第12話 メイドの心得 <クラーラ視点>
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夕方、日差しが柔らかくなった庭で、今日の仕事を終えた私はふうっと小さく息を吐いた。
庭のベンチに腰を下ろし、濡れた額の汗を拭う。男爵領での生活は王都とはまるで違う。粗野な雰囲気が漂う一方で、領民たちの真面目さと温かさに触れる日々は私に新たな活力を与えていた。お嬢様の改革案も少しずつ成果を上げ、領地には穏やかな変化の兆しが見える。
「まだまだ、これからだわ」
そう自分に言い聞かせるように呟いた時、風に乗って「カンッ」という鋭い音が聞こえた。
「……剣?」
領地内では日々男爵家の騎士たちが訓練を行っている。だが、今聞こえた音は何か違う。重さのある長剣ではなく、もっと軽快で鋭い何かだ。興味を引かれた私は音の方へ向かって歩き出した。
裏庭に足を踏み入れると、視界の先に二人のメイドの姿があった。
双子のメイド、ジョアンヌとイザベル
見た目は瓜二つの二人が向き合い、手に短剣を握っている。互いに攻防を繰り返し、火花を散らすような迫力ある動きで稽古に没頭していた。
「ふぅっ……!」「やるわね、イザベル!」
「ジョアンヌ、そっちこそ――まだ終わってないわよ!」
二人の息は荒れているのに、動きは衰えない。私は目を見張った。貴族の屋敷で働くメイドといえば掃除や給仕が主な役割のはず。しかしこの双子はまるで戦士のようだ。
「……すごい」
思わず口にしてしまった声に気づいた二人が、振り返る。
「クラーラ様?」
「見られてたのね」
ジョアンヌが微笑みながら短剣を下ろした。
「どうしてメイドが短剣の訓練を?」
素直な疑問が口をついて出る。
「私たちはただのメイドじゃないんです」イザベルが少し得意げに言った。「フランシェお嬢様の護衛も兼任していますから」
「護衛?」私は驚いた。「初めて聞きました……」
「男爵様の命令でもあるのよ」ジョアンヌが続ける。「ここは辺境で危険も多いからね。何かあったときにお嬢様を守れるようにって」
私は無意識に拳を握りしめた。自分もお嬢様を守りたい――その一心で日々鍛錬を続けてきたが、まだまだ力不足を感じる場面も多い。
「私も……教えていただけますか?」
双子は一瞬驚いたように顔を見合わせたが、すぐに笑みを浮かべた。
「もちろん大歓迎です! クラーラ様の根性は騎士たちの間でも評判ですからね」
「ちょっと大げさじゃない?」私は頬を赤らめたが、内心嬉しかった。
その日から、私は双子の指導のもと、短剣術と暗器の扱いを学ぶことになった。
「まずは構えからよ」イザベルが低い姿勢をとる。「短剣は力任せに振るうものじゃないわ。素早さと正確さが肝心」
「敵の動きを見極めることも大事。焦らず、でも迷わずに動くの」ジョアンヌが補足する。
私は二人の動きを真似しようとするが、簡単にはいかない。
「腕にもっと力を抜いて――そうそう、その感じ!」
「敵を攻めるときは、相手の視線を読むのよ」
汗が額を伝う中、私は必死に食らいついた。思った以上に体力を使う訓練だったが、不思議と嫌ではなかった。むしろ新たな技術を身につける興奮があった。
休憩時間、ジョアンヌが肩を叩いてくる。
「本当に根性があるわね、私様。普通の令嬢だったらこんな訓練、三日も持たないわ」
「私は……強くならなきゃいけないんです。お嬢様を守るために」
真剣な言葉に、ジョアンヌとイザベルは目を細めた。
「じゃあ、もっと厳しくしないといけないわね!」
「覚悟してね、クラーラ様!」
双子の宣言に、私は苦笑しながらも頷いた。
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