第34話 命の灯火
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砦の中には、戦いの余韻と、疲労が満ちていた。
影喰らいを撃退したものの、砦の損傷は激しく、騎士や領民たちは極限まで消耗していた。
——そして、私自身も。
(このままでは……)
魔力の消耗が激しく、意識がぼんやりとしてくる。
しかし、私はまだ「聖壁」を解除するわけにはいかなかった。
ここが最後の砦なのだから。
「くそっ……壁が崩れたままだ!」
騎士のヴィルヘルムさんが、崩れかけた砦の防壁を見て唇を噛む。
「負傷者が多すぎる……」
フリードリッヒさんが深いため息をつく。
領民たちは必死に砦の修復を試みているが、物資も人手も不足している。
さらに――
「ダルクスさん、休んだ!」
ルーカスさんの叫びが響く。
ダルクスが剣を握ったまま、膝をついていた。
「私は……まだ動ける……」
「十分だ。いったん休むんだ」
ルーカスさんが強く言う。
ダルクスさんは元々、先代に仕えていた騎士だった。
そして、ルーカスさんの剣の師でもある。
しかし、長年の執務と年齢の影響は否めない。
今もなお、騎士の誇りで戦おうとしているが、もう限界が近いのは明らかだった。
「……すまん」
ダルクスが静かに剣を納める。
「謝るな。あんたがいたから、ここまで持ちこたえられた」
ルーカスさんはそう言い、彼を支えた。
砦の内部では、騎士たちが負傷者を運び、領民たちが修復作業を始めていた。
しかし――
「……みんなの、動きが鈍くなっている」
私は砦の中を見回しながら、静かに唇を噛みしめた。
騎士たちの鎧は血と泥に汚れ、領民たちの顔には疲労の色が濃い。
皆、戦い抜いた誇りを持ちながらも、極限まで体力を消耗している。
そして、私自身も——
(魔力が……足りない)
砦を守るために張った「聖壁」 は、未だに私の魔力を消費し続けている。
この砦を守る最後の砦……。これを消すわけにはいかない。
「フランシェ様、お休みになられては?」
傍らにいたイザベルが、心配そうに声をかける。
「大丈夫よ、まだ持つわ」
私は微笑んで答えた。
しかし、その瞬間——
ふらりと足元が揺らぐ。
「っ……!」
私は思わず砦の壁に手をついた。
ほんの数秒、意識が遠のく。
(まずい……こんな状態では、次の戦いに備えられない)
「フランシェ」
優しい声が、そっと私の耳に触れた。
振り向くと、そこにはグララド様がいた。
彼も疲れているはずなのに、私を見つめる深い青色の瞳は穏やかだった。
「君は十分、戦った」
「でも……砦はまだ……」
「わかってる。でも、君の魔力は無限じゃない」
彼はそっと私の肩に手を置く。
「君が倒れたら……みんなが不安になる」
「……」
私は言葉を失った。
「君が休むことも、みんなのためだ」
その言葉は、私を責めるものではなく、
ただ優しく、そっと導くような温かさを持っていた。
「……そうですね」
私は、小さく頷いた。
「少しだけ……休ませてもらいます」
その言葉を口にした瞬間、ふっと体の力が抜けた。
グララド様は穏やかに微笑み、そっと私の肩を抱いて支えてくれた。
――いつの間にか私は眠っていたようだ。
目が覚めると、砦の片隅から、ふわりと香ばしい香りが漂ってきた。
「……この匂い、もしかして……?」
「あ、気づきました?」
笑顔で現れたのは、クラーラだった。
彼女の手には、大きな蒸籠が抱えられている。
「蒸かし芋です! フランシェ様の癒しの芋!」
「……クラーラ」
私は驚きながらも、懐かしい香りに胸が温かくなる。
「戦うためには、まずは体力をつけないと!」
クラーラは、騎士や領民たちに蒸かした芋を配り始めた。
「これを食べれば、少しは元気になりますよ!」
最初は疲れた表情をしていた人々も、一口食べると、驚きの声を上げた。
「……本当に、身体が軽くなる……!」
「痛みが和らいでいく……」
「温かい……心が落ち着く……」
「癒しの芋」と呼ばれるこのジャガイモは、回復効果 を持つ。
傷の痛みを和らげ、疲労を癒し、少しずつ活力を取り戻す不思議な力――。
「お代わりもあるよー!」
クラーラの明るい声が砦の中に響く。
――それは、砦に差し込んだ一筋の光のようだった。
戦士たちは食事をとりながら、少しずつ笑顔を取り戻していく。
(みんな……生きてる)
その事実だけで、胸がいっぱいになる。
私はそっとクラーラの手を握った。
「ありがとう……クラーラ」
「えへへっ! 時代は『戦う侍女』ですから!」
彼女はいつもの調子で笑った。
「……まだ、戦えます」
ジョアンヌが短剣を握りながら、静かに言った。
「私たちが戦える限り、砦は落ちません」
イザベルも、頷く。
「私も、まだやれる」
ルーカスさんが剣を腰に戻しながら、呟いた。
「ここで諦めるわけにはいかない」
「そうだな」
フリードリッヒさんも、鎧を正しながら頷く。
(みんな……戦う覚悟は変わっていない)
それが、何よりも心強かった。
だが、その和やかな時間は、長くは続かなかった。
——ズズ……ズズズ……。
砦の外から、異様な気配が漂ってくる。
まるで「何かが目覚めようとしている」ような、不吉な波動。
「……感じるか?」
グララド様が、低く呟く。
「ええ……」
まるで、さっきまでの戦いが「前哨戦」に過ぎなかったかのように——。
「影喰らいよりも……強い存在が、動き始めている?」
私の背中に、嫌な汗が流れる。
「……まだ、終わっていないのね」
グララド様も、剣を握り直す。
「次が本番かもしれないな」
私は、砦の火を見つめながら、静かに誓った。
(この灯火を、絶やさせない)
たとえどんな脅威が迫っていようとも――。
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