◆SS4 クラーラも?
突然、おまけの話にお付き合い頂き、ありがとうございました!
フランシェ様の出産から数週間——
ターシュエル城塞では、ようやく落ち着きを取り戻しつつあった。
領民たちは新しい命の誕生を祝福し、グララド様はルシアンを抱いてすっかり親バカになっている。
そんな中——
「ううーん……なんだか体が重いわねぇ」
クラーラが大きく伸びをしながら、食堂の椅子に座り込んでいた。
「クラーラ? 大丈夫? 何だか最近、疲れやすそうね?」
「そうなのですよ。なんだか眠いし、食欲も変なのです」
私はクラーラをじっと見つめる。
「ねぇ……もしかしてだけど……」
「はい? 何ですか?」
「クラーラ、妊娠してるんじゃない?」
「…………」
クラーラが数秒間、私をぽかんと見つめ——
「ええええええ!??」
大声で叫んだ。
その後、医療係の診察を受け、結果はすぐに判明した。
「間違いなく、ご懐妊されていますよ」
「……本当に……?」
クラーラは診察室で、自分のお腹にそっと手を当てる。
「私、本当に……ルーカスの子供を……?」
「ええ、おめでとうございます」
医療係の言葉に、私はにっこりと微笑んだ。
「おめでとう、クラーラ!」
「ふふ……ありがとうございます。フランシェ様……!」
クラーラは少し感極まったように、私の手を握る。
だが——
問題は、ルーカスだった。
「な、な、な、何ですとぉ!?」
執務室で話を聞いた途端、ルーカスが盛大に椅子から転げ落ちた。
「る、ルーカス、大丈夫!?」
「お、俺が……俺が……!?」
彼は自分の顔を両手で覆い、明らかに動揺していた。
「ク、クラーラ、お前、本当に……!?」
「そうよ。おめでとう、パパ!」
「パ、パ……!?」
ルーカスはガクガクと震えながら、グララド様にすがるような目を向けた。
「だ、男爵様……俺、俺はどうすれば……!?」
「……落ち着け、ルーカス」
グララド様がため息をつきながら、ルーカスの肩を叩く。
「子供ができたら、父親になる。それだけのことだ」
「簡単に言わないでください!!」
ルーカスが絶叫する。
「俺、まだ心の準備が……いや、するべきなのは分かってるんですが……でも……!!」
(グララド様も以前、同じように慌てていたけど……ルーカスの方が酷いわね)
私は呆れつつも、クラーラと視線を交わし、クスクスと笑ってしまった。
「ルーカス、しっかりしなさい!」
クラーラが彼の肩を叩く。
「私が出産するのよ? ルーカスはしっかり支えるの!」
「お、おう……!」
ルーカスはまだ混乱していたが、どうにか覚悟を決めたようだった。
それからのクラーラは、妊婦生活を満喫……するわけがなかった。
「いやぁぁぁ!! こんなの、私じゃないわ!!」
「クラーラ、落ち着いて……!」
妊娠後期に入り、お腹が大きくなるにつれて、クラーラは今までのように動き回ることが難しくなっていた。
「ルーカス!! 私に剣を握らせなさい!!」
「いや、ダメだろ!!」
ルーカスが全力で剣を隠し、クラーラをなだめる。
「だって! 退屈なのよぉ!!」
「妊婦が戦闘訓練とか、おかしいから!!」
「ルーカスはいいわよね! 剣を振れて!!」
「いや、俺は仕事ですから!!」
(ああ……すごい騒がしい……)
私は遠くからそのやり取りを眺めつつ、母とマルグリット夫人に向き直った。
「……クラーラ、あんな感じですけど大丈夫ですか?」
「まぁ……クラーラらしいわね」
母はため息混じりに微笑んだ。
「ふふ、元気なことは良いことです。ですが、しっかり休ませなければなりませんね」
マルグリット夫人がクラーラを優しく諭し、ルーカスと共に彼女をなんとか部屋へ連れて行った。
「……ルーカス、大変そうね」
「でも、いい夫になりそうだわ」
私は微笑みながら、友人の幸せを願った。
そしてついに、クラーラの出産の時がやってきた。
「がんばれ、クラーラ!!」
私は部屋の隅で、全力で応援する。
「クラーラァァァァァ!! 俺の手を握れぇぇぇ!!」
「うるさいわよ、ルーカス!!!」
「い、痛い!! 指が折れる!!」
クラーラがルーカスの手を全力で握りしめ、彼は半泣きになりながら叫んでいた。
「クラーラ、もう少しよ!」
マルグリット夫人が声をかける。
「クラーラ、しっかり!!」
母も励ます。
「ううぅぅぅ!! もう、ルーカスなんか嫌いぃぃ!!」
「えぇ!?!?!?」
「あんたが原因なのよぉぉぉ!!!」
「そんなぁぁぁ!!!」
壮絶なやり取りの末——
「おぎゃあぁぁぁ!!」
元気な泣き声が響いた。
「女の子よ!」
マルグリット夫人が赤ん坊を抱き上げ、クラーラに見せる。
「……かわいい……!」
クラーラは涙を流しながら、小さな命を見つめた。
ルーカスも、ぐしゃぐしゃな顔になりながら、娘の手をそっと握る。
「俺……俺の娘が……!」
「ええ、あなたの娘よ……」
クラーラは笑いながら、彼に手を伸ばした。
「ルーカス、名前は決めた?」
「……セシリア……セシリア・ハイムドルフだ」
「……いい名前ね」
二人は、娘を優しく抱きしめた。
こうして——
ターシュエル領には、また一つ新しい命が誕生したのだった。
「よし! セシリアも戦える侍女を目指して特訓ね! しっかりとルシアン様を守らないと!」
「え! ちょっと、クラーラ、セシリアも戦える侍女になるの!?」
クラーラの宣言を聞いてびっくりして聞いてみると――
「「当然です!! 時代は変わったのです!」」
何故か、クラーラとルーカスが声を揃えて答えた……いつの間に時代が変わったのだろうか!?
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