番外 その1
この話とは大きく全話とは時間がずれています。
というか独立しています。
劇場版みたいなものと思ってください。
「……?」
ある男がむくりと起き上がる、
静かな夜だ、最新AIによって最適に調整された室温は締め切った部屋でも寝苦しさを感じさせない。
故に深夜に目覚めてしまうなんて久しいことだ。
「何の匂いだ?」
どこからか異臭がする、
部屋の外かと思い窓を見る、締め忘れは無い、というか彼の家の窓はAIによるフルオートだ。
「……まさか」
彼は立ち上がりドアノブに手を置く。
「ぐあっ!?」
しかし二秒もせずその手を放してしまう。
「あ、熱い…、い、痛い…!?」
その手を見る、
そこにははっきりとした跡が残っている。
「まさか」
その熱さから予想されたドアの向こうの状態に彼はゴクリとつばを飲む。
「なんでだよ、おかしいだろ!?」
「このマンションはあらゆるものがAIに管理されてて、少しでも異常があればスプリンクラーなり火災報知器なりが機能するはずだろ!?」
「くそ……」
扉の隙間から黒煙が漏れ出し始める、
「けほ、けほ……くそ、せめて窓を」
しかし開かない、
というかこの窓に開けるための引掛けなど元より存在しない。
全てはこの部屋で機能しているAIに依存しているのだ。
「くそ、高い金払ってこれかよクソが!」
「ポンコツAIめ、こういうときに役に立たねぇと道具としての価値がねぇだろうが!」
窓を蹴り飛ばす、
しかしびくともしない。
さすが高級住宅、
防弾、防犯、防音、さすかである。
こうして外の誰が気がつくことなく島の誰もが夢見るドリームホームは一夜の悪夢のような結末を迎えるのだった。
『以上ドリマ厶・マンション火災事件の概要でした』
『どうですか専門家の皆さん』
『いやぁ……正直驚きです』
『まさかあのマンションのAIに誤作動だなんて、近年でも稀に見る傑作AIでしたのに……』
『しかし、しかしですよ白先生』
『3時間前に渡って異常を検知しない、これって誤作動と呼べるんですか』
『正直呼べないでしょうねぇ』
『しかしいくら調べても実際故障など見られないわけで……やはり全権限をAIに委任するのは未だ危険と言わざるおえませんね』
『なるほど、ありがとうございました』
『では次にお天気情報です』
『気象情報解析AIの八意ちゃ〜ん』
【はい、今日のお天気おお知らせします】
【本日全地区での12月23日の天気は平均気温41℃、天気は雪、砂嵐の可能性があるので洗濯物にはご注意ください】
「どういうことだそりゃ」
テレビの前でトーストを食べていた僕は思わずツッコミを入れてしまった。
だって流石におかしいだろこの天気予報は、
雪がふることすら珍しいのに気温が夏の最高気温大更新じゃねぇか。
「どうしたの早太君?」
コーヒー入りのマグカップを眼の前に置いてくれるアルに無言でテレビを指さして答える。
「へぇ、この島って気象まで操作できるんだ」
「……いや、流石に無理でしょ」
たぶん
「でもやっぱり異常だよなもしかして怪物?」
「ん〜、わかりません、天気を操るとしたらWですけどWはすでに契約終了済ですし」
さすが、
怪物関連になると本当、急に敬語になるな……
読者がややこしくなるだろ。
「1番最初に……な」
「となると……複製品よるものって可能性は?」
「リアルタイムで変更し続けるならまだしも数時間後の天気を変えるなんてことはさすがに……」
「じゃあ予告する能力とか」
「無理ですよ、予告する能力なら現実に起こりうる能力しか用意できないはずです」
「夏でもでないような気温の中雪がふるなんて異常気象にも程があります」
2人してう〜んと首をかしげる、
「………って、まずい遅刻する!」
「あれ、どっか行くの?」
「うん、今日試験なんだ」
「あぁ、なるほど一応かっぱ持っていったほうがいいよ」
「りょーかい、いってきます」
「は〜い、いってらっしゃ~い」
「………あれ、なんの試験なんだろう?」
はぁ、と憂鬱な気持ちで早太は道へ踏み出した。
正直今回の試験が不安なのだ。
「子供みたいな言い方だけど、隕石でも落ちて試験なくならないかな〜」
まぁ、実際雪はふるんだけど……と、
そう言おうとした瞬間、
「………え?」
彼の耳を誰かの悲鳴が震わせた。
場所は……すぐそこの角だ。
壁に張り付いてそちらをこっそり見る。
すると、
「……何で?」
彼はそこに居た……というか走っていた物体を目にして思わず声に出して驚いてしまう。
(芝刈り用ロボット?)
女性を追い回すその物体は刃の付いたロールを高速回転させホラー映画ばりの恐怖映像を作り出している。
慌てふためく彼女は逃げるばかりで対処しようとはしない。
(この場合横から棒を突っ込んでひっくり返すのが1番だと思うけど……)
そんな手頃な棒はこの場にない。
追いかける女性は高級そうな革バッグを持っている、
それを投げつければロールが詰まってしばらく動かなくなるだろうが……まぁ、捨てろと言うのは酷だろう。
(………はぁ、無視するのはさすがに目覚めが悪いか)
怪人態となって飛び出したチェインがそのロボットを踏み潰す。
そこまで頑丈ではないそのロボットはものの見事にひしゃげ機能停止する。
爆発する気配は無い。
(一応、班長達に私に行くか時間もあるし)
引っ掴んで離脱する。
この間10と数秒、
屋根の上へと消えていったものの正体はついぞ襲われた彼女は知るよしもなかった。
「バレてないよね?」
路地裏に飛び降りた早太は一応人に見られないようにする、という約束を思い出しながら呟く。
「……で、これやっぱり普通の農業ロボットだよね?」
スマホの画像検索アプリでロボットを検索。
結果は
「ちょっと前に発売の芝探知識別用AI搭載型の家庭用芝刈りロボットか」
「うわ、結構な高級品」
「持ち主に賠償しろとか言われないかな、大丈夫かな…」
(そのときは……まぁ、彼女の方に行くだろ)
(そもそもあの高級バックにネックレス、持ち主はきっとあの人だ、うん、そうに違いない)
そう心に言い聞かせ、彼はバッテリーを抜いたロボットをリュックに詰め込んで路地をでる。
「………うわぉ」
なんと路地裏の外は地獄絵図だった。
血を流して倒れる老人や足の潰れた青年、
壁にめり込む配達ロボ自転車タイプ、
暴走する全自動車椅子、
人を挟んだ防犯ドアや何だ、
「うぷっ」
トラウマを刺激された早太は耐えられず1度それを吐き出す。
胃に入っていたのは朝食だけ、
いやな胃液の味が舌に広がる。
(明らかに異常だ)
震える手で119番を間違えることなく押す。
『はい、お電話ありがとうございます』
その時点でおかしい、
しかし動転している彼は気づけない
『火事ですか、救急ですか?』
AIによる合成音声が感情を含んでいるようにも聞こえる無機質な声で問いかけてくる。
「きゅ、救急です」
『あら、それは大変ですね』
「……は?」
『命に別状はありません、今日も皆さん元気です』
頬を冷や汗が伝う、
「元気なわけないでしょう?早く救急車を」
『あいにくと今日は皆でティーパーティーなの御免遊ばせ』
「何言ってんだ?」
『美味しいお茶に美味しいスプーン、パンナコッタで掬って食べるのよ?』
「………何なんだ、お前ら今日は全員ストライキか?」
焦りと恐怖でぐちゃぐちゃにされて震える手を抑え、
皮肉のつもりでそれに問う。
『………フフフ』
『フフフフフフフフフフフフ』
急に今まで以上にリアルな笑い声が向こうから流れ出る。
『さよなら三角良い夢を、明日の朝日をお待ちなさい』
『おやすみなさいお月さま』
ブツリ
「!?」
電話が切れた瞬間
突っ込んでくる白い車、呼べなかった救急車
しかも人手不足解消用のAI搭載型の……
(避け……いや、そうしたらこの人達が)
「っ、変動!」
全力でその通常車とは比べ物にならない巨体を押し止める。
「ぐっ………」
ブレーキは踏まれない。
その上
短時間の連続変化の負担は想像以上にでかい、
スペックが下降している。
(数秒保てよ!)
抑える手を片手に変え、
《Include》
かざして得た力でタイヤを串刺しにする。
「…………AIのストライキ」
「いや、テロだと?」
結晶剣となった手刀が要を突き刺し機能を停止させる。
「…………こりゃ、試験どころじゃないな」
黒煙を吐く白車を睨みながら彼は呟いた。




