第32話
なんやかんやあってもう学園祭?学祭?みたいなのが始まってしまった。
厳密な事を言えばまだ始まっていない。
俺とハルさんはまだ暗い朝の時間帯にオズマサール学園に来ていた。
祭り当日なだけあっていつもと違うオズマサール学園が見られて気持ちが昂るけどもう俺は見ることが出来ない。
作戦の通り俺たちはなるべく遠い場所に行くための馬車に乗るためだ。
転生してから結構経つけどまだ馬車に乗ったことが無かったからかなりワクワクしてる。
これだよこれ、異世界転生の定番と言ったら馬車に乗って異世界の綺麗な風景を見ることだよな。
「じゃあ頼むよ」
「あいよ。そっちこそちゃんとやれよ」
「誰に言ってんだい」
師匠とここまでハルさんを連れてきたサテライトの人たちは仕事だから俺とハルさんの見送りに来てくれた。
いや、そんなに来てくれたら変に緊張しちゃうよ。
ハルさんに俺の緊張がバレたら恥ずかしいから必死にポーカーフェイスをする。
ハルさんはローブを着ていてフード?を深く被っているから表情は見えない。
俺は先に馬車に乗り込む。
なぜなら紳士な俺はハルさんに手を貸すためだ。
こういう所でモテる奴とモテない奴の差が開くんだよなぁ。
「どうぞ」
俺はハルさんに手を差し出す。
この光景何回かアニメで見たことある!大体男の方はイケメン執事なんだよなぁ。
「…」
ハルさんの手が一瞬だけ動いたけど俺の手を取ることなくそのまま馬車に乗り込む。
あまり無い状況に俺は焦りを隠すことが出来なかった。
え、どうして俺の手を取らなかったの?俺の事嫌いなの?
自分の手を少し見て、もしかして汚い?と思いズボンでゴシゴシと手を拭いた。
まぁ今更拭いたところで遅いんだけどね。
俺はこの光景を師匠とサテライトの人たちに見られている事に気づいて恥ずかしさが時間差でやってきた。
「じゃあ…、行ってきます」
俺は師匠とサテライトの人たちの顔を見ることが出来なかった。
さっさと席に座って馬車が走るのを待った。
***
「……」
「……」
馬車が走り出したから10分が経とうとしてるがまだまだ会話が0である。
当たり前だけど俺から話しかけないとダメなのに俺が緊張してたら意味がない。
やっぱりモテる奴は会話が上手だからな、話し上手も聞き上手もモテるからここが勝負の時でもある。
「いやぁ、いい天気ですね」
「……」
「こんなに晴れるとは思いませんでしたよ」
「……」
「ほら、見てくださいよ。雲一つ無…、一つありましたけどいい天気には違いないので安心してください」
「……」
ふぅ〜俺のメンタルがゴリゴリにすり減っていくのが分かる。
え、そんなに俺と話したくない?結構無視するのも勇気がいるくらい話しかけてるんだけど。
「雨って嫌いですか?俺はそこまで嫌いじゃないんですよね。むしろ好き寄りまであるんですよね」
「……」
天気の話は食いつかないか。
「あっち行ったら何します?遊べる場所があれば良いですね」
「……」
「安心してください。俺がいますからあっちに行っても怖い事なんて起きませんから」
「……」
「俺なんでもしますから!俺に言ってくれたらハルさんの望みを全て叶えてみせます」
「ねぇ」
ここにきて初めてハルさんの口が動いた。
とりあえずハルさんの声が聞けて安心してる。
きっと俺の熱い気持ちにハルさんの何かを動かしたのに違いない。
「うるさい」
「すみませんでした」
本当にこの先上手くやっていけるかな?




