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第32話 聖女の覚悟

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王都の人々は、ようやく理解し始めてたようだ。


「聖女」とされたリリアが偽物であったこと。

王太子アドリアン殿下が、国家の危機を招いたこと。


王城では、国王ギュスターヴ陛下の裁可により、王太子アドリアンとリリアの正式な裁きが進められようとしていた。

私とグララド様もこの裁判に参加してほしいと言われ、やむなく参加していた。


「貴様の愚行は、もはや許されるものではない」


王の威厳に満ちた声が、王城の広間に響き渡る。


「国民を欺き、国家を危機に陥れた。その責を取る覚悟はあるな?」


アドリアン殿下は何も言えず、ただ震えていた。


「お、俺は……! 違う……そんなつもりじゃ……!」


リリアは泣き崩れ、もはや言葉すら発せない。


「王太子の失脚」 は、もはや避けられない事実だった。


しかし——


(それどころじゃない)


フランシェは、王城の裁判の行方よりも、遠く離れたターシュエル領の危機 に意識を集中させていた。

私の胸の内には、得体の知れない焦燥が渦巻いていた。


(……何かが起こっている気がする)


ターシュエル領が、何かに飲み込まれつつある。

そう確信するような感覚が、私の心を締め付けていた。


「フランシェ?」


隣に座るグララド様が、そっと私の顔を覗き込む。


「……ターシュエル領に、異変が起きている気がする」


小さくつぶやいた。彼もまた、何かを感じているのだろう。

彼の青い瞳には、微かな警戒の色が滲んでいた。


「ええ、王都に留まる時間は、もうないわ」


私は静かに言った。


――――


「王太子殿下が……?」


私は、廊下で交わされる廷臣たちの小声を耳にした。


「もう終わりだ。リリア男爵令嬢も軟禁され、正式な裁きを待つ身だと……」


「陛下の怒りは相当なものだ。いずれ、王位継承の見直しも……」


私は歩みを止めずに聞き流した。


(……王太子殿下も、リリアも、もう後戻りできない)


彼らがどうなろうと、私には関係のないことだ。


今、私が気にかけるべきは――

遠く離れたターシュエル領のこと。


王城の庭園を歩きながら、私は思考を巡らせる。


(急がなくては……!)


胸の奥がざわつく。

王都は落ち着きを取り戻しつつあるが、私の中の不安は増すばかりだった。


「今すぐ王都を発ち、ターシュエル領へ戻るわ」


私ははっきりと言った。


「俺も行く。……お前を一人で行かせるわけがない」


グララド様は、静かに私の手を握った。


その温もりに、私はわずかに安堵する。


だが——


「お待ちください、フランシェ大公」


振り向くと、宰相が静かな表情でこちらを見ていた。


「あなたの急な離宮は、まだお控えください。この国の状況も、まだ落ち着いてはいません」


「ですが、ターシュエル領は——」


「我々も、その情報は把握しております」


宰相の声は冷静だったが、その奥には「国を安定させるための懸念」が感じられた。


(確かに……)


今ここで、私が王都を離れれば、さらなる混乱を招くかもしれない。

王太子の失脚が決まりつつある今、貴族たちは次の権力の流れを見極めようとしている。


だが――


「……フランシェ」


グララド様が、静かに私の肩に手を置いた。


「急ぐことは必要だ。しかし、焦りは禁物だ」


彼の言葉は穏やかだが、確かな重みがあった。


私は深く息を吸い込む。


(待ってて……みんな)


ターシュエル領へ帰る時が、近づいていた。


その時――


「フランシェ様! ターシュエル領からの急報です!」


王城の門を通り、一人の騎士が駆け込んできた。

彼の鎧は泥にまみれ、息を切らしていた。


「砦が持ちこたえていますが……聖域の力が弱まり、魔物が進化しつつあります!」


「……何ですって?」


私は息をのんだ。


「さらに、暗黒の森の奥で未確認の魔物の存在が確認されました。これまでとは違う、未知の脅威が……!」


血の気が引いていくのを感じる。


(やはり……!)


「報告を続けて!」


「はい! ルーカス副官より、最悪の場合は砦を放棄する可能性もあるとのこと。ですが、ギリギリまで粘るつもりだと……!」


砦を放棄?


それはつまり、砦の守りが限界に近づいている ということ。


私は、唇を噛みしめた。


「今すぐ、ターシュエル領へ向かわせてください」


私は、騎士からの報告を受けるや否や、宰相に直談判した。


宰相は、鋭い目で私を見つめる。


「大公、冷静にお考えください。この状況下で王都を離れることは、混乱を招く恐れがあります」


「私が行かなくても、すでに王都は混乱しています」


私ははっきりと答えた。


「王太子殿下の失脚が決まり、次の権力の流れを見極める者が多いのはわかります。ですが、それとターシュエル領の危機は、比べることのできない問題です」


「……どういうことです?」


宰相は眉を寄せる。


私は深く息を吸い込み、はっきりとした声で言った。


「もし、ターシュエル領で魔物を食い止められなければ、次に戦場となるのは王都です。」


広間に、重苦しい沈黙が落ちた。


私は、ゆっくりと続ける。


「私たちの領地が王国の最前線となり、魔物を抑えていることは、皆様もご存知のはずです。ですが、聖域の力が弱まり、砦の維持が難しくなってきています。ここで支えきれなければ、魔物の群れは王都にまで達するでしょう」


「ふむ……それは……そうなのかも知れませんね」


宰相は静かに考え込んだ。


そして、しばらくの沈黙の後、重々しく口を開く。


「……確かに、大公の言う通りかもしれません。王都の安全のためにも、ターシュエル領が落ちることは避けなければならない」


宰相は、私を見据えたまま頷いた。


「よろしい。フランシェ大公、正式に出発を許可します」


私は小さく息を吐いた。


「感謝いたします、宰相閣下」


(これで……やっと戻れる)



「ターシュエル領に戻る準備を整えるわ!」


私は、急いで出発の準備を整え始めた。


・護衛部隊の編成

・最速ルートの確保

・魔物の影響を受けない安全な経路の検討


王都の貴族たちも、私たちの動きを知り、動き始める。


「……ターシュエル男爵と大公閣下の力なしに、王国の未来はない」


「王太子の失脚が決まるなら、次は彼らを支持するべきでは?」


王都の中で、私とグララド様の影響力が確実に強まっているのを感じた。



「聖女様!」


王城の門を出ると、そこには大勢の王都の人々が集まっていた。


「どうか……どうか、また戻ってきてください!」


「あなたこそ、本物の聖女です!」


「王都を……私たちを、どうかお守りください……!」


私は、彼らの声を静かに聞いた。


王都の人々は、これまで私を誤解し、遠ざけた者もいた。

だが、今――


彼らは「真の聖女」として、私を見ていた。


(私は……)


「必ず戻ってきます」


私はそう静かに言い残し、馬に乗った。


「グララド様、行きましょう」


彼が頷き、馬を走らせる。


ターシュエル領へ――


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