第3話 王家の瑕疵 <国王視点>
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ワシの名はギュスターヴ・ド・フリヴォレ。この国の国王である。
……とは言ったもののだ。
今回、ワシと妻エリーヌは、同盟国の会議に参加するため、隣国へと外遊に出ておった。
会議は順調で、来年度に向けた新たな貿易について前向きな協議できたので、まずまずの成功を収めることが出来たと喜んでおった。
いざ、帰国するかという時に、国に残した宰相から速達の手紙が届いた。
あわてて開封してみると、そこには「婚約を破棄をした」という一文だけが書かれていた。いやいや、確かに速達は、なにやら複雑な魔道具を用いて文字を送るので、長文は送れないとは聞いているが、それにしても、これで推察しろというのは無理じゃないか?
エリーヌにも見せてみたが、やはりわからんと言う。
とにかく、速達で手紙を送って来るぐらいなら、緊急事態であることに違いはなかろうと判断し、滞在期間を縮小して、急遽帰国することになった。
ようやく帰り着き、王城を見上げると、なぜか黒いベールに包まれているように感じた。
はぁぁ……。
自分の城だというのに入りたくないなぁ。
城内に入っても、無事帰国したことを喜んでくれる雰囲気も、外遊の成否を心配する様子も全く無い。むしろ、そんな事はどうでも良いと言われている気がする。
エリーヌと共に執務室に入ると、青い顔をした宰相が疲れ果てた姿で佇んでいた。
もう、嫌な予感しかしなくなったが、話を聞かないわけにはいかない。
執務室で宰相から学院内で起きたことから始まり、最後にフランシス侯爵から猛烈な抗議が届いて、すぐに謁見させろと詰め寄られていることまで聞いた。
学院の卒業パーティで起きた事も、王家の影からの報告が入っているので見間違いも、聞き間違いも無いのだろう。奴らは極めて優秀だ。だから、これが事実なのだ。
説明を終えた宰相を下がらせると、ワシとエリーヌは豪華な椅子に腰掛け、二人して頭を抱えていた。
「…まったく、何を考えているのだ、あの愚息は!」
思ず低く唸るような声が出る。手に握りしめた手紙にはフランシス侯爵からの強い抗議文が記されている。
その文面には、各家の自主性を損ねる王家の越権行為について激しい非難、娘の名誉を踏みにじったことへの強い怒りが克明に記されており、到底軽く受け流せるものではなかった。
扱いを間違うと、各貴族と王家の間が対立関係へと発展しかねない状況だ。そんなことになったら、この国は崩壊する。
「わたくしどもがいない間に、一体どうしてそんな勝手を…!」
エリーヌはこめかみに手を当て、アドリアンの振る舞いに信じられないという様子で首を振った。
彼女の美しい顔立ちには疲労と怒りが混じり合い、普段の優雅な佇まいはどこにもなかった。
「もともと、奴の素行が問題だとは分かっていた。女癖の悪さも、横柄な態度も、今に始まったことではないが、それでもこの婚約を結ぶことで奴の立場を安定させ、貴族社会にも王家の権威を再認識できると思っていた。それなのに……」
ワシは苛立ちを隠せず、机を軽く叩いた。侯爵家の令嬢との婚約は、どれほど多くの交渉と譲歩を経て成立させたものか。
侯爵家の当主は決して愚かではない、アドリアンの悪評は既に上位貴族が集う社交界では有名な話だ。自分の大切な愛娘が、そんな悪評高いアドリアンの婚約者になることで、負うことになる苦難も十分理解していた。
それを無理やり、王家の権力でねじ込んでしまった。
ワシには、それ以外の方法が思いつかなかった。
それを、あの馬鹿が一存で破棄してしまったのだ。
「フランシェは何も悪くないというのに、彼女には王太子から婚約破棄された者という、不名誉が付けれてしまった。これでは侯爵家全員の顔に泥を塗ったも同然……この責任、どう取れば良いのかしら! さらに、勝手にターシュエル男爵まで巻き込んで、王家が勝手に結婚相手を決めつけるなんて、これでは誰も王家と関わりを持とうとしないでしょうね」
エリーヌの声は震え、手にしていたハンカチをぎゅっと握りしめる。アドリアンの行いが、ただの家族の問題にとどまらず、国全体の政治問題に波及する可能性がある。
ただし、王家が勝手に結婚相手を決めつけたという部分は、そもそもアドリアンとフランシェとの婚約も同じかもしれん。
「まずはフランシス侯爵と謁見し謝罪と説明を行うが……それだけでは済まぬだろうな。彼が要求するのはただの謝罪ではなく、何かしらの『代償』だろう。だが、それ以上に問題なのは……」
ワシの言葉を遮るように、エリーヌが口を開いた。
「……アドリアン自身が、この状況を何とも思っていないことですわね」
その言葉は、部屋の空気をさらに重くした。エリーヌと顔を見合わせるが、そこに浮かぶのはどうにもならない状況への無力感だった。アドリアンは以前から甘やかされて育ててしまった。自分の振る舞いが周囲にどれだけの迷惑をかけるのか、まるで理解していないのだ。
「王家の未来を託すには、あまりにも心許ない……この状況をどう収めればよいのか……」
ワシは再び手紙に目を落とし、深くため息をついた。侯爵家からの抗議が解決しない限り、王家そのものの信用が危ぶまれる。
だが、根本的な問題は息子であるアドリアン自身にある。
場合によっては、アドリアンを矯正するより、幼いルイをしっかりと教育しながら育てた方が良いのかも知れないが、まだ五歳のルイに託すのも心許ない。
翌日、すべての職務を遅らせて、フランシス侯爵との謁見を最優先にした。
謁見の間に現れたのは侯爵と侯爵夫人、さらに当の本人であるフランシェであった。
はぁ、侯爵だけかと思ったが三人で来てしまったか。
まぁ、正直、平謝りしか無いのだ。国王として頭を下げることはできないが、セリーヌと共に謝り尽くすしかなかった。
そもそも、アドリアンが出した勅書に書かれていた、馬鹿げた言い掛かりについては、公式文章として発行してしまっているので、もはや王家としても否定も取り消しもできないのだ。
それを行ってしまうと、次期国王が誤った命令書を出したことになる。決して、国王の行為に誤りがあってはいけないのだ。
しかし、せめてもの償いとして、アドリアンが書いた勅書には一切触れずに、婚約破棄に伴って王家の私財から多額の賠償金を渡すこという勅書を追加で発行することになった。
これによって、フランシェに瑕疵は無く王家の都合による破棄であると仄めかすことにした。
さらに頭が痛いことに、王都からの追放と辺境の男爵との婚姻についてだが、これも同じく取り消すことは出来ない。ここでも勅書を追加で発行し、王家の私財から多額の支度金を渡す事と、婚姻後に離婚する際は王家が責任を持って仲介すると書くぐらいしか出来なかった。
結局、婚姻後に離婚という形をとったとしても、侯爵令嬢の人生に大きな傷が残ることに違いは無いのだが、せめて、縛り付ける事が無いようにだけはしておいた。
ここまでが、少しでも出来る名誉回復と賠償だが、これで終わりではない。
さらに信頼回復に向けた対応が必要になって来る。しかし、残念なことに、他に出来る事は爵位ぐらいしか出せるものが無い。
それで少しでも信頼回復につながればよいのだが、フランシェ・ド・フランシス個人に対して、大公を与えることにした。そもそも彼女は王家の無理なお願いで、王太子妃となり、更には王妃として王家に名を連ねる立場だったのだ。それが、五年も強制的に妃教育を受けさせた挙句、また王家の身勝手で侯爵令嬢から男爵夫人へと、貴族社会の最上位から最底辺まで格下げになってしまうのだ。
それであれば、せめて王家の一階級下の大公を一代限りで与えることにしたのだ。
これは名誉爵位のようなもので、領地も増えないから収入面での利点は無いが、彼女の公式の立場は大公として扱われるので、損なわれた名誉の回復にはなるだろう。
ちなみに、フランシス侯爵に公爵はどうかと打診したが、取り付く島もない拒絶された。
やはり彼の信頼を取り戻すのは時間がかかるかもしれない。
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