第30話
あれから作戦の話を聞かされたが頭の中にはちょっとしか入ってきていない。
俺は心の中にモヤモヤが溜まっている。
転生後と転生前も味わったことが無かったこの感じ、すごく変な感じがする。
誰とも話したくない、今はただ一人で考えたい。
まさか師匠があんな訳の分からない犯罪の団体か何かにビビってるのが本当に気に食わない。
師匠がいれば作戦なんていらない、俺と師匠がいたら最強なのに。
そんな事を考えながら家にゆっくりと帰って行く。
いつもならとっくに着いてるはずなのに考え事をしてるせいで全然家に着かない。
とにかく脚が重い、家に師匠がいるのも帰りが遅い原因ではある。
俺みたいな奴が考えたところで何の解決も出来るわけがないから考えるのをやめておこう。
俺はそこから走って帰った、何も考えたかなかった、考えたら何かが俺を襲う気がしたから。
***
「ただいま」
「おかえり」
ペットのワッフルに向けて言ったはずの挨拶を返されてビックリしてしまう。
もう師匠が帰ってきていたようだ。
別に喧嘩をした訳じゃないし、師匠が俺を怒ってる訳じゃないのに今は師匠の顔を見たくなかった。
見てしまったら俺の何かが爆発しそうだったから。
「俺もう寝るわ」
俺は師匠の顔をなるべく見ずに自分の部屋へ向かう。
…頼むから呼び止めないでくれ。
こんなにも自分の部屋に戻ることが緊張する事だとは思わなかった。
一歩一歩が緊張する。
「ちょっと待ちな」
…どうして呼び止めるんだよ。
「何?」
俺は師匠のところへは行かずにその場でやり過ごそうとする。
「あんたちゃんと作戦は聞いたんだろうね?あんたは私の話もちゃんと聞けないからね」
「別にちゃんとやるよ」
「本当だろうね」
「俺なんか特にやる事ないじゃん」
「そんな事無いよ。あんたもちゃんとした作戦の一人だからね」
「分かってる」
「何だい?その返事は。やる気あるのかい?」
「あるって」
「この作戦はあんたにかかってるって言っても過言じゃないからね」
どこから俺は爆発してたか分からなかった。
だけど、初めて見た慎重な師匠に俺は情けないと感じてしまった。
俺の脚は自然と師匠の方へと向かっていた。
「俺にちゃんと作戦をして欲しかったら勝負しろ」
初めて師匠にふざけなしの生意気な言葉を言ったかもしれない。
「師匠が勝ったらちゃんとハルって人を守ってやるよ。師匠が負けたら俺はこの作戦から降りる」
「分かった。先に道場で待ってるよ」
いつもと違う俺の感じを読み取ったのか師匠は俺と決闘をしてくれるらしい。
勢いで言ってしまったけど勝ったら本当に俺はこの作戦から降りる予定だ。
初めてかもしれない師匠と本気で闘うのは。
いつもは稽古だから師匠の本気を知らないから今日知る事が出来るかもしれない。
***
誰もいない道場で俺と師匠が木刀を持って対面する。
「手加減なんかいらないからな」
「誰がそんな事するかい。むしろちょっとだけ本気を出すから怪我は覚悟しときな」
「師匠の方こそな」
そこからしばらく静寂の時間が流れた。
ダンッ
最初に動いたのは俺だった。
いつもなら相手の動きを見るところだけど師匠にそんな事したら一瞬で返されて終わってしまう。
だから最初から全力でいく。
だけど師匠は俺の全力をいとも簡単に受け止めてしまう。
「流石に強くなったね」
俺を褒める余裕があるのがムカつく。
俺が右から攻めようが左から攻めようが師匠は一歩も動くこともなく受け止めていく。
これじゃ俺のスタミナ切れで負けてしまう。
どうせスタミナが切れるなら1分に全てを持っていく。
「…!」
ズッ…ズズズ
師匠が後ろに下がってる。
イケる、イケるぞ!このままいったら師匠に勝て…。
そう思った瞬間俺は床に倒れ道場の天井を見ていた。




