其の壱百壱「逝路案内」
これから語るのは、もしかするとこれから広まるかもしれない
いや、広まってしまうかもしれない「怖い作り話」です。
全部で壱百八話。どれも短い物語です。
しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、
時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、
時に見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。
そしてひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。
これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。
この話、本当なんです。
その日、私は珍しくタクシーで移動していました。
そうせざるを得ない状況――飲み会です。
移動に十五分ほどかかることもあり、私は運転手さんに、
「タクシーにまつわる怖い話、何かありませんか」と尋ねました。
「まさかお客さんが、創作怪談の風間先生だったとは。
いつも背筋がゾゾゾとなりながら読ませていただいてますよ(笑)。」
運転手さんは、少し笑いながら、ひとつ話を聞かせてくれました。
◇◆◇
タクシー怪談といえば、乗客が幽霊だった――そんな話が有名です。
ですが、その“逆”の話もあるのだといいます。
「運転手が“オクリビト”なんですよ。」
オクリビト。それは“乗客をあの世の入り口へ連れていく運転手”のこと。
自らこの世を去りたいと願う人の前にだけ現れ、
その人が望む“最後の場所”まで静かに送り届けるのだとか。
しかもその運転手、なかなか気が利くらしく、
目的地に着くまで世間話をしたり、時には寄り道までして楽しませたりもするという。
そして目的地に着くと、最後にタクシーを降りる乗客へこう言うのです。
「行きなさい。」
その瞬間、運転手の顔は――真っ白な骨になるのだとか。
◇◆◇
「先生、この話、本当なんですよ。どうです?背筋がゾゾゾとしましたか?」
「“行ってらっしゃい”じゃなく“行きなさい”ですか……もしかすると“逝きなさい”なのかもしれませんね。」
「そうかもしれませんねぇ。まあ、この話、実際にあった話をもとにした怖い話だと思うんですけどね。」
そう言って、運転手さんはさらに続けます。
彼の語った2つ目の話。それはこんな内容でした。
◇◆◇
それは数年前のこと。
夜遅く、客を乗せたタクシーがある観光地へ向かっていました。
そこは橋から見下ろす絶景が評判の場所です。
乗客は明るい女性で、よく話す人だったといいます。
運転手はその話を聞きながら車を走らせ、目的地に到着すると彼女を降ろしました。
そんな彼女が、その日最後の客でした。
帰宅後、運転手はふと気になりました。
真っ暗なあの場所に、彼女は何をしに行ったのか。
待ち合わせか、迎えが来るのか――。
しかし、乗客を目的地まで届けるのが仕事。
彼は深く考えず、その日は休みました。
翌日。
ニュースを見ながら出勤準備をしていた運転手は、息を呑みました。
昨夜遅く、〇〇大橋から女性が飛び降りた――
そんなニュースが流れていたのです。
運転手は、彼女を“人生最後の場所”へ送り届けてしまっていたのでした。
◇◆◇
私は運転手さんの語る2つの話を手早くノートに書き留めました。
そしてその話がちょうど終わるころ、タクシーは私の自宅前に到着しました。
「ありがとうございました。」
運賃を支払い、降りようとした私に、運転手さんはふと声をかけました。
「そうそう、風間先生。さっきの話なのですけどね、2つ目の話……あのときの運転手は、私なんですよ。」
この話、本当なんです。




