第13話 フランシェの心配
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この頃、クラーラの様子がどうにもおかしい。
もちろん、彼女は幼い頃から負けず嫌いで努力家だということは知っている。私の専属侍女になったのもその気質があってこそだ。
だが、ここ最近の彼女の行動は……いや、言葉を選ばずに言うなら もはや侍女の域を越えている としか言いようがない。
――ある日のこと。
「クラーラ、今日はどこに行ってたの?」
夕方、ようやく顔を見せた彼女に尋ねると、クラーラは悪びれもせずに答えた。
「馬術の訓練をしてきました」
「……馬術の訓練? 乗馬がうまくなるように練習しているのかと思っていたけど訓練?」
「はい、最近は少し速い走行にも慣れてきたんです! バランスを崩さずに剣を振る練習もしています!」
えっ、何その危なすぎる訓練は。
私は一瞬絶句した。普通の子爵令嬢は馬に乗るだけで十分満足するものよ? なんで馬の上で剣を振り回す必要があるの?
けれど驚きはそれだけでは終わらなかった。
――次の日。
「あらクラーラ、今度はどこへ?」
「短剣術の稽古です!」
「短剣……え?」
にこやかに答えるクラーラ。まるで午後のお茶会にでも出かけるような顔で、 短剣の稽古 なんて恐ろしい単語をさらっと言わないでほしい。
いや、確かに剣の練習がしてみたいという事でルーカスさんが剣の稽古をつけてくれているのは知っているが、短剣って言っていたかしら?
この時点で、私は軽く目眩を覚えた。
思えば最近の彼女、明らかに身体つきが変わってきている。
背丈は相変わらず小柄なのに、触れるとわかる 引き締まった筋肉。
「ちょっとクラーラ、腕を貸してくれる?」
「はい?」
クラーラの二の腕をつまんでみた瞬間、私は思わず目を見開いた。
「……なにこれ、硬っ!」
「ふふ、毎日鍛えてますから」
いやいやいや、笑顔で言うことじゃないわよ。普通の令嬢の腕ってもっと柔らかいものじゃない? 少なくともこう、 鍛錬の末に仕上がった鋼のような感触ではないはず。
「クラーラ……あなた何を目指しているの?」
「お嬢様を守れる強い侍女です!」
「う、うん……」
確かに心強いけれど、それって普通、 筋骨隆々になる方向で頑張るものじゃないと思うの。
――さらにその翌日。
「今日は何してきたの?」
「剣術の稽古です!最近は副官のルーカス様も少しずつ手加減をしてくれなくなりました!」
待って。
剣術で副官のルーカスさんが手加減なしで相手している?
あの屈強な体格で、鍛え抜かれた男爵家随一の戦士である彼相手に稽古って……クラーラ、あなた本気で何を目指してるの?
「でもお嬢様、ターシュエル領は魔物の脅威がありますからね」
「うん……確かに」
意外にも妙に納得してしまった自分がいた。確かにこの辺境では何が起きても不思議ではない。 強くなっておいて損はない というのは正しい。
でも……でも、 これ普通の侍女の成長過程なの?
ある夜、そんなクラーラに尋ねてみた。
「ねえクラーラ、やっぱり最近あなた変わってるわよ」
「え? そうですか?」
「……ええ。子爵家の令嬢がそんな筋肉つけてどうするのって感じよ」
「お嬢様」クラーラはきっぱりと言い切った。「時代が変わるんです」
「時代?」
「令嬢も戦う時代です!」
……私は そういう時代に突入した覚えはないんだけど?
とはいえ、クラーラが鍛え上げた筋肉を前に反論する勇気も出なかった。
こうして、ターシュエル領での新しい時代(?)は始まりつつあるらしい。
クラーラの筋肉がその証だなんて、私はまだ信じたくないけれど。
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