僕の選択
3月31日23時50分。 世界の片隅。
これは、僕の未来を決める重要な選択である。
会場に集まった十数名の参加者達。そのほとんどが10代前半の少年の姿をしていた。黒髪黒目で似たような顔の造形をしているが、衣装だけは個性が際立っているので、区別するのは難しくない。
僕は、この中の誰かを選び、役目を引き継がなければならないのだ。
「今日こそは決めてくれるんだろうな?」
1番に声をかけた来たのは、ワックスで立ち上がらせた髪とラフな格好が特徴の少年だ。彼が1番最初に出てくるのは、今日だけでなく、いつものことだった。
「悪いことは言わねぇから、俺にしとけよな?」
僕より少し背の高い少年は、ズカズカと距離を詰め、肩を組んで笑いかけてくる。
「1番、無難だぜ?」
「それはどうでしょうか」
別の参加者、スーツ姿の少年が異を唱えた。
「無難に、と言うことならば、私を選ぶべきだと思いますよ」
最初の少年とは対象的なフォーマルな格好に、遊びのない七三分けの髪。上から糸で引っ張られているかのように真っ直ぐな立ち姿勢からは、知的な格好良さが溢れていた。
「いや。お前は、堅苦し過ぎんだよ」
相対する少年の特徴は、ワイルドな格好良さだろう。
人によっては、乱暴とか、偉そうだと思われるかもしれないが、見た目が幼いーー僕よりは上だけどーーこともあり、そう言った負のイメージは湧きにくい。
「そんなヤツらより、俺様を選べ! あと、とっととここから出しやがれェ!」
檻に閉じ込めてある、偉そうな乱暴者が声を荒げているが、気にしてはいけない。彼は初日の時点で、候補から外れているのだ。
「こいつぐらいの年なら、俺が、無難だろ?」
「年齢は関係ありません。私が、無難です」
「どれ、決まらんのなら、わしも名乗りでようかね」
少年2人の言い争いに、意気揚々と丹前を着た老人が参戦した。白髪に口髭、手足は肉が削ぎ落ち骨と皮だけように見えるが、その足取りは不思議と軽い。
「こう見えて、実は1部じゃ老若問わず人気なんじゃよ。わし?」
杖をおもちゃのステッキのように振りながら、楽しそうにスキップで近づいてくる。
「あー、悪ぃんだけどよーー」
「残念ですが、あなたはーー」
「10年早ェ」
「論外ですね」
が、息ぴったりに否定され、ガックリと項垂れる。
「わしじゃ、ダメ、かの」
「ダメだな」
「10年、いえ、50年ほどしてから出直してください」
「無念」
杖を落として、項垂れる老人。しかし、その顔には僅かな笑みが浮かんでおり、
「ま、どうせ、最後はわしを選ぶことになるんじゃがの」
消え入るような声で呟き、老人は去って行った。
「んじゃ、改めてーー」
「いえ、その前に一つはっきりさせておきましょう」
ワイルドな少年の言葉を遮り、クールな少年は僕に背を向ける。より正確に言うなら、他の少年達を見て、腕を大きく広げた。
「他に名乗り出る方はいませんか?」
「出てくんなら今のうち、ってことだな?」
「えぇ、そういうことです」
少年達は近いもの同士、小声で話し合ってるようだったが、挙手や近づいてくる様子はない。
その様子を見て、満足気に振り返った。
「お待たせいたしました。我こそはという方も居ないようなのーー」
「フハハハハ八八ノヽノヽノヽノ \!!」
突如、響き渡った哄笑の方へ目を向けると、闇を纏った少年が浮いていた。
身に纏うのは裾だけが不自然にボロボロなコート。何故か片方の肘から先だけが千切れており、腕には怪我でもしたのか包帯が巻かれている。頭にフード、両手に模様の入ったグローブ、両足に黒いロングブーツと、全体的に暑そうな服装だ。
「我は、此処にあり」
眼帯を片手で抑えながら、少年は呟く。野性味とも知性とも違う、ファンタジックな格好良さ。
「全ての選択は、既に運命で決まっている」
『はい。決めました』
「わ、悪いことは言わねぇから、アレ、はやめとけ、な?」
「そ、そうです。アレ、を選ぶと後悔する事になりますよ」
2人の少年は止めようとしてくるが、僕の心はもう決まった。いや、あの少年の言葉を借りるなら、僕が今日まで決められなかったのは、彼がいなかったからだろう。
『【僕】の後継者をお願いします。【我】』
「それは違うぞ。少年」
にべもなく断られてしまった。
そう来るとは思ってなかったので、【僕】は面食らってしまう。
『どうして……』
【我】の後ろでは、【自分】や【うち】がホッとため息をつき、【わし】は遠くでニヤリと笑い、【俺様】はガンガンと檻を叩いていた。
「断られたんだよ、行くぞ」
「えぇ、早く諦めましょう」
後ろから来た【俺】と【私】に両手を掴まれ、引き戻される。いやだ。
『僕はーー』
「我は!」
通るような大声に、場が静まり返った。
視線が【我】へと集まる。
「我は、後継者には成れぬ運命に生まれた異端児」
憂いを帯びた表情で、【我】はゆっくりと天へと手を伸ばす。そして、そこにある何かを壊さないように、優しく手を握りしめた。
「我に出来るのは、真名を名乗り、世界の真理に触れる事のみ。世を忍ぶ仮の姿として、【僕】にはいてもらわなければならないのだよ」
『はい!』
選択は成った。
『一緒に、行きましょう!』
「うむ。頼むぞ、我が半身よ!」
4月1日0時00分。精神世界の片隅。
僕の選択は成った。
そして、暦の上では今日から中学2年生だ。
始業式までの1週間。選んだ彼のようになる為に、僕は頑張らなければならない。
『我が名はーー』
一人称(僕)が中学2年生になるのに向けて、一人称を変えようと考えて、中二病(我)になる物語でした。
ちなみに筆者は、名前→うち→自分。
皆様はどんな一人称でしたか?