第27話
「これで全員かい?」
「はい、これで全員です」
あのババア思いっきり腹を殴りやがって、おかげでずっと腹を抱えないと立ってられない。
「じゃあ場所を変えようかね」
「は?」
思わず声が出てしまった。
このババアは何を言い始めるんだと思ったら来て早々に場所を変える?
「何も場所を変える事無いだろ。話したい事があるならここで話せよ」
「ここじゃ話せない事だから場所を変えるんだよ、そんな事も分からないのかい」
「だったら元々そっちに集合場所にすれば良かっただろ」
「馬鹿だね、お前らにお願いするんだからこっちが出向くのは当然の話だよ」
いや、どうして馬鹿って言われないといけないんだよ。
「これが礼儀ってもんさ、覚えておきな」
あれだけ人の事殴っといて何が礼儀だよって言いたかったけど言ったらまた殴られるかもしれないからやめておいた。
師匠はこういう変なとこ真面目だからなぁ。
「まぁとりあえず付いてきな」
俺たちは師匠の後をついていく。
「ねぇ、本当にサキさんが師匠なの?」
隣で歩いてる部長がコッソリと俺に聞いてくる。
そもそも師匠ってサキなんだ名前、知らなかった。
そういえば師匠の名前を知ってるって事はもしかして師匠って結構有名人?
「まぁ、師匠ではありますね」
「師匠ではある?ちょっと含みのある言い方だね」
「小さい頃から育ててもらったので親みたいなもんなんですよ」
俺と部長が話してるのを気づかれないように聞いてるつもりだろうけどバレバレだからなレン。
そんなに俺の小さい頃の俺が気になるのか?こいつは。
いつもなら興味を示さないくせに今日は食いつきが違うな。
もしかしてこいつショタ好きなのか?だから俺の小さい頃の話が気になるのか。
「ごめんね、ジンって両親は…」
「はい。いないですよ」
「ごめんね、嫌な事聞いちゃって」
「いえいえ、顔すら見たこと無いんで悲しくもないですよ」
そう、俺は転生した瞬間捨てられた赤ちゃんの状態だったから早速人生終了してもおかしくなかった。
だけど、師匠が拾ってくれたおかげで今もなんとか生き延びてる。
あの女神の野郎、次会った時は絶対に文句の一つや二つは言ってやる。
「じゃあ今までずっとサキさんに育ててもらってたの?」
「はい」
「すごいね」
「何がですか?」
「だってあのサキさんだよ?」
あのサキさんって…、やはり師匠は有名人なのか?
「師匠ってそんなにすごい人なんですか?」
「すごいってものじゃないよ、この世界に知らない人がいないくらい有名だよ」
じゃあめちゃくちゃ有名人だ!
うちの師匠ってそんなに有名なの?家では普通のおばさんなのに?
「ちなみに何でそんな有名なんですか?」
「強さだよ」
すごっ!この魔法の世界で一番強い人が俺の師匠だったんだ。
いや、ある程度強い人なのは知ってたけど1番強い人だとは思わなかった。
あ、だからレンは俺と部長の話を聞こうとしてたんだ、師匠の事を聞きたくて。
なんだ、ショタ好きじゃなかったのかよ…。
「じゃあずっとジンはサキさんに稽古してもらってたの?」
「はい」
「いいなぁ〜」
部長は俺が師匠の稽古を受けてるのを心の底から羨んでいるのが分かる。
「全然良くないですよ」
師匠の稽古を受けた俺から言わせてもらえばあんなのは稽古じゃない。
あれはただの一方的な暴力だ。
「そう?僕も一回は稽古をつけてほしいよ」
部長は知らないだけだ、あの恐ろしさを。
吐いても泣いても立てなくても許してくれないあの地獄を。
うおっ!思い出しただけで身震いを起こしてしまった。
それくらい俺の身体はあの地獄を覚えているのだ。
「いつまで喋ってるんだい?もう着くから黙ってな」
聞こえてたのかよ、まぁ流石に詳細な内容は聞こえてないから良しとしよう。
もし聞こえてたらまた俺の頭にタンコブが増えてしまうならな。
「入るよ」
ここって学園長の部屋だよな?
師匠は学園長の返事を聞かずに乱暴にドアを開ける。
学園長って偉い人だよね?大丈夫なの?
部屋の中を見るとすごい人数のサテライトの人達がいた。
これは只事では無さそうだな。




