第1話 ソヒィスティア王国
今回はプロローグの半分くらいの文字数なので気軽に読めると思います。
それでは第1話をお楽しみください。
聖歴、3623年、4月20日、ソヒィスティア王国、王都アイウィン。
「手紙だとこの辺なんだが……相変わらず案内系は苦手なんだな。さて、どうしたものかなぁ?これじゃあ完全に迷子だ」
灰色のローブを頭まで被った少年が手紙を片手に歩いていた。
「ソヒィスティア王国、王都アイウィン。ここに来たのも久しぶりだな、前に来た時は確か6年ちょっと前か……」
過去を懐かしむかの様に街並みを眺めながら歩く少年。
建物はレンガで出き、道は石の石材で舗装されていて、馬車が走っている。
「は…し……だ………キャ…」
「ん?」
歩いていた少年の耳に掠れた声が聞こえてきた。
少年は足を止めて、声が聞こえて来た方を向いた。そこには人が2人並んで歩けるかわからない道があり、少年はため息を一つしてその道の先へと足を進めた。
足を進めるに応じて声が鮮明に聞き取れるようになっていった。
「放してください!」
白の服をベースに右肩から左腰にかけて赤、青、緑、黄色のストライプ。左胸にはこの国を象徴する川と風を象ったエンブレム。それらが入った服を着ている、川を連想させる様な長い水色の髪に、風を思わせる様な緑の瞳を持った少女が男3人組に絡まれていた。
(ん?あの服は確かここの学院の制服……それに水色の髪と緑の瞳………何故この子がここにいるんだ?…………ああ、なるほど………顔を見られない様に助けてこの場を去ろう)
少年は少女を見て驚いたが、何かに気付いたのか目を細めながらこのあとの行動を決めて、少女と男達の所まで足を進めた。
「すみません、その子に何かご用ですか?」
「あん?誰だぁ〜お前はぁ〜?」
男達は声をかけられて怪訝そうに振り向き少年に目を向けた。男達はかなり酔っており、口からはお酒の匂いを漂わせていた。
「酔うのは勝手ですが、朝から女の子を男3人でからかうのはよろしくありませんね」
「だからぁ〜お前はぁ〜誰だって聞いてんーーガフッ!」「ホギャッ!」 「ヘブッ!」
「さて、お願いも無事終えたことですし、私はこれで失礼させていただきます」
「は、はい……」
少女はこの状況に戸惑いを隠しきれない様子でいたが、少年はそんな少女に一礼をして、先程手刀で気絶させた男達を近くの壁にもたれかかるように座らせて、この場を去ろうと素早く魔法の詠唱を始める。
「………報われぬ願い…………手向けの花…………………「はっ!まっ」彼等に一時の安寧を《モーメント・オルタナティブ》」
「て……え?……消え…た?」
我に返った少女が制止の言葉を言うより早く少年の魔法が発動し、そこに少年がいなかったかのように姿が消えていた。突然消えた少年に驚いた少女の言葉は一陣の風に乗って空に消えていった。
✳︎✳︎✳︎
サイド [謎の少年]
「(つ、疲れた……何故行く先々でこうもトラブルに……トラブル体質だったかなぁ?) 」
あれから行く先々でトラブル。20件以上からは数えるのを諦めた……
「少なくとも君はトラブル体質じゃないことは確かよ」
自身の体質にうなだれながらトボトボと目的地に向けて歩いていると、背後から懐かしい声がし、振り返って私は彼女に文句を言った。
「勝手に人の心を読まないで頂けますか?アルメリア学院長」
イタズラが成功したかのようにふふっと微笑み、アルメリア学院長は私の名前を呼んだ。
「久しぶり、エドバ君」
「ええ、久しぶりですね」
「なによ、君が遅いから迎えに来たのにその顔は!」
どうやら顔に出てたらしい、正確には出していたと言う方が正しいのではあるのだが。
「すみません、どうやら疲れて表情が緩んでいたみたいですね。それでどこで話し合いをしますか?」
それを聞いたアルメリア学院長は少し思案した後。
「華麗にスルーされた気がするけど、まぁエドバ君だしね……それじゃあ学院に行きましょう、あそこなら安心して話ができるもの」
学院とは王立学院のことだろう、ここソヒィスティア王国は差別が少なく、平民や異種族でも受け入れてもらえることで有名である。それゆえ学院に通う生徒も様々な種族が在籍していて、世界中から人が集まって来るのだ。まぁそれだけではないが…
そう思い、横目でアルメリア学院長を眺める。艶やかで腰まで伸びた金髪に青空を思わせるような水色の瞳、そして尖った耳。アルメリア学院長はエルフ族の中でも珍しい種族でエンシェント・エルフと言うらしい、魔力がエルフ、ハイエルフ、より遥かに多く、精霊の寵愛を生まれ持つと言われている。
「どうしたのエドバ君?あ!まさか私に見惚れていた?」
私の視線に気が付いたのかアルメリア学院長はありもしない想像を膨らませて、からかってきた。
「いえ、何も変わっていないなと思い見ていただけです」
「な!?何も変わっていないですって!変わったわよ!身長とかスリーサイズとか5年前と変わっているんだからね!」
確かに外見は変わっている、が中身は全く変わっていない何故ならーー
「そっちは学院と真逆の道ですよ」
「え?こっちじゃないの?」
そう、アルメリア学院長は極度の方向音痴である。運動神経、文学など天才的だが何かを探す事や何かを案内する事は苦手……と言うよりわざとやっているのではと思うくらい、全く出来ないのである。ではなぜ私を迎えに来られていたか、それは魔力探知で探し出し、転移魔法で転移して来たのだろう。でなければアルメリア学院長はここにいない。
そのやり取りを数十回繰り返しやっと学院があと少しの所まで来た。
「やっ…やっと見えて来た……」
「ん〜案外長かったわね〜」
「長いなんて言葉じゃすまされませんよ……普通あそこから3分を30分ですよ!」
「あら?10倍で済んだのね」
「すんだのねって……ハァー」
本当に変わっていない。いつもなら何倍なんだろう……考えたく無いな。
そんな事を考えていると正門の目の前に辿り着いたみたいだ。
正門には上から順に赤、青、黄色、緑の5センチ程度の線が左右の端から正門の真ん中にある水晶に目掛けてあり。縦横共に10メートルで両開きになっていて今は閉まっている。
「着いたわね、それじゃあ門を開けましょうか」
そう言ってアルメリア学院長は正門に手を置き、自身の魔力を正門に流した、しばらくして正門に入った4つの線と水晶が光出した。
「魔力を確認。認証人物を検索。該当者。学院長アルメリア・フォレストに該当。セキルティーを解除。開門します」
機械の声と共にゆっくりと正門が内側に開き、学院の象徴たる白亜の居城と風景が少しずつその姿を顕にする。それに私は関心していた。
「流石ですね、世界有数の新学院にして、その学内は世界でも1、2を争うほど広く、設備も最先端。噂には聞いていましたが……これは予想以上です」
学院を眺めていたエドバに微笑みを浮かべたアルメリアはエドバの前に歩いていき。
エドバに満面の笑みでこう言った。
「ようこそ、ソヒィスティア王立学院へ」
いかがでしたでしょうか。
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