、それに興味を持っても
自分はそれを絶対やらないと心に硬く決めました。
そしてきっとこの話は、本当なんだと思います。




