第15話その2
夜
1つの窓から
月が見える
ここは部屋
私が寝て起きる
小さな部屋
常に一人っきりの
もったいないくらいの大きさの部屋
備え付けられた太いチューブのような部屋
狭い狭いシャワー室
服を脱ぎ
頭巾を外し
肌に馴染みきらなかった分の血を流す
清らかな物でも時が経てば不浄になる……らしい
残念な話だ
温かなお湯が僕を伝う
…………なんだ、この気持ち
ギタギタする口をシャワーで流し
排水口にペッと吐き出す。
僕の歯にはまだあの感覚が残っている
……やっぱ、分かんないや
1秒前の感情と、
なんか違う気がするんだけど。
シャワー室を出て
壁の小さな扉を開いて
赤い服と
赤い頭巾
赤いズボンを放り込み
裸のままベットに置かれた着替えを取る
「………相変わらず、いつも通りか」
服を纏い
頭巾をかぶる。
もはや直接当たる電灯が痛く思えるほど
私は頭巾に慣れすぎている。
ベットに座り
今日のことを考える。
自分の今の感情を考えてみる
これは……何?
あのときあるべき感情は喜びしか存在しない
同士と同化することは喜び、
同士に打ち勝つことは喜ばしいことのはずだ。
「喜怒哀楽」
本で読んだことがある
本棚に収められた私の愛読
聖書、辞書には書いてある。
主の与えしものには喜びを
主を仇なす者には怒りを
主の受けるあらゆる害には悲しみを
主の作りし全ては楽しいと
私は知っている。
でもなんだろう
この感じ
……そうだ、以前感じたことがある。
あれは確かそう、
彼だ
誰だっけ?
わからないけどいつも私の前に座ってた
あの子だ
『ねぇねぇ、見てみて』
『わたしね、君よりお目々がが高いんだ!』
『そんなはずないよ、僕らは主様がまったく同じに作ってくださったんだから』
『僕らはいつだっておんなじさ』
『そうかなぁ……?』
『ほら、背中合わせてみようよ』
『いやだよ』
『え〜、いいじゃんいいじゃん!』
『いくない!』
『どうせ同じだから無駄だよ』
『え〜、そうかな?』
『わたし達は 』
………あれ?
あのとき、何を言われたんだっけ?
わからないや
なんだって、彼女に会ったのはその日が
さいごだったんだから。
もう、今頭に響いた声が
本当にあの子のものだったかもわからない。
「…………っ」
頭が痛い
「頭のきずかな……?」
シャワーのとき剥がしてから
処置してなかったな
「すぐ治るからって雑にはできないか」
頭巾のジッパーを下ろし
デコを確認する。
「………あれ?塞がってる」
「じゃあ、なんで……?」
僕は首を捻った。
「………何?」
いつもと変わらない教場
一般教養の時間
白き剛腕が急にボソリと呟く
「?」
何か啓示を受けたのだろうか
「悪いが席を離れる」
「45ページの練習問題8〜15をやっておけ」
その言葉に全員返事し
それを聞いた彼は教場を去る。
「なぁなぁ」
「………何?」
「私達はいつだって見られてるんだから真面目にやらないと」
私の腕が突かれる
苛立ちながらもあまりのしつこさに無視できず
思わず問うてしまう。
「見られてるって誰に?」
「?」
「そりゃぁ、上位天使様に……」
僕は左隣になった同士を見る
あいも変わらず私そのまんまな白装束が目に入る。
「なはは、違う違う」
「俺らを見ているのはあれ」
俺と言う同士は話しかけながらも止めていなかったペンを止め、大きくなってしまったように感じる部屋の角を指す。
「あの箱だよ」
「箱?」
「あの小さくて白くて珍しく黒い穴の付いたあれかい?」
そう聞き返したのは
私じゃない、
右隣のやつだ。
「あの箱がどうして僕らを見れるんだい?」
「それは知らない」
「このペンが書けるようにきっとそういうもんなんだよ」
「それはこのペンと同じようにそういう奇跡ってことかい?」
「………いいや、違うね」
「そもそもペンだって違うさ」
「このペンが書けなくなったとき天使様は違うのを差し出した、つまりこれは天使様が作ってないってことさ」
「主が作ったのかもしれないよ?」
この2人は何故私を挟んで平然と会話ができるのだろう
………なんか勝手に昨日の傷の部分に力が入って痛い
それになんかさっきより少し暑い。
「う〜ん、まぁその可能性もあるね」
「でも俺は最近感じるんだ」
「何を?」
「わかんない」
「何それ」
私と言う同士は首を捻る。
「そう、その感情」
「?」
「何故か首を傾けちゃう感情」
「それを最近全てに感じるんだ」
「でも今まで感じてた『何』ともちょっと違う……」
「………違和感?」
「そう、それ!」
僕の呟きを彼は耳ざとく拾い上げる。
「何だっけそれ、私知らない」
「ほら、教わっただろ」
「自身の教えに反する者に対して持つ感情だって」
「前、それを感じたことがあったけど」
「今、俺はそれを自分に感じてるんだ」
「ああ、つまり僕が今君に抱いてる感情だね?」
「それはわかんない」
「けど、俺主に対するものって全部自分に置き換えれると思うんだ!」
「………!」
そのとき
その言葉
私に、いや私を駆け抜けていくような何かを感じた。
「俺たちを害するものに対する心は怒り」
「お前達が受ける害に対する心は悲しみ」
「俺はそう思う」
「だろ?08」
「…………わかんない」
僕の口から勝手にこぼれる
本心ではない小さな言葉
しかしその言葉を喜ぶように
「だよなぁ!」
「俺も説明できる語彙力ねぇから自分でも何言ってるのかわかんねぇ〜」
彼は僕の背中をバンバン叩く
「ま、俺たちにだって時間はあるんだ考えてこうぜ」
「………でも、何でそれを私に話したんだ?」
「こんなの、下手したら追放ものだぞ」
「そりゃ、怖い」
「でもそれはお前が天使様にそれを教えたら、だろ?」
「断言するぜ、そうはならない」
「………」
「お前は俺と同じだからな」
「………?」
「お前、心の臓を取り出すためだけにしか使っちゃいけない爪を儀式で相手倒すのに使ってただろ?」
「…………あれは事故だ」
「ん?なんだそうか、そりゃ残念だ」
「ま、普段の様子だよ様子」
「お前は俺と同じだ、主を素晴らしいから信じてはいない、生きるために信じてる、そうだろ?」
「お前は確かに、あのとき、あの一瞬いつよりも素直になっていたんだぜ?」
「だから、わかんないって言って!
ガラッ
私が言い返そうとしたとき、
突如ドアが開く
白き剛腕の帰還だ。
いつものように足音をたてながら
教壇に立つ
「………」
剛腕は喋らず、漏らさず、黙って昨日より半分以下となった私達を見つめ
口を開く
「君達は翼も与えられていない未熟な天使」
「しかし今日、大きな害が主を仇なさんとすると白き早眼より掲示があった」
普段では考えられないほど温和な声色
それでいて普段では考えられないほど自身が揺らぐ震えた声。
「………本日、君たちに翼を授ける」
その喉、
その口から告げられた言葉に
皆がどよめく。
それは喜びであり
困惑である。
なぜなら僕は
「聖育を終えた君達はもう未熟ではない」
「君達は与えられた翼を羽ばたかすに足る者達だ」
「………けっ、よく言うぜ」
「さっきまで散々未熟扱いしたくせに」
俺と言う同士がぼやく
しかし、いつもなら振るわれる鞭が来ない
剛腕の耳ならば聞き逃すはずも無いのに
「……さぁ、皆の者出陣だ」
「今まで鍛えた体と獣のような技腕で」
「主に平穏を!」
「「「はっ!」」」
………口が勝手に
祈りの型
体が勝手に動く
それは俺と言う同士も同じ
「………染み付いてやがる」
やっぱり打たれないが
同士はボソリと呟いた。




