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第2話 秩序の崩壊

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フランシェが退場した後のホールでは――


王太子殿下と取り巻きたちは楽し気に笑い合い、リリアも勝ち誇ったような表情を見せていた。


しかし、その空気に会場内の多くの人が不快感を覚え、彼らの振る舞いに賛同する者は少なかった。

それもそのはず、王太子殿下の評判はすこぶる悪い。まだ、王太子殿下の弟、ルイ殿下の方が良いのではと、五歳のルイ殿下よりも期待値が下回るほどだ。


上位貴族から見た王太子の評価は、「情熱的で周囲の意見に惑わされない強い信念を持った人物であるが、その信念は複数持ち合わせており、自己に秘める深い思料の中において柔軟に変革される恋多き男」であった。


貴族特有の複雑な言い回し表現だが、これを要約すると「人の意見を聞かず、自信満々に我が道を突き進むくせに、一貫性はないから自分勝手に方針もブレまくる。そのうえ女癖の悪い男」ということになるだろう。


そういえば、もう一つ密かに言われている彼の二つ名があった。「革新する確信家」これだ。

この二つ名も彼を言動を表している「ころころと意見や考えが変わるくせに、くだらない自信だけがある」という意味だそうだ。


――――


ダンスホールが微妙な空気に包まれてるころ――


私は、足早にダンスホールのエントランスを出ると、門の外で待っていた侯爵家の馬車が、素早くエントランス前に横づけされた。


「フランシェお嬢様、お迎えに上がりました!」


「ありがとうクラーラ。さぁ帰るわよ」


私は、素早く馬車に乗り込むと館に向けて走らせた。何故、馬車が待っていたのか、それは私が指示していたからだ。

「一時間ほど待って退出してこなければ帰ってよいが、それまで門の外で待機しておくように」と伝えていたのだ。


それと言うのも、先日、王太子の取り巻きの一人、男爵家のシャルル・ダルモンが今回の茶番劇を卒業パーティで行うと話しているのを偶然聞いたのだ。まさかとは思いつつも、あの王太子殿下なら、やりかねないという懸念もあり、念のために、帰りの馬車を用意しておいたのだ。



館に戻ると、ドレスもそのままに、父のアルセーヌ侯爵と母エレオノールに今日あったことを全て話した。このような情報は早い方が良い。ちゃんと自分の口で報告するのが大事だ。


「な、なんてことだ。まさか、それほど、バ…とは思わなかったぞ。まさか、陛下にことわりもなく独断で婚約を破棄するとは、何のために陛下と王妃殿下が苦労されたか、理解していないのか!」


(あ、お父様。今、馬鹿って言いそうになりましたか? )


「まぁまぁまぁ。それは良かったじゃない。貴方様も、婚約の話を陛下から押し付けられて、ずっと愚痴っていたじゃない。これでフランも晴れて王太子妃候補から解放されるわ」


「ああ、そうだな。後は王家の方で考えるか! さすがに婚約破棄を取り消すとは言えないだろうからな。よし。最悪の婚約は破棄された。今日はめでたい日となった。セバス、セバスはおるか! おお、セバス。あの秘蔵のワインを持ってきてくれ、今日はこれより祝宴だ!!」


老執事のセバスも巻き込んで、館を挙げての祝宴は夜遅くまで続いていたが、私と母は、程よいところで切り上げて私室へ戻って行った。


唯一、年の離れた弟セシルは眠ったままだったので、彼だけは知らないだろうが。



ようやく一人になり、ベッドに横たわると、次々と過去の出来事が思い出される。


私が王太子殿下の婚約者に選ばれたのは、まだ九歳の頃だった。その頃すでに、王太子殿下に関する悪評は上位貴族の間で広まり、お茶会などの婚約者選びの場では、どうにかして招待を回避しようと、さまざまな言い訳が飛び交っていた。


実際、十歳から、子供の社交界が始まる。そこである程度、婚約者の候補を絞り、十五歳の社交界デビューでは婚約者とペアになり、女の子は男の子にエスコートしてもらいながら参加するのが通例となっていた。


もちろん、全員が婚約者がいるとは限らない、その場合は異性の親族とペアで参加するのだ。


しかし、ここは貴族社会だ。貴族のほとんどは、十歳の頃には婚約者候補が決まり、十五歳で婚約者と共にデビュタントを迎え、十六歳から十八歳の間に結婚するのが一般的とされている。もしこの慣習に乗り遅れれば、社交の場では「何か問題があるのでは?」と噂され、冷ややかな視線を浴びることになる。


今のままでは、十歳を迎える頃には、釣り合いの取れる年齢の上位貴族の令嬢たちが次々と婚約を結んでしまい、適切な相手を見つけるのが難しくなる可能性がある。

しかも、そのまま王太子殿下が十五歳になっても婚約者どころか候補者さえ決まっていない事態になると、王家の面子は大きく損なわれる。


実際、私も同じく十歳で誰かしら婚約者を立てる予定だったのだ。


さすがに、国王陛下もこのままでは、上位貴族の令嬢たちに逃げられると予想したのか、建前や慣例をかなぐり捨てて、九歳の私を婚約者として名指しで指名してきたのだ。


この時も国王陛下は、他の貴族たちから白い目で見られた。本来であれば、たとえ王家といえども、婚姻を強要する権限はないのだ。そのようなことを命ずるようになると貴族の主体性と自立性は崩れ、貴族社会の根底が揺らぎかねないのだ。


そこで、国王陛下は苦肉の策として、命令ではなく「願い」という形で事を進めることにした。

命令とは異なると主張することで、何とか責任を回避しようとしたのだ。

だが、貴族たちは、子供じみた言い訳に呆れ果て、その信頼は地に落ちる寸前だった。


しかし、王妃殿下の巧みな働きかけにより、反発する貴族たちも何とか宥められ、事態は収束した――表向きは。


だが、それは我が家にとって、まさにとばっちりだった。当時の侯爵家としての我が家の立場は、名ばかりのもので、実際には伯爵家に限りなく近い、最弱の侯爵家に過ぎなかったのだから。


さらに悪いことに、本来ならば頼るべき公爵家や他の有力な侯爵家たちは、王妃殿下によって巧みに説得され、次々と王家の意向を受け入れてしまった。

その結果、我が家は孤立し、王家の「願い」を断る術を完全に失ってしまったのだ。


最後には、父も追い詰められ、泣く泣くその願いを受け入れるしかなかった。


それからの五年、私は王妃教育を叩き込まれてきた。一般常識は当然で、ダンス、マナーから政治、経済、周辺国の情勢までありとあらゆる知識を朝から晩まで徹底的に詰め込んできたのだ。


しかし、今回の騒動で、全てが無駄になってしまった。


いや、一つ良かった点があった。それは、家の経済状態だ。侯爵家の中では最底辺だった我がフランシス侯爵家が、その時は、見て見ぬふりをした公爵家や侯爵家、そして王家が色々と便宜を図り、貿易も産業も発展し今では侯爵家の中ではトップクラスに上がっていったのだ。

――もっとも、我が家では誰もそんなことを望んでいないし、喜んでもいないが。



翌朝、王城から使いの者がやってきた。

あの王太子殿下にしては、早い行動だ。羊皮紙に書かれた勅書にはフランシェの罪状? 所業? 証拠も出せないような言いがかりにしか読み取れない内容と婚約を破棄するという旨が記載されていた。

しかも、何を思ったのか、リリア嬢との婚約まで記載している。


(これ、私に関係なく無いかな?)


そんな、余計な事と共に厭味ったらしく、辺境の男爵との婚姻を命ずるとも書かれていた。


この辺境の男爵という人、正確にはグララド・フォン・ターシュエル男爵だが、社交界では色々と噂が流れている。男爵家の領地は狭く、土地も荒れ果ててた辺境の地で、あまりに収入が無いから、国から援助金を貰っているというのだ。


それで付いた二つ名は「辺境男爵」だ。


貧乏なうえに辺境の地から出てくることも無く、社交の場に顔を出したことが無い。そのため、醜悪な人相で、マナーというものを知らない野蛮な貧乏人と噂されている。


(うーん……この噂、どうも腑に落ちないわ)


収入がないだけで国から援助金が出るなんて、普通はあり得ない。これまでにも、領地経営に失敗して

税を納められなくなった貴族は何人もいた。

でも、彼らは決まって貴族の身分と領地を返上し、平民になっていたはず。

それなのに、どうして男爵だけが援助金を受け取れるの?


(やっぱり、この話には何か裏がありそうね)


噂の信ぴょう性も疑わしくなってきた――何か別の事情が隠されているのかもしれない。


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