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これから広まるかもしれない怖い作り話  作者: 井越歩夢


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11/53

其の十「怪しいお札」

これから語るのは、もしかするとこれから広まるかもしれない

いや、広まってしまうかもしれない「怖い作り話」です。


全部で壱百八話。どれも短い物語です。


しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、時に見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。


そしてひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。

これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。


この話、本当なんです。


これは私が、ずっと前に聞いた話。それはこんな内容でした。


ある地方に、心霊スポットとして知られる古い建物があった。

(場所の詳細は控えさせていただきます。)

それは長い事放置された廃屋のようで、昼間でも薄暗く、夜にはそうそう誰も近づかない。

地元では「入ると何かが憑く」と噂されていたが、時折、この場所へ肝試しに訪れる若者がいた。


この日も、怖いもの好きの青年四人がその建物へと向かっていた。


彼らは高校時代からの友人同士で、怪談や都市伝説が好きだった。心霊スポット巡りや肝試しも何度も経験しており、多少の怖さでは動じないつもりでいた。だが、この建物には、ひとつだけ妙な噂があった。


「奥に、怪しいお札が貼ってあるらしい」


誰が貼ったのか、何のためなのかはわからない。ただそれに「触れてはいけない」「見てはいけない」「近づいてはいけない」と言われていた。彼らはそれに興味を惹かれ、そこに行くことにしたのだ。


夜の0時を過ぎるころ、四人は懐中電灯を手に建物の前に立った。外壁はひび割れ、窓は割れ、風が吹くたびに軋む音がした。

だが、彼らは「怪しいお札」への期待を胸に中へ入っていった…その瞬間、一人が叫んだ。


「ここは本当にヤバい!」


声を上げたのは、四人の中で普段は冷静な性格の青年だった。彼は、建物に足を踏み入れた途端、何かに圧迫されるような感覚を覚えたという。空気が重く、懐中電灯の光も、どこか鈍くなったように感じていた。だが、他の三人は彼のそんな様子を笑っていた。


「ビビってんのかよ」「いつもの肝試しだろ」


そう言いながら何事も無いように奥へと進んでいく。彼も仕方なく後に続くことにした。


建物の中は、思った以上に広かった。廊下は長く、部屋はいくつも並んでいた。壁には古いポスターや以前ここに来たであろう誰かが残した落書きがあった。ギシギシと床は軋み、天井からはポツリ、ポツリと水滴が滴り落ちている。


そして、彼らは最奥の部屋にそれを見つけた。


壁の中央に、貼られていたのは一枚の「お札」だった。白い紙に、黒々とした筆文字。何が書かれているのかは判読できなかったが、それはただならぬ気配が漂っていた。紙の周囲には、赤い線が描かれており、まるで何かを封じ込めているようだった。そしてその下には、手書きの注意書きが貼られていた。


「触れるな」


それを誰が書いたのかはわからない。紙も古びており端は破れていた。だが、その文字だけは、妙に新しく見える。それはまるで、今この瞬間に書かれたかのように。


四人は、言葉を失った。笑いも、冗談も、出てこなかった。ただ呆然とそこに立ち、じっとそのお札を見つめていた。じりッと誰かがそこに近づこうとすると、他の誰かが慌ててそれを止めた。その間その場の空気はピーンと張り詰め、まるで時間が止まったようだった。


「帰ろう」


誰かがそう言った。そして、彼らは静かに建物を後にした。

その後、彼らの間では、あの夜の話はほとんど語られなかった。何かを見たわけではない。何かが起きたわけでもない。だが、あの「お札」の前で感じたものは、確かに「異質な何か」だった。


その後、彼らの一人は数日後に高熱を出し、病院では原因不明と言われた。もう一人は、夢にあの部屋が出てきたという。残りの二人は、何もなかったと言っていたが、あの日以降、妙に無口になった。


そして、誰も二度とあの建物には近づかなかった。


これが、私が聞いた話です。


噂にあった「怪しいお札」は、確かにあの建物の奥に存在していたと聞きました。

ただそれを誰が描いたのかも、そして何を封じていたのかも、今となってはわかりません。


ただひとつ、言えることがあります。


私の聞いたこの話、本当の話なのです。



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