第2話 その3
「まずは名前から聞こう」
「それと、資料が正しいか確かめるために自己紹介も頼めるかな?」
ヴァーニー氏は噛み砕いたわかりやすい言葉で彼に告げた。
「本郷早太、17歳、夢森学院高等部3年」
「住所は第4区第三号、12−6、一軒家、持家、ローン返済中」
「父は本郷進、小説家けん雑誌ライター現在第19区取材のため不在」
「母は本郷明子、元…I.P、治安維持部隊所属。もう10年以上前に死んでいますが」
「好きなものは漫画、アニメ、ラノベ」
「嫌いなものはSNS、ネット掲示板」
「苦手なものは……ヒーローものとどーーー
「いや、もう結構」
「流石にこの資料にも君の好き嫌いは書かれていないのでね」
ヴァーニー氏は彼の流れるような自己紹介を断ち切り、そう告げた。
「さて……」
ヴァーニー氏は資料をパラパラとめくり、その後彼をゆっくりと、値踏みするように見る。
「結論から言おう」
「我々は現状君は怪物では無く人間である」
「と言う結論が出ている」
「記憶に相違もなく、人格面も特に問題なし、君が眠っている間に済まさせてもらった精密検査の結果を見たところ今のところおかしな結果は一切出ていない」
「じゃあ釈放ですか?」
「ふむ……」
「現状判断しかねる」
「釈放するならばあれらは返すこともできんしな……」
「とりあえず色々質問させてもらって良いかね?」
「はい」
「いつあの力を手に入れたのかね?」
「今日の昼ですね」
「では昨日が初使用だったと?」
「はい」
「では、それをどうやって手にいれたのかね?」
「フィルム……というより、プレート?が語りかけていてそいつと契約して手に入れました」
「どんな契約だね?」
「力を与える、代わりに25の怪物を討伐せよ」
「力?」
「願いを叶える力だそうです」
「ほとんどの場合は怪物になるそうです」
「普通は怪物同士を探知してそれを討伐するためだけに暴れるそうです」
「障害以外には興味も示さない……らしいです」
「嘘の可能性もありますが」
「そして僕は……運が良かったそうです」
「半怪人、自由に人と怪物を行き来することができるそうです」
「………が、残念ながら僕は万全ではないそうです」
「与えられた力は数値にして30%、そのせいで能力はほとんど使用できないそうです」
箇条書きのように自身なりの解釈も交えた返答をする。
「どんな力を求めた?」
「速くなる能力です」
間髪入れずに答える。
「えらくシンプルな願いだね」
「……いや、そうでもないか」
「君、元陸上部だね?」
「数多くの大会に出ているが……」
「どれも表彰台に乗れても1位は無い」
「そこらへんが影響したのだね?」
「………」
「で、手に入れた能力は?」
「空を飛び、刃が通りにくく、ある程度戦えて、速い能力」
「雷、スタン、雷神、電光……電気、⦅ELECTRIC⦆」
議場がざわめく。
先ほど黙って眺めていた要人たちの声、
「黙りたまえ君たち」
ヴァーニー氏の一言で議場は静まる。
「30%で何ができる?」
「電気を吸収して自身のスペックを上昇させれます」
「あ、あと体内にある程度の電気を内包してます」
そう告白すると周りは明らかに落胆する。
エネルギー問題解決のための人柱にでもする気だったのか?
そんな疑念が彼の頭をよぎる。
「……ふむ、」
「あの怪物は同類以外襲わない、そう君の契約相手は言ったんだね?」
「はい」
「君はどうなんだね?」
「と言いますと?」
「いや、怪物状態と人間状態両方奴らを引き寄せるのかということだ」
「……どうなんでしょう」
「とりあえず怪物状態のときは向こうから攻撃してきましたよ」
「……なるほど」
「では、次怪物が現れたときにそれを調べる」
「それまあでは君の身柄はここに拘束させてもらう」
「もし怪物を引き寄せないようなら君の身柄を解放しよう」
「もし襲ってくるなら……」
彼は不意に黙り込む、
……まさか殺処分?
そんな不穏な内容が頭をよぎる。
「まあ殺処分はしない、この町としては君は貴重な研究対象だからね」
「とりあえずそれでいいかな?」
「皆様方も何かご不満な点があるならどうぞ」
彼は全員をじっと見る、
上がった手は無い。
それを見て一度頷き、
「では最後に、君から何か質問はあるかね?」
「……あの、僕は今世間的にはどのように扱われるんですか?」
「テレビで見なかったかね?」
「君は世間的には爆発による負傷者となっている」
「あの鳥になっていたという君の友人も同様だ」
「親御さんには一般人入室不可の病院で入院していると伝えてある」
「そういえば、あっちの容体は?」
「うむ……あっちというのは君の友人だね?」
「体にはとくに外傷は無い、体も人間そのまんまだった……が、なぜか目が覚めん」
「しばらくすれば戻るだろうが……」
「とりあえずここの地下の病室にいる、彼女は身体に異常がないとわかり次第解放する予定だ」
「そう……ですか」
「ありがとうございます」
「なに、あたり前のことだよ」
「さて、もう質問はないね?」
ヴァーニー氏が彼を見つめると彼は黙って一度頷いた。
「では、これにて中央議会閉廷とする」
また後ろのドアが自動に開く。
そして彼は自分の足でそこを後にした。
「新部隊に配属……ですか」
粛々と行われた議会の上で小木は新たな上官より処遇を言い渡されていた。
「そうだ、君には私の部署の隊の隊長を任せたい」
白い髭を蓄えた男は椅子に座ったまま告げる。
「あなたは技術開発局の局長ですよね?」
「まさか警備隊ですか?」
「いいや、警備隊ではない」
「実は数十年前から計画されていた新部署がついに始動することになってね」
「もう母体はずっと前からあったんだが……」
「隊員は今他の隊と兼任させている者達をこっちに寄越す予定だったんだがね」
「かなり実力が求められる隊なのでね、君をスカウトしたい」
「何の部隊なのでしょうか」
「うむ、特殊生物対策部だ」
「特殊生物……」
「ああ、あいつらへの対策しゅ………」
彼の言葉が止まる。
「まさか上は存在を数十年前からご存じだったんですか!?」
彼は境界となっていた机を叩く。
「知っていた……」
「ああそうだ、知っていた」
「ではなぜもっと早く部署を作らなかったのですか!?」
「ふむ……何と言おうかな」
「作ろうとしたときになぱたりと目撃情報が消えたのだ」
「……いや、もっと言おう」
「我々はね、それを目視したことはなかったのだよ」
「通報や被害は実在した」
「監視カメラにも写ってはいた」
「……が、部隊が到着した時点でそこに怪物など影も形もなかった」
「あるのは崩れた建物や大量の人間の死体」
「居たのは無数の負傷した人々と必ずしも1人以上の無傷の意識不明者」
「そんな中ある日とある隊が現場に居合わせた」
「その隊の殆どが死亡」
「そして数少なかった生存者は病室でこう言った」
『あれは間違いなく怪物だ』
『俺達の銃弾をことごとく跳ね返し』
『有り得ない能力を使って俺達を刈り取った』
『隊長も、仲間も、あいつも………』
『フハハハハハハハッ!』
『死んだ!死んだんだよことごとく!』
「普通なら気が動転して変なことを言っているとしか思えない内容だ、事実彼もおかしくなっていた」
「が、それを笑い飛ばす者は議会には居なかった」
「その隊はその頃のエース部隊でな」
「武器も防具も最新式」
「それで歯が立たないなら……」
「議会は恐怖した」
「急ピッチで新武器の開発を急がせ、新たなエースばかりを集めた部隊を編成」
「それを議会にて決定した日」
「いや……その数週間ほど前からか?」
「怪事件は起こらなくなった」
「ぴたりとだ」
「それまで数ヶ月の間に9件あった事件がまったく起こらなくなったのだ」
「議会は一安心」
「しかし、いつまたそれが再来するかわからない」
「研究、開発は続けよう」
「その時代のエースをその部隊に配属しよう」
「いつでも立ち上げれる状態にしておけ」
「そうしてできていたのが我々だ」
「まあ、つまりだね、正しくいうなら」
「立ち上げられてはいたが」
「怪物発生の予兆を感知できず遅れをとったということだ」
「おそらくこれから怪物の大量発生が起こるだろう」
「万全とは言えないが対抗策はもう用意されている」
「どうか君にも協力願いたい」
つらつらと語られる中央によってもみ消された自身の知らない歴史達に小木は唾を飲む。
しかし彼は悩んではいなかった。
人々を守れる武器が手に入り、人々のために戦える。
その事実は彼にとってどんな危険よりも優先されるものだった。
「……わかりました」
「小木正児、本日よりその部隊に志願させていただきます」
彼は静かに敬礼した。
自分の掲げる正義のため、
人々の安全な生活のためなら彼は茨の道を進むのだ。