第2話 その5
受け取ったケースを地に置いた瞬間、
四画のロックが外れていく。
今度は彼を目がけることなく噴き出す白煙。
「おぉ」
思わず早太は感動のあまり声を漏らす。
わざわざ特注したであろう、
無駄に高級感ある赤い布ばりの少し硬めなクッションに、
押収されていた本体とプレートがジャストサイズではめ込まれていた。
「よっ」
割ときつめにはめ込まれたそれらを引き抜き、
怪物に向き直る。
「手順は逆に……」
プレートを本体に挿入!
『……please set』
腰にあのベルトが出現する。
「そこに上から……」
「はめ難いな……」
「う〜ん、よし!」
その瞬間何処からか……というか地面から目の前に半透明な謎のパネルが現れる。
「畳…?」
呟く小木、無視する早太。
「早太君、流石に何か言った方が!」
「合図的な!掛け声的な!」
何故かハイテンションなアルの声、
早太は考えるように目をぐるりと回し、
呟くように…
「変動……」
シャッターを切った瞬間、放たれた光がゆっくりと彼に迫り来るパネルに人形を焼き付ける。
そして彼を通り抜けた瞬間、
そこにはあの人型のような銀の怪物が現れる。
ただ銀のみの体の中心で胸の青き結晶が金色に煌めく……!
『Natural by Electric!』
銀の体に雷のようなラインが走る。
それは結晶の力を吸い取り金に染まっていく。
彼の腹へ、胸へ、そして喉へ。
肩を走り、腕も足も、そして今、
青い灯が今灯る。
「……あいつ、3分しか動けないとかねぇよな?」
「え、なんで?」
小木の呟きにアルは首を傾げる…
「僕今どんな格好してるんだ……」
「お前たちには緊張感ってものがないのか?」
「「「ははは」」」
『VOLOLOTOAAA!!』
先手必勝と言わんばかりの7本の雷の矢がそれぞれが軌道をずらし襲い来る。
「痺れを切らしたか?」
「電気だけに?」
「お前達、緊張感ないのか本当に!?」
小木の真面目な呟きとアルのジョーク、神座市の言葉も無視して、
流石に早太は右手を突き出し集中していた。
「すぅ〜」
「……イメージ」
青く輝く瞳のないアイカメラのような顔はずっと敵を見つめる。
「イメージ……!」
その瞬間音も無い。
まるで道理と言わんばかりにその銀の体に触れた矢が消滅する。
それを確認したのち彼は痛みがないか……
熱くすらない。
「……はは、相性最悪だぞ、お前」
『TAAGE!?』
何をされたのか理解できぬ獣は、
己が雷撃で一切ダメージを負った様子のない存在にまたも怯む。
……が、
『……VOLOLO』
何が思いついたのか体の輝きが増し始める。
『LOGAAAAAAAAAAA!!』
「げっ!?」
「まずい!」
解き放たれる豪雷、
電気ネズミの全力が如き電撃が16方余すことなく焼き払うい、
辺りは閃光につつまれた……!
『BOLU……LULUTOA………』
灯り直していた頭蓋が再び点滅する。
立ち込める焦げた匂い、電球のあった場所、テレビだったものにベットだったもの。
廊下にあった観葉植物までもが雑に放たれた電撃によって黒焦げになるまで焼き払われていた。
黒煙が床天井問わず現れ、床や何だは未だ赤い火を灯している。
それは数百mある廊下全てを地獄のような色に染め上げる。
『VOLOLO……!』
笑うような声、
さしものあいつもここまでやれば耐えれるわけがない。
「げほ、げほっ……スプリンクラーとか換気扇とか動いてねぇのか!?」
「コード全体がいかれているんだろう……」
「奴が来たのが昼で良かった」
『VOLU?』
声がする、黒煙の向こうからだ。
「しかしこの放電……捕らえるのは不可能か」
「捕まえる気だったんですか!?」
「未知は探究すべし、がこの街の常識ですよ」
「いや、だがあいつも人間だぞ?」
「……取り敢えず、対象の討伐もしくは無力化、迅速にお願いします」
「了解」
その瞬間黒煙に穴が開く。
突き抜け駆けて来たた早太の銀の拳が怪物の鳩尾(?)にめり込む。
後ろに吹き飛ぶ前にさらに3撃、
吹き飛ぶ怪物に追いつきその首を刈り取るような蹴りが叩き込まれる。
それによって床に倒れた敵の顔面を……
「うぉっ!?」
片足になった瞬間その足が絡め取られ思いっきり放り投げられる。
「おっ……とっ……と」
しかし難なく受け身を取りダメージはほぼゼロ。
「…………ふっ!」
『VOLtッ………!?
その飛距離約50m、その距離詰めるまでの時間、僅か1秒。
怪物がなんとか立ち上がった事を嘲笑うかのようにその胸の中心に早太の飛び蹴りがめり込んだ。
「…‥まだか?」
吹き飛ぼうとする怪物の腕を掴み、呟き、引き寄せ、首を掴み、壁に叩きつける。
「鳥型と違って急所がわかり難いなぁ……」
その手から逃れようともがく姿がどうも弱々しい。
原動力である電気を生み出したそばから全て奪われているからだろう。
手足はもう一切電気を発さない。
だが唯一、一箇所だけ光を放つ場所がある。
「……ああ、頭か」
敵を掴まない方の手にエネルギーが収束する。
銀から金へ、金から赤へ、
その手、
未だあの弾丸以外で傷すら負わないガラスを、
溶かすように突き破る。
「VOLU!?LUUGEA!?VOLOTOLO!?」
彼の手に包まれた小さな頭が助けを乞うように吠える。
「………った……せて」
彼が何かを呟いた。
瞬間、
その小さな頭は握り潰される。
その手の中の残骸は燃え上がり残された怪物の体は鏡のように砕け散る。
「プレート、回収」
その手に握られた燃えず残ったプレートを眺め、
そして砕け散った破片が契約者であろう男性の形成を始める。
「凄まじいな……」
消火しながら来たのだろ消火器片手にやって来た神座市は思わずこぼす。
「これだけの被害を出す奴も」
「それを圧倒した彼も……」
「……相性が良かっただけですよ」
その言葉を掬い上げるようにアルは答える。
「………くっ」
1人歯を軋ませる存在に気づく事なく本郷早太のデビュー戦はここに終幕を迎えた。
「終わったか」
窓一つ無く隣の動作すら知ることのできぬ暗闇の中1人の男の声が響く。
ただそこにある気配に向け呟くように、
「ああ、幸い死者はいない」
「まったく、1人2人の死など目を瞑れば良いものを」
「まったくお優しいものだ」
「無駄なぼやきは無駄火を灯すだけだ口を慎みたまえ」
「しかし…やはり現れたか」
「20と数年ぶりだったか……」
「目を瞑れば昨日のようで時の経過などわからぬな」
「ああ……だが二の舞など無い」
「そうだろう?」
「ああ、我々はこの日のため研究を続けて来た」
1人2人ではない、10にも近い人々の声が響いている。
「ああ、我々はこと研究という分野では短いと言える期間で2つの不可能を可能とした」
「私はもはや研究を活かせることが嬉しくてならんよ」
「ほう……?」
「では【心の杯計画】は順調か?」
「順調だとも、既に外装は完成済みだ」
「動体は上が用意するとのことだが……」
「まあ、あと半月後に実戦投入で問題あるまい」
「では一切の妨げは無いと?」
「ああ」
「ふっ、笑わせてくれる」
「三割をもって万全と言うのかね?」
「随分と甘い」
「分けて三なら合わせば六だ」
「……そう簡単にはいくまい」
「だが今の全知を持ってそれが上限」
「足りぬなら他から補うしかない、そうだろう?」
「ふん、白々しい」
「貴様の知恵がここで終わりのわけがあるまい」
「もちろんだとも」
「あくまでも今の全知識をもってこれが上限というだけだ」
「これからは本物を知れるのだ、進化させて見せるとも」
「ありがたいことに向こうから来てくれるのだからな」
自信げな声が暗闇に飲まれた開かずの間に響いていた。




