第38話
『圧倒的!あっとーてきー!この大会はこいつのためにあるのか!』
「いいぞぉ!」
「これは歴史が変わるぞ!」
「もうお前が優勝でいいよ!」
鳴り止まない歓声。
トーナメントを勝ち上がっていく事にその歓声は大きくなっていく。
こんなに歓声を肌で感じた事が無い、肌がビリビリする。
『このトーナメント戦で急に現れた新進気鋭の剣士』
登場するだけでこのグラナミ闘技場の空気が変わる。
『第1試合から準決勝まで無傷のまま!』
動き一つで観客を魅了する。
『このまま観客の期待に応えて優勝はあるのか!これは目が離せない!』
ここにきてグラナミ闘技場のボルテージがMAXになる。
『その名もタカハシ選手〜!!』
いや、俺じゃないんかい!
今までの口上を聞いた感じ俺だと思ったけど俺じゃないんかい!
トーナメント戦で急に現れた新進気鋭の剣士って言うから俺だと思ってたけど俺じゃないんかい!
俺も第1試合から準決勝まで無傷だったから俺だと思ってたけど俺じゃないんかい!
こんなに差が開くものなの?俺も同じ事してるはずなのに…。
「すごいよねタカハシ選手。私ファンになっちゃいそう!」
「そうですか?そこら辺にあんな奴何人もいますよ」
隣にいるハルさんはタカハシに夢中だ。
俺のカッコいい所を見せようとしてたのにサイエンジが邪魔してきやがる。
俺は自分を上げる事じゃなくて相手を下げる事しか出来ない。
『それに迎え撃つはトーナメント戦に急に現れた悪魔!』
これ、もしかしなくても俺の事だよな?
『第1試合から準決勝まで無傷のまま!不気味に闘い続けるその姿はまさしく大魔王!』
さっきまで悪魔だったのに大魔王になっちゃったよ。
俺のアナウンスが流れる度に悲鳴が起きてるんだけど、普通に闘ってるだけなのにな。
『その名もレン選手〜!!』
これ完全に俺がヒールになってるよな?これで俺が勝っちゃったら暴動が起きるかもしれない。
俺の勝ちを望んでる奴なんかいないんじゃないか?
でも良かったよ、これが俺の名前じゃなくて。
俺の名前だったらメンタルがボロボロになって病んでしまう所だったから。
「すっかり嫌われちゃったね」
隣のハルさんが何とも言えない顔で俺に声をかける。
「俺…、なんかしましたか?」
別に1回戦から準決勝までの相手をボコボコした訳でも無いし、バカにした訳でも無いし、観客を煽った覚えもないのにこの嫌われようはもう生まれ持った物なのかもしれない。
「タカハシ選手のスター性がすごいだけかも」
「…俺には無い物ですね」
タカハシはカッコいい必殺技があるからみんなが応援する気持ちも分かる。
それに比べて俺はただひたすらに相手をワンパンするだけだから応援する気にならないのかもしれないな。
「あれ?もうそろそろ時間じゃない?頑張ってね」
俺のメンヘラな空気を察したハルさんは待機場所へと急かす。
「はぃ、優勝しますので観ておいてください」
俺はトボトボと待機場所に向かった。
***
『ただいまより第59回グラナミ最強トーナメント戦の決勝戦を行います!』
アナウンスが流れた瞬間歓声がすごいからアナウンスが聞きづらい。
『タカハシ選手とレン選手の入場です』
俺への歓声はほとんど無く、タカハシへの歓声がほとんどだ。
タカハシは別に歓声に応えるわけでも無く、戦う俺の事を見る訳でも無く、興味無さそうに入場する。
俺は俺の決勝戦なのにアウェイだからモジモジしてしまってる。
『位置についてください』
そういえばこいつの名前って転生前の苗字になってるな。
タカハシって高橋だよな?もしかしてこいつも転生者?…な訳ないか。
そんな事よりこいつに勝って俺はハルさんに良い所を見せないといけないんだよ!




