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Case11




 家財が催すは、幽雅で華霊な舞踏会。




 アルゲントはいつも通りの朝を過ごしていた。新聞を読み、コーヒーを飲む。


 いつも通りの風景を睨んでいたうさぎの姿をした妖精・グレムリンのリックからの貫くような視線の弾丸をかわし、俺はいつも通り依頼を待っていた。


 ここまでの流れが全ていつも通りなので、しばらくして鳴らされたノック音はクラークのものだと思ってしまった。よくよく考えてみるとクラークがノックなんてしないだろうと思い直し、入室を促す。

 

 入ってきたのは、身なりの整った老婦人。ご年配の方は少し珍しいなと思いつつ、席を勧める。


「こんにちは、本日はどのようなご要件で?」


「こんにちは。……今日こちらにご相談したいのは、わたしの家で起こっている不思議な出来事についてで……」


「不思議な出来事?」


「ええ、数日前からかしら……私の家の道具がひとりでに動き出すの」


「なるほど……、"ポルターガイスト"現象ですか」


 ポルターガイスト、言わずと知れた心霊現象の一つ。建物内の物体が浮遊したり、誰もいないはずなのにどこかから物音がしたりするなど、様々な事例が世界各地で報告されている。


「ええ、私もそう思って……今回ご依頼したいのは、幽霊の仕業なのかそれ以外の仕業なのかどうかの調査なの。幽霊なら()()んだけれど、まだ分からないから安心できなくて……」


 これを読んでいる「幽霊ならいい」という言葉の理解に苦しむ諸君のため、補足を入れておく。英国は古くから神秘的なものと関わりが多くあるため、一般の人々にも幽霊などの不思議なものには多少馴染みがあるのだ(例:超常現象の起きる物件は価値が高くなる傾向がある)。


「なるほど、分かりました。その依頼、引き受けさせていただきます。では早速ではありますが、その正体が幽霊であることを祈りつつ、調査を始めますね」




 俺は老婦人の案内で、彼女の自宅へ向かった。その家──邸宅と呼ぶべきだろうか──は大きな屋敷で、建物の状態や庭木の様子から現在も手入れされていることが一目で分かった。


「素敵な屋敷ですね」


「ええ、一人で住むには少し大きいけれど」


 そうほほえむ老婦人の顔に一瞬影が見えた気がするが、あまり深く質問するのはやめておいた。


「では、さっそく調査を進めさせていただきます」


 エントランスホールに入ると、優雅なシャンデリアが天井で出迎えてくれた。家の中も外観と同様綺麗にされており、階段や窓枠などに施された装飾が美しかった。異変が見られたのは、一階の食堂に足を踏み入れた時のことだった。



 扉を開けた次の瞬間、食事用のナイフが頬を掠め、壁に突き刺さったのだ。



 食堂に入ろうとする老婦人を片手で制し、もう一歩足を踏み出す。フォークが飛んできた。

懐の十字架を握る。回転する皿が頭上を通り過ぎる。

十字架から手を離し、立ち止まる。カップが足元で割れ、欠片が飛び散る。


 ……どうやらこちらの動きに反応して攻撃する現象、というわけではなさそうだ。食堂を出て、扉を閉める。


「ああいった現象はこの食堂のみで起きているのですか?」


「いえ……ここだけではなく、他の部屋でも……」


 案内されて他の部屋を回ったものの、結局全ての部屋で一歩足を踏み入れた瞬間、物が飛んできた。寝室では枕や少女の写った写真立て、書斎では本、キッチンでは包丁などなど……。

 とりあえず、部屋を見て回って分かったことは、この現象は"なにか"の意思によって起こされているということと、今はまだ警告で済んでいるということの二つだ。


 しばらく知恵を絞っていたものの、なかなか考えがまとまらなかったので、改めて老婦人から話を伺うことにした。


「物が動き出す現象はどのくらいの時間から見られますか?」


「時間は……バラバラね。朝起きて見ることもあれば、夕食をとろうとした時に見ることもあったわ」


「夕食をとる時にも、ですか……。物が飛んできては食事もままならないでしょう」


「それが、今日のように物が人に向かって飛んでいくのは()()()で……」


 "物が人に向かって飛んでいくのは初めて"? 普段とは異なる現象が起きているということは、今日いつもと違うことを考えるのが何かヒントになりそうだ。この屋敷で、いつもはないもの──


 しばらくして俺は一つの推測を立てたが、それを確信に変えるためには依頼主に協力してもらう必要がある。自分自身を使うならまだしも、依頼主に検証してもらうのは気は進まないが、致し方ない。


「申し訳ありません、ご婦人。一つ協力していただきたいことが」


「ええ……? かまわないわ」




 食堂の扉を開け、足を踏み入れる老婦人。

 物は──飛んでこなかった。


「思った通りだ」


「?」


「ああ、今からご説明いたしますよ。一度食堂を出ましょうか」


 エントランスホールに移動し、俺は自分の推測──これから真相に変わるもの──を老婦人に話すことにした。


「不躾なことをお聞きしますが、過去にご息女がいらっしゃったことは?」


「……さすが不思議な事件を解決されている探偵さんね。ええ、確かに娘がひとり……」


 そこで老婦人は言葉を詰まらせる。それ以上深く聞く必要はないだろうと考え、推測を続けて話す。


「恐らくですが、このポルターガイスト現象はそのご息女によるものかと」


「あの子が……?」


「はい、きっとあなたに自身の存在を気づいてほしかったのでしょう。俺が部屋に入って物が飛んできたのは、見知らぬ者を警戒してのことでしょうね」


「そう……そうだったのね……」


 老婦人は顔を手で覆い、静かに悲しみに暮れていた。部屋に一緒に入ってしまうと物が飛んでくる可能性があるため、階段まで老婦人の手を引き、共に腰を下ろした。しばらくして落ち着いた老婦人へと声をかける。


「今回ご息女によってポルターガイスト現象が起きていることが判明したわけですが、この現象はどういたしましょうか。解決しますか? それとも──」


「もちろん、そのままにさせていただきたいわ」


「──それがよろしいかと存じます」






「うう……いい話だね……」


「泣いているところ悪いが、ハンカチは無いからな」


「レディに気が利かないのね、アルゲントは!」


「レディ? 誰のことだ……?」


「私のことだけど!?」


 そんなやりとりをしつつ、渋々ティッシュを泣いているクラークに手渡す。

 ポルターガイスト現象の依頼が終わってから数日後、事務所にやって来たクラークに依頼のことを話し、現在に至る。


「それで? そのおばあさんと娘さんはどうなったの?」


「どうなったんだろうな。今でも一緒に楽しく過ごしていると思うけどな」


「もったいぶるね〜」


 実際、その後どうなったかについては俺にも分からない。老婦人は娘の幽霊が見えないし、娘も物を動かすことでしかコミュニケーションを取ることが出来ないのは変わらないままだ。ただ、一つだけ言えるとしたら……姿が見えなくても、会話が出来なくても、二人は母娘おやこの絆で繋がっている、ということだけだ。


「いい話だった……いい話だったんだけど、ひとこといい?」


「?」




「なんで私を連れて行ってくれなかったのよ!!!」

 本書を読んでくださり、ありがとうございます。

 前回の更新から約半年以上が経過しているとは……時の流れとは恐ろしいものです。



 ……ではありませんね。更新が滞っていたこと、誠に申し訳ございませんでした。身の回りの変化に伴う忙しさで筆を持つ気力が湧かず、全く執筆できておりませんでした。時折アクセス状況を拝見させていただいていたのですが、少しではあるものの読んでくださっている方がいらっしゃったことには驚かされました。

 今回再び執筆しようと思ったのは、身の回りが少し落ち着いてきたのもありますが、一人でも読んでくださっている方がいらっしゃるのならば書こう! と思い至ったからです。元々不定期な更新ではありましたが、こうしてかなりの期間を空けつつも更新できたことは私にとっては嬉しい限りです。


 ここまで読んでくださった方、いつも読んでくださっている方には感謝しかございません。また少しずつ書いていきますので、次回も気ままにお待ちください!

 

 それではまた〜


参考:ウィキペディア「ポルターガイスト現象」

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9D%E3%83%AB%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%83%88%E7%8F%BE%E8%B1%A1

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