◆SS3 命の誕生
ブックマークと下の☆☆☆☆☆から評価をお願いしますね!
「……っ、はぁ……!」
私はベッドの上で、汗をにじませながら息を整えた。
ついに、その時が来た。
「フランシェ様、しっかり息を整えてください!」
マルグリット夫人の落ち着いた声が響く。
「大丈夫、フランシェ様ならきっと乗り越えられます!」
クラーラが、私の手を握りしめる。
「フラン……っ、頑張って……!」
母も、珍しく真剣な表情でそばにいた。
——けれど、その中で一人、最も動揺している人物がいた。
「フランシェ!! 大丈夫か!? 何かできることは!? いや、俺が何かしなくては……!」
そう、グララド様である。
「グララド様、部屋の外で待っていてください!」
マルグリット様がきっぱりと指示する。
「し、しかし……!」
「出産の場に男がいても、できることはありません!」
「ぐっ……!」
「それより、落ち着きなさい。あなたがそんなに動揺していたら、フランが安心できないでしょう?」
母の言葉に、グララド様は歯を食いしばる。
「……わかった……」
彼は苦しそうな顔をしながらも、ゆっくりと部屋を出て行った。
グララド様が部屋を出ると、すでに領民たちが城塞の前に集まっていた。
「フランシェ様がご出産されるんだってな……!」
「無事に生まれますように……!」
「男爵様も落ち着いてるのかしら……いや、無理か……」
領民たちは、口々に祈りの言葉を交わしながら、空を見上げる。
ターシュエル領にとって、新しい命の誕生は大きな希望だった。
「……本当に、皆に支えられているな」
グララド様は、胸の奥からこみ上げる感情を抑えながら、天を仰いだ。
(フラン……どうか、無事でいてくれ……!)
彼はただ、祈ることしかできなかった。
「フランシェ様、もう少しですよ!」
クラーラが私の手を握ってくれる。
「はぁ……っ、ぁあああっ!!」
最後の力を振り絞ると——
「おぎゃああああっ!」
赤ん坊の元気な泣き声が部屋中に響いた。
「……生まれましたわ」
マルグリット様が、赤ん坊を優しく抱き上げる。
「元気な……男の子ですよ!」
「……っ!」
私は安堵のあまり、涙がこぼれた。
「フランシェ様! よく頑張りましたね。おめでとうございます!」
クラーラが目に涙を浮かべながら、私の手をぎゅっと握る。
「はぁ……ありがとう……!」
「母子ともに健康ですね。良かった……!」
マルグリット様も、ホッとしたように微笑んだ。
「ふふ、私にも見せてちょうだい」
母が赤ん坊を覗き込み、穏やかに微笑む。
「……フランの小さい頃にそっくりね」
母のその言葉に、私はまた涙が溢れそうになった。
(本当に……私たちの子が生まれたんだ……!)
「フランシェ!!」
バンッ!!
勢いよくドアが開かれ、グララド様が駆け込んできた。
「ちょ、ちょっとグララド様、落ち着いて……!」
クラーラが呆れた顔して、グララド様の突進を止めた。
「フラン、無事か!? そして……!」
彼は、マルグリット様が抱えている赤ん坊を見つめる。
「おめでとうございます。元気な男の子ですよ」
マルグリット様が微笑みながら、赤ん坊をグララド様の腕にそっと渡した。
「……っ」
グララド様は、言葉を失ったように、小さな命を見つめる。
赤ん坊は、まだ柔らかい産毛に包まれた小さな顔をしていた。
青みがかった瞳は、まるでグララド様とそっくりだった。
「……俺の……息子……」
彼の大きな手で、そっと赤ん坊の頬を撫でると——
「おぎゃあああっ!!」
赤ん坊は大きな声で泣いた。
「おぉっ……すごいな、こんなに小さいのに……!」
彼は信じられないような表情をしながら、ゆっくりと赤ん坊を抱きしめた。
「フラン……ありがとう……」
「……ふふ……私も……ありがとう、グララド様……」
彼は、私の手を優しく握りしめる。
「こいつは……俺たちの大切な息子だ」
私は頷き、微笑んだ。
「ええ……そうね」
赤ん坊が生まれたことで、ターシュエル領は大きな祝福に包まれた。
「領主様に跡継ぎが誕生したぞ!!」
「これでターシュエル領も安泰だ!!」
領民たちは喜び、城塞の前ではささやかな祝宴が開かれた。
グララド様は、赤ん坊を抱きながら言った。
「フラン、名前は決めているか?」
「ええ……」
私は赤ん坊の頬にそっと触れる。
「ルシアン……ルシアン・フォン・ターシュエルよ」
「ルシアン……」
グララド様がその名を繰り返し、嬉しそうに微笑む。
「いい名前だ……俺たちの息子にぴったりだな」
「ええ……」
私はルシアンをそっと抱きしめる。
(この子が、これからの未来を担う存在になる……)
それはきっと、大きな責任を伴うだろう。
でも——
「私たちで、しっかり育てましょうね」
「……ああ」
グララド様は、力強く頷いた。
ターシュエル領に、新たな家族が誕生した。
※ 作者からのお願い
「面白い」「続き読みたい」など思った方は、ぜひログインしてブックマークと下の★★★★★から評価いただけたら幸いです。よろしくお願いします!
つまらないと思った方は、★一つでも評価つけてくれると勉強になりますので、よろしくお願いします。




