第13話 その4
暗い部屋、
パソコンの明かりが彼の顔を浮かび上がらせる。
「………早太はどうした?」
「明日のためのプレゼントを買いに行った」
「大丈夫そうか?」
「あぁ」
「しかし、やはり私達の予想通り刀を持てなくなっていたな、そう大事になる前に解決できてよかった」
「あの変なのが来なかったら確実にまけてだよな……」
「まぁ、たしかに」
「いったいあれはなんだったんだ?」
「さぁ……わからない」
「分からないが……言動的に考えて少なくとも彼の母親とは面識のあった人物だろう」
「そして、おそらく本郷君自身は彼の正体に気がついている」
「そうか……」
2人の言葉の掛け合いが少し止まる、
その後正児はもう1つ尋ねる。
「なぁ、神座市」
「なんだ」
2人を除き誰もいない実働隊待機室で
報告書の作成を行っていた2人はパソコンに向いたまま背中合わせで言葉を交わす。
「早太の母親って、どんな人のだったかって調べはついてるのか?」
「以前報告書にまとめていただろう、読んでなかったのか?」
「あんな箇条書きで書かれた経歴じゃねぇよ」
「どんな性格で何を信じ、I.P.を務めていたかが知りてぇんだ」
「彼のうわ言が気になっているのか?」
「ああ、ちょっとな」
「彼女、本郷明子はかなり善人に近い人物であり、ある意味理想的なイースランド・プロテクターズの隊員だったことが多くの人たちから語られている」
「困っている人がいたら人物問わず自分から助けに入るような性格であり、濁流ながれる川に犬を助けるために飛び込むなど自分の身の危険も顧みない」
「そのあり方は同僚、そして幼き頃の本郷君に対して強く影響を与えたらしい」
「だが、同時にそれらの行動から問題を起こすことも多く、上司にも目をつけられていたらしい」
「問題行動?」
「その最も足るのが彼女が最後に立ち会った事件だ」
「最後の事件」
「彼女にはお前と同じで掲げる正義があった」
「正義?」
「まぁ、彼女はそれを1度も自分の正義とは呼ばなかったらしいが……」
「曰く、この世に罪人居れど悪人無し」
「故に守護者たる人々は我前にて罪増えることを恥」
「それもまた罪と理解し」
「一切の私情無く人は罪を最上として罰を受けるべきである……だそうだ」
「えらくカッコつけた口調だな」
「いや、これは彼女の意思を継いだ同僚達が彼女の言っていたものを標語に書き換えたものらしい」
「そんだけ尊敬されていたってことか」
「……で、最後の事件ってのはなんだ?」
「立てこもり事件だ」
「犯人は従業員含む24人を人質にとり」
「ナイフと拳銃を持って立てこもりを行った」
「I.P.はものの数分で到着」
「隊員の1人であった本郷明子の交渉により人質である23名は開放、しかし犯人は武器を捨てず本郷明子を人質にしたため現場判断により犯人は別働隊より狙撃を受ける」
「人質開放して出てきたのにか!?」
「逃走のリスクを考えてのことだ」
「それに法律上も問題は無い」
「問題無いからって……」
「いや、いい、それでどうなったんだ?」
「銃撃を察知した本郷明子により犯人は庇われ」
「彼女は肩を負傷」
「犯人は『やはり皆嘘つきだ、罪人を捕まえる奴らだって罪だらけじゃねぇか』と言い残し逃走」
「飛び込んだ交差点、走行中のトラックが襲来」
「………まて、彼女の死因はたしか」
「彼女はそれを庇い重体となった」
「……すげぇ人だな、銃で撃たれた痛みは凄まじかっただろ……なのに立ち上がって犯人を守ったのか」
「俺の憧れに近い人だな」
「………残念だがこれは美談ではない」
「犯人はその後確保されること無く逃亡」
「しかし、世間は……特に自己犠牲を正義とする者の多いネットでは命を賭けて犯人を守った彼女は強く称えられた」
「その次の日までは」
彼女が差し出したのは古い新聞、
その一面の記事の名は
「病院放火、死傷者120人……ってこれまさか」
「そう、その事件の犯人は柚崎・G・ロジェナルマ」
「前日に立てこもり事件を起こし逃走した男だ」
「動機はその病院で治療を受けていた妻の病気に対する病院長の誤診とそれによる医療ミス、そしてその隠蔽だ」
「なんだそのひでぇ理由」
「しかもこれは一般には公開されなかった」
「理由は不明だがまぁ、いろいろがあったんだろう」
「そして事件を起こした男はその事件中に自身も炎に焼けて死亡、攻める相手を失った世間はまだ生きていた本郷明子に向けられた」
「お前が助けなかったら120人の命は助かった」
「あれはあいつへの天罰だったんだ」
「余計なことしやがって」
「あ〜あ、同責任とんのかな」
「………など、心のない言葉がネットには溢れた」
「ネジ切れるほどの掌返しだな」
「…………」
「幸運なのは本郷明子自身は意識不明のまま死亡したからこのことを知らずに死ねたことか」
「…………きついな」
「本郷早太にとって母は正義の象徴だった」
「そして、彼女の最期も正義に沿ったものであった」
「それは前日は完全に肯定され」
「その翌日には完全に否定された」
「彼にはそう感じられただろう」
「だから僕は正義ってのが良く分からなくなった」
深夜までやっている複合品店でプレゼントを悩みながら早太は同行してくれたアルドナープに自分の経緯を語る。
「まだ正義の味方とかを信じてた頃だったからね」
「考えて、考えて、考えても……」
「何故母さんが責められるのかわからなくって」
「僕の基盤が壊れた……のかな?」
「とりあえずさ、何かドロドロとしたトラウマが僕には残ってたんだ」
「だからかな?いや、どうしてだったかももう、はっきりは覚えてないけど」
「それともただ基盤を失うのがただ怖かったのか」
「母さんの正義が正しかったと証明することが僕の目標になった」
「……でもさ、わかるだろ?」
「年をとり、学を付けるほど」
「それが不可能だということが」
「本当はそうじゃなかったんだって」
「僕の記憶は憧れのフィルターがかかって」
「………難しい」
「ごめん、私から聞いたのについてけなくて」
「ちょっと情報多い上に箇条書きみたいで難しいというか……自分が正義とか考えたこと無くて…、」
「うん、そうなんだよ、普通こんなこと考えないんだ、自然消滅するもんだからね正義を夢見る気持ちなんて」
「しかも気がつくのも遅かった8年……かな?」
「もっとかもしれない」
「いやほんと、思春期ってやつなのかね?」
「僕の人生の半分がある日ぐちゃぐちゃになって」
「意味のなかったもののように思えちゃってさ」
「笑えるよね」
「ぜんぜん笑えないよ!?」
「まぁ、つまり僕は他人の思考に依存して」
「自分の正義を追求しなかったアホでね」
「もう、何を信じていいのかわかんなくなって」
「何をすべきかもわかんなくなってさ」
「………ねぇ、そもそもその思考自体が思春期特有の答えの無いぐるぐる思考なんじゃないのかな?」
「なはは、その通り」
「この思考に意味なんて無いんだ」
「答えが出るようなもんじゃないし」
「聞き流して読み飛ばしてくれていいんだ」
「ホント、口に出してみると実にバカバカしいよね」
「……あの、この話の結論って?」
「言っては悪いかもだけど、聞いてるこっちは恥ずかしくなってきたんだけど……」
「はは、わかる」
「まぁ結論は、自分のなりたいもの信じたいものは良くわかんないから」
「とりあえず今の幸せを失わないために頑張ろ〜ってことだよ」
「友達を守るためなら全力で頑張れる」
「人との関係を失わないために約束は守る」
「とりあえずそれだけは大前提に」
「それだけが今の僕の一応基盤」
「他は成り行きと感情のままに」
「いざというときはちょっとだけ母を頼りに」
「だから銃は使いたくなかったし」
「本当は剣だって暴力だって使いたくなかったんだぜ?」
「刀を抜けたときはもう……」
「………」
「妥協して、妥協して、妥協して」
「本当は怪物になるの、怖かったんだ」
「でも友達を守らないとって思った」
「胡散臭い集団に雇われるのは嫌だった」
「でも日常生活を送るためなら仕方ないと思った」
「それに……
「………えい!」
「あたっ!?」
「またぐるぐる思考に入ってない?」
「あ、え、あ、ほんとだ」
「やだなぁ、もう何を話しててどれを話してないかわかんないや」
「よ〜し、この話はな〜し」
「疲れてんだねたぶん、聞き流して」
「まぁ、とりあえず言いたいことはね」
「これからは何があってもとりあえず約束は守るために頑張る覚悟ができたから」
「今日のことは気にしないで」
「改めてこれからもどうぞよろしくってことかな?」
「………あ、なるほど!」
「よろしくお願いします」
気まずい空気も流れながらも
彼の改めての言葉と共に差し出された手を
彼女はその手をしっかりと掴む。
「あ、プレゼントあれがいいんじゃない?」
「タイミング惡いよ早太くん!?」
「なはは、暗い暗い」
「頑張ろうぜ限界までは」
「ふふ、はいね」
ゆっくりと話そうと思ってたことが、
これ以降タイミングがなさそうだからと一気に出してしまった……
いや、そもそもですね?
クリスマスだしやっぱり誰か1人死なないとなぁ…
と思ってあと3、4話ほど後に出番があるはずだった騎士様が犠牲になってしまった。
クリスマスの悲劇って、どのライダーから始まったんでしょうね?




