其の壱百四「手乗り貞子」
これから語るのは、もしかするとこれから広まるかもしれない
いや、広まってしまうかもしれない「怖い作り話」です。
全部で壱百八話。どれも短い物語です。
しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、
時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、
時に見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。
そしてひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。
これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。
この話、本当なんです。
皆さんは、最近テレビを見ますか。
私はここ十年ほど、ほとんど見なくなりました。
ただ、そのきっかけが何だったのか――それがまったく思い出せません。
今では、記事のネタも、Web小説も、そしてこの「怖い作り話」のアイデアも、
ほとんどがスマートフォンやタブレットで見る動画配信サービスから拾っています。
それはそれとして。
これは、私が参加――いえ、幹事というか、ほぼ主催していた飲み会の中で話題になった、
とある“怖いようで怖くない、でも思い出してみたらやっぱり怖かった話”です。
◇◆◇
その日、私たちはお酒を飲みながら、日本のホラー映画の話をしていました。
題材は映画「リング」。
怖い話は好きなのに、視覚的なホラーは本当に苦手な私。
ホラー映画なんて、まず見ません。
(時々、ホラーだと知らずに再生してしまい、思った以上にホラーだった……という事故はありますが)
なので、リングの内容も断片的にしか知りません。
ただ、貞子さんがテレビから出てくるシーン――あれだけは強烈な印象と共に覚えています。
映画が公開されたのは1998年。
当時、深夜にテレビをつけていると、
「……ここから貞子さんが出てきたらどうしよう」
そんな想像をして背筋がゾゾゾと震え、慌ててテレビを消して布団に潜り込んだことがあります。
その話をすると、飲み仲間たちは「怖がりすぎ!」と笑っていました。
そして、誰かがぽつりと、こんなことを言ったのです。
「昔はテレビだったけど、今ってスマホとかタブレット見る人が多いじゃない?
それだと貞子も、スマホから出てきたりするのかな?」
「そんな小さい画面から出てきたら、“手乗り貞子”じゃん!」
手乗り貞子。
スマホからスッと出てきて、ちょこんと手のひらに乗る貞子さん。
そんな姿を想像した瞬間、妙に可愛くて、私は飲んでいたお酒を吹き出しそうになりました。
「ちょっと、なにそれ可愛い!」
みんなも同じ想像をしたらしく、飲み会は笑い声に包まれました。
◇◆◇
……あれから数年後。
ふとこの話を思い出した私は、スマホの画面を見つめながら、
あの“手乗り貞子”を再び想像してしまいました。
小さくて、可愛くて、マスコットみたいに――ちょこん、と手のひらに乗る貞子さん。
想像して思わず笑ってしまい、そして――ピタリと笑いが止まりました。
そう。あの時、私たちは大事なことを忘れていたのです。
貞子さんは、大きくても小さくても、貞子さんだということ。
どれだけ可愛く見えても、
どれだけ小さくても、
どれだけ手のひらサイズでも――
呪いという“持っている力”は変わらないのだと。
それを思い出した瞬間、急激に背筋がゾゾゾと冷え、
頭の中から“可愛い手乗り貞子”の姿を慌てて追い出しました。
怖い話を可愛くアレンジすること自体は、悪いことではないと思っています。
実際、私も可愛い幽霊のイラストは好きです。
でも――どんなに可愛くしても、怖いものは怖いもの。
その本質は変わらない。
そのことを、改めて思い出した瞬間でした。
皆さんも、油断しないようお気をつけください。
怖いものは、いくら可愛くしても、やっぱりどこか怖いものなのだと――
この話、本当なんです。




