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第1話 婚約破棄は突然に

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伝統ある王国帝都学院に古くから佇むダンスホールは、煌びやかな装飾と、これから始まる卒業パーティを待ち望む若者たちの楽し気な声に包まれていた。


ホールの中では、貴族の令嬢が競い合うように鮮やかなドレスと宝石を身にまとい、、令息たちもきっちりとタキシードを着こなし、互いに笑顔で語り合っていた。


今宵のダンスパーティは学院生活を締めくくる重要な儀式。


私の名はフランシェ・ド・フランシス。いわゆる侯爵令嬢と呼ばれる立場であり、王太子の婚約者でもある。

煌めく宝石と高貴な笑顔が交差する中、私はその輪の中にいながらも、少し離れた位置からホールの様子を見つめていた。

先ほどから、何とも言えない予感と言うか、胸騒ぎが止まらないのだ。


その予感が的中したのは、パーティを開始するにあたって、卒業生の代表の挨拶として王太子殿下が壇上に上がった瞬間だった。


アドリアン・ド・フリヴォレ王太子、彼はこの国の第一王子で次期国王だ。

その王太子殿下が壇上に上がったというのに、周囲は一層、ざわめきが広がった。


それも、そのはず、何故か王太子の腕には、煌びやかな金糸のドレスを身にまといながらも、どこか品位を欠いた雰囲気を漂わせたリリア・クレシュフォール男爵令嬢が絡みついていたのだ。


(……リリア嬢? あれは無いわ)


貴族の淑女としては到底ありえない振る舞い。

それなのに彼女は周囲の視線を気にも留めず、いや、むしろ誇らしげに微笑んでいる。

そして王太子も満更でもなさそうな顔だ。


「諸君、今更言う事でも無いが、俺がアドリアン王太子だ、今日は卒業を祝って話をするところだが、その前に伝えておきたいことがある」


王太子はわざとらしく、一呼吸入れて、あたりを見渡した。

会場内は一瞬にして静寂に包まれる。


「俺は、フランシェとの婚約を破棄し、新たに、リリアとの婚約を宣言する!」


王太子の声がホール全体に響き渡る。


(……えっ!?)


言葉が耳に届いた瞬間、息が止まった。


(婚約破棄? まさかとは思ったけど、本当に?)


一瞬にして、空気が凍りつき、人々の視線が一斉に私へ向けられるのを感じた。


普段から親しくしている令嬢たちは、すでに私の指示で距離を取っていた。今日、私が注目を集めることは予測済みだったのだから、巻き添えを避けるために離れてもらっていたのだ。


周囲の人々は、目の前で繰り広げられる事態を信じられないという表情で見つめていた。


それも当然だろう。フランシス侯爵家の長女である私と王太子殿下の婚約は、国王陛下の命で正式に成立したものだ。

それが今、突然破棄を告げられただけでなく、よりによって、選ばれた相手がリリア嬢――平民上がりで悪評の絶えない男爵令嬢だ。


何が起きているのか、誰も理解できなかったが、止まった時が動き出すように、じわり、じわりと、騒めきが広がっていく。


ホールを満たすざわめきを打ち消すように、王太子殿下が再び口を開いた。彼の指は、ホールに一人で立つ私を真っ直ぐに指し示している。


「フランシェ、お前は婚約者の立場を利用し、俺の行動や決定に不当に影響を与え、周囲を操る陰謀を企てていた。さらには、禁忌の魔術や呪いを学び、周囲を扇動しようとしている。この俺を誑かした罪として、王都追放を命じる。そして辺境の男爵との婚姻を命ずる! これは王太子命令である!」


(禁忌の魔術……? 呪い……?)


「そうよ。フランシェ様なんてもう必要ないわ」


リリア嬢が殿下に寄り添いながら勝ち誇ったように微笑んでいるが、殿下と上位貴族との会話に下位貴族が口を挟むなどありえない行動に周りの貴族は眉をひそめていた。

しかし、それよりも殿下の言葉について、再びざわめきが広がっているようだ。


「禁断の魔術やら、呪いやら……いったい何の話だ?」


突然の断罪に動揺し、思わずつぶやく貴族たち。


それもそのはず――仮に殿下の言葉が事実であれば、確かに大変な問題だ。だが、この国は法治国家である。公衆の面前で、何の証拠も示されず、公式な裁判も行われないまま、一国の王太子と言えども侯爵家の令嬢を断罪するなど、前代未聞の出来事だった。


私も内心では驚きを感じていた。まさか、法と秩序を守るべき立場の殿下が、自らその基盤を揺るがすような発言をするとは。

さらに驚くべきことに、側近たちも誰一人としてそれを止める気配がない。


(……本当に、驚かされるわね。)


私は静かに息を整え、王太子殿下を見つめた。


(……冷静になりなさい。こういう場で感情を露わにするのは愚かなこと)


これまで五年間の王妃教育で叩き込まれた教えが、自然と私の中で響く。


(人の上に立つ者は、どんな時も感情を表に出してはならない。毅然と立ち、揺らぐことなく堂々としていなさい)


侯爵家の長女である誇り、そして王妃教育を受けた矜持が、私の背筋をまっすぐにさせた。


壇上の王太子はなおも私を睨みつけている。私は軽く息を整え、ゆっくりと視線を殿下へと向ける。

指名されたからには、無視するわけにもいかない。


「アドリアン王太子殿下、確認したいことがありますが、よろしいでしょうか?」


私の声音は静かだったが、ホールの隅々までよく響いた。ざわめきが再び静まり返り、皆が事の成り行きを見守っている。


「何だ。今さら泣きついても遅いぞ」


殿下の顔には薄笑いが浮かんでいる。


「お前のような陰険な女などと結婚する気はない。だが、顔と頭だけは良いから側室としてなら考えてやってもいいぞ」


(っぷ! なんですかね、それは? )


呆れるような提案に、思わず笑いそうになるのをこらえる。


「いえ、それは遠慮いたします」


私の言葉に、静まり返っていたホールに「ブフッ!」と言う音が混じった。


「それより確認したいのですが、今回の婚約破棄について国王陛下はご存知でしょうか?」


殿下は一瞬言葉に詰まったようだった。


「それよりって……ゴホン、父にはまだ報告していないが、お前の悪事も含めてこれから報告するつもりだ。言い逃れができると思うなよ」


「そうですか。それでは、正式な書面で破棄の旨をいただけるようお願い申し上げます。陛下の命令で成立した婚約ですので、正規の手続きを経る必要がございますから」


「ちっ……いちいち面倒な奴だな。分かった! 後で書面を送りつけてやる!」


「ありがとうございます。そして、婚約を破棄していただいた上に、新たな嫁ぎ先までご用意いただき、心より感謝申し上げます」


「最後まで厭味ったらしい奴だ。貴様の顔など見たくもないから、早急に退場しろ!」


私は、満面の笑みを浮かべ、見事なカーテシーを披露してみせた。


壇上の殿下とリリア嬢は虚勢だと思っているのかもしれない。だが、ホールの奥にいる上位貴族の令嬢たちは違った。


(……ああ、彼女たち知っているのよね。あの王太子殿下との婚約破棄が、どういう意味か)


私はゆっくりと歩き出す。


(よっしゃー!)


思わずスキップしたくなる衝動を抑えながらも、冷然とした顔でホールを後にした。



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