第9話 フランシェの乗馬と王家の陰謀
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「申し訳ありません、お嬢様!」
御者が焦った声で謝罪する。
「大丈夫よ。でも、これじゃ動けないわね……」
グララド様と一緒に領地巡りを行っていたが、グララド様は馬に乗り、私はクラーラと共に馬車での移動となっていた。
その馬車の車輪は深く石に嵌まり、どうにも抜けそうになかった。見渡す限り、手入れの行き届かない細道が続いている。ここは人里からかなり離れており、道の状態は急激に悪化していた。そのため、馬車は動けなくなってしまったのだ
(これじゃ領地を見て回るどころじゃないわ……)
そのとき、馬のひづめ音が軽快に響いた。
「大丈夫か?」
険しい道をものともせず、馬を巧みに操ったグララド様とルーカスさんが姿を現した。
「ここは俺たちに任せろ」
手際よく車輪を押し戻し、馬車を再び動けるようにすると、グララド様が気さくに笑った。
「こういう場所じゃ馬のほうが便利だな」
その言葉に私はハッとした。
(私も馬に乗れるようになれば……もっと自由に領地を見て回れるかもしれない)
「グララド様、私も馬に乗れるようになりたい」
「ん? 乗馬をしてみたいのか? それは構わないぞ」
ターシュエル領をもっと見て回りたいと思った私だったが、領内の道は細く、馬車では移動が難しい場所も多かった。
(馬に乗れるようになれば、もっと自由に領地を見て回れるかもしれない)
「お嬢様、馬に乗られるおつもりですか?」
クラーラが驚いた声を上げる。
「ええ、ターシュエル領の隅々まで見たいもの。だから練習を始めようと思うの」
グララド様もこれには少し驚いた様子だったが、すぐに笑って頷いた。
「いいだろう。そういう事か。俺の馬術訓練場を自由に使ってくれ。ルーカスにも協力させる」
こうして私は馬術の練習を始めることになった。
「お嬢様、少しずつ体重移動を意識してみてください」
副官ルーカスが穏やかな声でアドバイスしてくれる。私も最初こそぎこちなかったものの、次第にバランスを取るコツを掴み始めた。
「よし、良い感じだ。少し走らせてみましょう」
グララド様が笑顔で声をかける。
「行きますわよ!」
馬が軽快な足取りで駆け出す。風が頬を撫で、広がる景色が次々と流れていく。
(気持ちいい……これならターシュエル領のどこへでも行けそう)
家人たちも手を叩いて応援する中、私は次第に自信を深めていった。
クラーラも馬を走らせながら横に並んだ。
「お嬢様、次はもっと色々なところに行けますね!」
クラーラの声に微笑んで頷いた。
(この土地で、もっと多くのことを知りたい。そして、領民の皆さんのためにできる限りのことをしていきたいわ。……ところで、クラーラ、あなたはいつの間に馬に乗れるようになったのかしら?)
ターシュエル領での新しい日々が、少しずつ広がり始めていた。
――――
そのころ王都では――
王都はいつも通り華やかで賑わいに満ちていた。しかし、その空気の中には微かな不穏さが漂っていた。
誰もが感じつつも言葉にはしない。それは、最近の王太子とその婚約者リリア・クレシュフォール男爵令嬢に対する人々の視線から容易に察することができた。
「ねえ、もっと大きな宝石を用意してちょうだい! 王城の舞踏会なんですもの、私の美しさを全員に見せつける必要があるわ!」
リリアの高笑いが広間に響く。彼女は豪奢なドレスを纏い、無数の貴族令嬢たちを引き連れていた。彼女の派手な振る舞いは以前から目立っていたが、最近ではますますその度合いが増していた。高価な衣装に身を包み、王城内外で贅沢三昧の日々を送るリリア。
しかし、そんな彼女の浪費と奔放な行動は、すでに王都の貴族たちだけでなく一般市民の間でも悪評を広げつつあった。市場では主婦たちが囁く。
「聞いた? リリア様がまた王城の花壇を全部引き抜いて、自分の専用庭園に植え替えさせたんですって」
「それにあの舞踏会だって、毎月開かせてるなんて異常よ。王家の金庫が空になりそうだって話よ」
「これじゃ、彼女が王妃にでもなったら国が傾くわね」
この言葉は、彼女が王城で『王太子妃に相応しくない』と陰口を叩かれる現状を象徴するものだった。
「アドリアン! いい加減に目を覚ましなさい!」
王妃の怒声が王城の玉座の間に響く。王太子アドリアンは玉座の前で項垂れ、顔を赤くしていた。その隣にはリリアもいたが、彼女の表情には謝罪の色はない。ただ不満そうに唇を噛みしめるばかりだ。
「リリア嬢が王太子妃に相応しいと思うのか? 度重なる浪費、不品行――それだけではない。彼女の奔放な行動は貴族社会に混乱をもたらしている。お前は王国の未来をどうするつもりだ!」
国王もまた、冷厳な表情を崩さなかった。
王妃が続ける。
「王太子としてだけでなく、王家の人間としての品格に欠ける者など、王城に置いておけるはずがありません」
アドリアンは反論しようと口を開いたが、国王が冷たく言い放った。
「これ以上、王家の名に泥を塗るならば、婚約破棄を迫らざるを得ない」
王妃と国王から叱責を受けたアドリアンとリリアは、それぞれ苛立ちと焦りを抱えて広間を後にした。
「どうするんだよ、リリア!」
アドリアンが怒鳴るように言う。
「俺たちの立場が危ういんだぞ! 婚約破棄なんてことになったら――」
「わかっているわ!」
リリアも声を荒げた。
「けれど、こうなったのは私のせいじゃないわ! 将来の王太子妃に嫉妬して嫌がらせしてくる連中が余計な事を言っているのよ! 何か策を考えなきゃ……」
しばらく沈黙が続いた後、リリアが目を輝かせて言った。
「そうだわ……私が『聖女』になればいいのよ!」
「聖女?」
アドリアンは呆気に取られた表情を浮かべる。
「そうよ。『聖女』として崇めさせれば、誰も私を批判できなくなるわ。貴族たちも、民も、みんな私を恐れ敬うようになるの」
「……なるほどな」
アドリアンは納得したように頷いた。
「それで行こう。リリア、お前はこの国の聖女だ。それを周囲に信じ込ませるんだ」
こうして、王都ではリリアを「聖女」として崇めさせるという無謀な計画が動き始めた。
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