表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/15

Case9

「今日はアルゲントのとこに依頼来てるかな〜」


「みゃ〜……」


「ん? 猫の……鳴き声? どこから……あっ! あなた、大丈夫!?」




 とあるビルの一室。俺は今日も今日とて朝刊を開く。怪異が関わってそうなニュースは……なしか。まあ、平和ならいいんだ……平和なら……。


「何項垂(うなだ)れてんだ銀弾撃ち」


 リックが銃のメンテナンスを終え、話しかけてくる。


「これは……仕事で疲れてんだよ」


「いや、ここ最近依頼来てないだろ」


「怪異絡みの事件には関わってるよ……!」


「半分涙目で何をそんなムキに……」


 その時、ドアがゆっくり開かれた。入ってきたのは、黒い猫を抱えたクラークだった。


「静かに入ってくるなんて珍し……どうしたんだ? その猫」


「路地裏から鳴き声が聞こえたから行ってみたら、この子が倒れてたの」


「拾ってきたのか……なんで俺の所に?」


「いや〜、なんとなく?」


「全く……こういう時、エヴィと連絡取れれば良かったんだが、あいにく連絡する手段がないからな……」


「私連絡できるよ〜」


「え? いつ連絡先交換したんだ……じゃなくて、そっちに連絡しろよ」


「いつ交換したかはひみつ〜! ほら、室内で対応してもらったほうがいいかと思って、とりあえずここにね!」


「ここは医療施設じゃないんだが……」




 クラークが連絡すると、しばらくしてエヴィがやって来た。


「こんにちはー、ウォードさんとクラークさんはラックチャームで会った時以来ですね! リックさんは先日ぶりです! えっと、倒れてた猫ちゃんのことでしたよね」


 エヴィはクラークの連れてきた猫の方まで近づくと、状態を確認する。


「なるほど……」


「どう? エヴィちゃん」


「何も口にしていないことによる栄養不良ですね……すごくお腹が空いている状態なので、キャットフードなどの糖質の多いものは避けて、少しずつ猫缶を食べさせてみてください! きっと良くなりますよ」


「良かったぁ……ありがと~!」「助かったよエヴィ、ありがとう」


「いえいえ、命に別状はなさそうだったのでよかったです! 今日は特に予定もないので私もお手伝いしますよ、猫缶買ってきますね!」


 そう言い、エヴィは買い出しに向かった。


「エヴィちゃんって薬剤師なんだよね? 獣医みたいで頼もしかったね!」


「ああ、医学について色々勉強していたらしいから、他の分野にも詳しいんだろうな」


「それにしても……この子は一体……?」


「首輪とかは付いていないようだし、飼い猫じゃなさそうだが、野良猫……にも見えないな」


「不思議なオーラのある子だよね〜」


 弱々しくソファに横たわる黒猫。だが、路地裏で倒れていたにしては毛並みは乱れておらず、綺麗な黒い毛を保ったまま。また、綺麗な青い瞳からは強い生命の力を感じる。

 そう、弱っているはずなのだが、どこか高貴な印象を受けるのだ。

 と、ドアが開く。エヴィが帰ってきたようだ。


「ただいまですー」


「エヴィちゃんおかえり〜」「おかえり」


 クラークが缶を開けて猫の前に置くと、ゆっくり、少しずつ食べ始めた。


「少しずつ食べてね〜」


「皆さーん、色々食べ物を買ってきたので私たちもお昼ご飯にしましょうか」


「エヴィちゃんは気が利くな〜、ありがと~!」


「年下の子に奢らせてしまうとは……いくらだった? 後で払うよ」


「いえいえ! お二方にはお世話になってますから! お気になさらずー」




 そうして三人と二匹(黒猫とエヴィの肩に乗るメディである、リックは飲まず食わず)は昼食をとり、今後について話すことにした。


「この猫ちゃんについてなんだけど……」


「申し訳ないが、俺は面倒を見てやれる自信がない」


「わたしはお世話してあげたい気持ちは山々なんですが、家を空けることが多いですからね……」


「まあ、私が拾ったからね、責任持ってお世話するよ!」


「すまないな、よろしく頼む」




 日が暮れ始め、空の色が変わりだす。それぞれ家に帰り、黒猫はクラークが連れて帰った。


「お節介な銀弾撃ちなら引き受けると思ったが」


 リックが皆が帰ってしばらくした後、話しかけてくる。


「考えたさ……けど、俺の仕事は命を落とす可能性も少なくないからな、一匹残してさよならなんて可哀想だろう?」


「オレも残されるだろ」


「勘定に入れてなかったな」


「料金ふんだくるぞ」




 翌日、いつものように朝刊を広げ、いつものようにクラークがやって来る。


「猫の調子はどうだ?」


「帰ってからまた猫缶をあげたら、少し元気になったみたい!」


「そっか、とりあえず一安心だな」



「ソフィア様!」


 聞き慣れない芯のある声が窓の方から聞こえ、二人はそちらを振り向く。


 開いた窓。その窓辺に二本足で立つ黒猫がいた。瞳と同じ色の青いマント、大きな羽根のついたこれまた青い帽子、深い茶色のブーツを身に着けている。


「猫が……喋ってる……?」


 クラークは衣服を身に着けた喋る猫に困惑している。


「えーと、どちら様……」


 でしょうか、と言いかけて気付く。その綺麗な青い瞳、つい最近見た覚えがある……まさか。


「君は……もしかして昨日の黒猫か?」


「ご名答です、アルゲント様! そしてソフィア様、此度はお礼を申し上げるために参りました」


「え!? わ、私!?」


「ええ、行き倒れていたワタシを拾ってくださらなければ、今頃は死んでいたことでしょう……あなたは命の恩人なのです!」


「命の恩人……えーと、まず猫のあなたが喋ってることに混乱してて……」


「おっと、ワタシの紹介がまだでしたね! 私はフェリス、猫の住まう国にて王を務めております」


 俺はその紹介でピンときた。


「猫、王……? もしかして君はいわゆる……」


「ええ、人間はワタシのような者を『ケット・シー』と呼んだりもするそうですね」


 ケット・シーは妖精の一種である。人の言葉を話し、二足歩行をする猫の姿をしており、この世界のどこかに自分たちの王国を築いているとされる。よく王として描かれることがあるが、ケット・シー(ケット=猫、シー=妖精)の名の通り、あくまでも種族としての名前である。


「ではソフィア様、何か望みなどはございますか? ワタシに出来ることでしたらなんなりと!」


「の、望み……?」


「ええ。金銀財宝が必要ですか? 懲らしめたい相手などはいませんか? 猫の王国に興味がおありでしたら連れて行くことも出来ますよ!」


「猫の王国には確かに興味あるけど……欲しいものとかは特にないかなぁ」


「ふむ……せっかくの機会ですよ? 構わないのですか?」


「うん、お礼のために助けたわけじゃないからね、あなたが無事ならそれでいいよ!」


 フェリスはとても感心した様子でソフィアの方へ進み出る。


「命を救ってくださった上、何の見返りも求めない……あなたのような素晴らしい心を持った方に助けていただき、ワタシも光栄でございます」


 フェリスが前足を差し出す。クラークはその肉球のついた、人間から見れば小さな前足を握って返した。

 クラークが手を離すと、その手に何か握られていた。見てみるとそれは、青いリボンのついた猫を模した銀色の鈴だった。


「ん? これは……?」


「ワタシからのささやかな贈り物でございます、きっとお役に立つことがあると思います」


「綺麗……うん、ありがと!」


「ええ、ではワタシは王国に帰らなければいけないため、ここでお別れです。 皆様、ごきげんよう!」


 そう言い、フェリスは立っていた窓辺から後ろに跳んだ。俺とクラークが窓から見下ろすが、フェリスはどこにもいなかった。




「なんか……すごい体験をしたなぁ」


「ああ、そうだな。だが……本当に何も望みはなかったのか?」


「うん! これで私が何か望んだら、助けたことに価値をつけて対価を貰うみたいでなんか嫌だなって……」


「そっか、お前らしいな」


 手に持つ鈴の輝きは、小さな友人を救った記者への栄光。

 本書を読んでくださり、ありがとうございます。

 今回のケット・シーや、以前「ソフィアの事件録1」で登場したデュラハンですが、それらは正確にはイギリスのお隣、アイルランドにて語られている伝承になります(ケット・シーはスコットランドにも伝わっているそうですが)。近くの国の伝説が伝わってくることは珍しくありませんが、「イギリスの怪異ではないよ」というご意見がもしございましたら、どうか大目に見て頂けますと幸いです。


 せっかくイギリスが舞台ですので、あまり世界観を崩さず作っていきたいものですが……難しいですね。イギリスには妖精伝説が多く、ましてや隣国なので伝わっていても不思議ではないのですが。(異国の怪異専門家なんかも登場させてみたい気持ちはあるのですが……)


 最後になりますが、なんとユニークアクセスが300PVを超えておりました。このデータはもちろん300人が読んだというわけではないでしょうし、ましてや読んでくださった方全員が最新話まで追ってくださっている訳でもないのでしょう。それでもこの作品を1話でも読んでくださったことには感謝しかございません。読んでくださった皆様、本当にありがとうございます!


 いつの間にか長々と書いていてしまいましたので、今回はこの辺りでおわりとさせていただきます。次回も気ままにお待ち下さい。

 それではまた〜


参考:ウィキペディア「ケット・シー」

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B1%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%B7%E3%83%BC

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ