第9話 その7
ちょっと切るタイミングを見失ったんで今回長いです
『………やはり効きませんね』
脳天を撃ち抜いた白虎を下ろして彼は呟く、
狙撃銃でスコープを覗かず命中させたのは流石というべきか。
「やっぱりあの弾丸も早太君のいる空間に転移しているのでしょうか?」
『そうだと思います』
彼は六合を構える、
「………そういえば連絡ありませんね」
「何かに手一杯なんでしょうか?」
『迷宮の道順を覚えているのでは?』
「ありえますね……じゃあこっちから声かけるのはやっぱり控えましょうか?」
『ふむ……やむなくなるまではそうすべきですね』
「………それで、あの椅子から不動の人どうします?」
『……そうですねぇ、不意打ちも難しそうですしとりあえずいろいろ試してみましょう』
「そうですね……といっても私にできることって」
『ありません、分断されぬよう立ち回ってください』
「くっ……はっ、はぁ、はぁ……」
喉の穴が修復する。
(治りが遅い……彼女から遠いから?)
(まぁ、治るだけましか)
彼は自分を貫いたものを確認する、
「…………あ、これか?」
地面に何か埋まっている、
指で引っ張り出そうとするも
「だめだな…、穴が小さすぎるナイフでえぐり出せるか?」
ナイフを顕現させそれを岩床に突き刺
「さんないんだった、忘れてた」
ナイフの刃は弾かれ自分の手には絶対無理という手応えが伝わってくる。
(……いやでもこれは突き刺さってるんだよなぁ)
(……ていうかこれ何だ?)
(弾丸?)
(どこから来た?)
(方向的に……)
彼は振り向いて紋章を見る、
それは一切穴なんてない石の彫刻。
触っても口が開いたり目が動いたりなんてしない。
ナイフを振り下ろしてもやっぱり効果は無い。
仕方なくしゃがみこんで飛来物の観察に戻る。
(そもそも世界観に合わない)
怪物の能力はイメージに強く影響する。
だから世界観というものはとても大切だ、
石造り、ギリシア迷宮
契約者そのものが迷宮と迷路を同一視してるせいで迷宮と迷路がごっちゃになってはいるが世界観は神話系に近い。
(なら、矢だろ普通)
(あって球形の弾丸だ、これはない)
(つまり……)
「外の奴が転移させてきた弾丸ってことか」
「………外?ってことは、あ、もしかして」
「となると……?」
「いやでも……ううん、それは実際確認すればいいか」
「…………よっしゃ、攻略法見っけた」
彼はよっと立ち上がり、彼女に通信を始めた。
「アル、アル、聞こえるか?」
『…………なるほど、なかなかに難しいことを簡単におっしゃいますね彼は』
「でも、有効かもですよ?」
『そうですね、転移先の要石がその怪物であるのならそれを討伐すれば迷宮空間は消滅、転移先のない攻撃は彼女に命中する……可能性は高い考察だと私も思います』
『しかし……』
彼は腰の高さに迫る壁を蹴り崩す。
『まぁ、いいでしょう』
『可能な限り協力を、これも私の仕事ですので』
「じゃあ、お願いします」
「ブモォォォ!」
ここはあのとき最後に訪れた広場、
彼はとある確証を得るため今ここを訪れていた。
「よっ」
横薙ぎを後ろに跳んで躱し踏み出された左足に手裏剣を投げる、
もちろんそれは敵に一切の外傷を与えず砕け散る。
それでも彼は無駄と思えるほど何度も何度も、
やけにでもなったかのような連撃。
当たり前にそれは全て転移され、粉のように砕け散る。
しかし今、彼の耳は確かな確証を得た。
「………ここじゃ狙いにくいか移動しよう」
彼は急に距離を詰める、
さっきまで下がり続けていた敵に急に詰められたことで敵の反応が遅れる。
「………ッ!」
その左手、
今まで気にも止めてなかったその手甲から剣を振るよりも速い赤の電撃が投擲される。
アステリオスにふさわしい能力であり、光速で迫るその矢はいかなるタイミングで使用しようとも必ず致命傷となりうる攻撃だ。
しかし
「どうも!」
同族には極めて無力である。
進み続けるから伸ばされた手、
その手を持って雷は喰われその手は彼の胸を触れる。
彼の体は粉として崩れ消える。
「………ニゲラレタ」
取り残された怪物はぼそり呟いた。
「………!」
「どうだ?どこだここは!」
辺を素早く確認する
その壁に掲げられた紋章は
「ハートと雷光、星の紋章!」
「意味は心臓……つまり胸もしくは胴!」
「我解明せり!」
「やっぱり触れた場所と転移場所は関連してるんだ!」
「たぶんこっちがそうならあっちもそう!」
「アルドナープ、プロト、確認がとれた!」
「タイミングが来しだいやるぞ!」
「怪牛退治だ!」
「……確認、取れたみたいです」
『早いですね、さすがというべきでしょうか』
「いえ、たぶんですがあっちとこっちで時間の流れが違うみたいです」
『ふむ……それだとつまり、君には伝わってくる彼の声がゆっくりと聞こえたりするのですか?』
「いえ、そんなことはないですけど……言動的に」
『ふむ……興味深いですね』
『まぁ、この話はあとにしましょう』
『ラストスパートです』
マニピュレータが展開される、
地面から斜めの壁!
それをアームは突き刺し
そのまさに蜘蛛の足のように細い一本で軽く百キロ近い彼を持ち上げ回避させる。
それを追撃する天井からの壁、
同時に足が突き刺されていた壁は幻のように消え彼の体が不安定な体勢で宙に浮く。
『ふむ……』
マニピュレータ一本が天井に糸を吐く、
斜めに吐き出されるその白糸は千切れることなく振り子のようにして彼を壁の攻撃範囲外へと運び出す。
合成特殊蛋白硬化液
吐き出された糸の正体である。
背のタンクに貯蔵されており外気に触れることで素早く硬化し糸のようになる特性を持つ。
水分濃度を変えることで粘り気や硬度を自由自在に変換できその最高硬度はオオミノガの糸とも並ぶほどとなる。
『やはりこの壁厄介ですね』
『狙いたい場所を外しかねません』
「………お願いしますね?」
「たぶんチャンスはそんなにありません、彼に大きな怪我が起きたら直せない可能性が高いので」
『それは……彼次第ですね』
早太は部屋を駆け回る、
相手の乱暴に振り回す大剣を回避し続ける。
ただ何もない広い部屋では彼お得意の機動力は活かせない。
こういうとき彼は大抵敵の攻撃や敵そのものを足場にするのだが敵は触れたらアウトのチート生物である。
糸による絡め手も敵に絡まらないのでは話にならないのである。
(まずいなぁ……能力を解明できたけどタイミングが作れない)
(いや、でもこの位置なら……!)
「やるか」
意を決し振り返りまず初撃を大きく後ろに跳んで躱す
そして着地の瞬間、敵が動き出すよりも早く自分の背後に実体化した閃光弾を落とす、
急な閃光により自分の影が現れる、
彼はその程度、
しかし、奴はそれでは済まない。
「……………ァ、ア!?」
ミノタウロスは目を焼かれ剣を落としてもがき出す。
「アル!」
(プロトさん!)
2秒
白虎の弾丸が紋章の中心より飛来する、
しかし、敵はその軌道にいない。
「おりゃぁぁぁ!」
それならば
強化した脚力に全体重を載せたタックル、
ほんの数秒の衝撃
転移させられるまでの1秒あるかないかの胸板への突撃は確かに敵の体勢を崩す。
崩したはずだ。
その瞬間彼は敵の背後に立っていた。
「やったか……?」
「……って言ってるとやってないんだよな大抵」
「グッ……!?」
敵は倒れていない、
しかし無傷ではない。
かの空間から来訪した飛来物は怪物の右肩をしっかりと命中している。
(早太君、どうですか!)
「当たった!でも致命傷じゃない!」
(当たりはしたんですね?)
「うん、やっぱりこの空間のルールは別空間のルールに適用されないっぽい」
(けど、不思議です)
(ミノタウロスって頑丈なイメージがあったのに)
「いやぁ、ミノタウロスは突き刺されただけで死ぬただの人間だよ」
「それに、例え本当に頑丈だったとしても結果は変わんないよ」
(なぜです?)
「こっちとそっちで時間の流れが違うから……かな、たぶん」
(?)
「こっちの10分がそっちの1分なんでしょ?」
(そうみたいですね)
「じゃあまりそっちで5分飛びつづける弾丸はこっちだとどうなる?」
(………50分進む?)
「単純にそうってわけじゃないんだろうけどそれに近い何かが起こってるっぽい、エネルギーが約10倍になっている、多分そういうことだと思う」
「じゃないといくら何でも石畳にナイフが欠けることなく刺さるわけないもの」
(なるほど……?)
「さて解説はこのくらいにして、そろそろもう一発いきますか」
(はい!)
チェインは駆け出す、
一直線で
「………ッ!」
敵の横薙ぎ攻撃、
(遅い!)
(肩が治ってないな)
(修復能力がない?)
(いや……治りが遅いだけで修復自体はしてる)
(これってまるで………)
彼の脳裏を1つの可能性が駆け巡る。
(………いや、やっぱりと言うべきか)
(しかしあれは切り札だ、使わないに越したことはない)
敵の手めがけて電撃を放つ、
「ッ!?」
効果あり
手の力が緩み大剣が溢れる、
全力の拳でみぞおちを撃ちそのまま高圧電流を押し流し再び紋章元へ転移、
さらにタックルのときよりも早く距離を詰め、
互いに落ちていく大剣を掴もうと襲いかかる。
「今!」
突撃の体勢のまま体を捻り放たれた弾丸を躱す、
「………!?」
命中こそせぬがその首を弾丸が掠める、
その首元から血が溢れ、僕が殴ったとき以上に敵は揺れる。
その隙に大剣を強奪
「これが本当の攻略法……だよね?」
強化、
強化、
僕は僕を強化する!
全力でその大剣は彼の回転と共に思いっきり振るう。
「ナ……?」
その右足が後ろから切断される。
支えを失った体が地に落ち、
倒れる様を彼は何も言わず見続けている。
「これを踏んだときから思ってたんだ」
「何で僕は転移しなかったんだろう」
「僕が転移しないなら何で剣自体は転移しないんだろうって」
「……まぁ、それを疑問に思えれば攻略法は簡単だ」
「そもそも1人のときこの空間に転移させられたら詰みなんてフェアじゃない能力はルール上ありえない」
淡々と冷酷に告げる
そんな中怪牛は落ちた足を拾い上げ断面になんとか接着して敵は途端に距離を取ろうと動きだす。
「………どうせ記憶に残らないんだし無駄かなと思って言おうか言うまいかずっと悩んでたけど一応言っとくね」
怪牛が片手で振るっていた剣は大きく重い、
彼の手にはそれは両手剣として構えられる。
そして、そのまま口を開いた彼はゆっくりと自分の思いを告げる。
「間夜井詰夢里さん」
「君がもし自分の意思で迷宮の中にいるのなら僕は何も言わない」
「それは君が選んだ戦い方だから」
怪牛の耳がピクリと動く。
「でも、本当は……本当は耐えられなくなってそこに立っているなら、助けてって言ってほしい」
「僕は、悪いけど自分の性格上助けてって言わない人間を助けようとは思わない」
「僕は後悔してるから」
「だから君にはそうなってほしくない」
「自分から求めてほしい、他人に委ねないでほしい」
「これは確かにクラスの問題なのかもしれない、けど、君の問題でもあるんだ」
「逃げるのは優しい選択だと僕も思う」
「問題は有耶無耶になってやがては無かったかのように扱われるようになるだろう」
「……でもさ、優しいことが良いこととは限らないんだよ」
どこか怪牛の気配が変わる、
しかしその体から溢れるのは……
「他人は他人をわからない」
「主張しないと」
「自分の思いをぶつけるんだ、辛いと、悲しいと、寂しいと」
「君のたった一言で変わったはずなんだ」
「助けてって言え!」
「その一言は見て見ぬふりをする奴らの胸に刺さるはずだ、見て見ぬふりをするよりも他人の言葉を無視するほうが辛いから」
「君は奴らに言い訳を与えてはいけない」
「あいつらは問題が発覚したら必ず言うだろ「知らなかった」「助けてって言ってなかったからふざけあってるんだと思った」って」
「言うだけできっと……少し変わる」
「少なくとも僕は動き出せ
「ウルサイ!」
怪牛の突進
(っ!?)
それを彼はとっさに大剣を盾に対処する。
敵の体に触れてしまえばまたどこか遠くに飛ばされる、大剣をずらして力を流し敵の体勢を少しお越し、
(……止む終えない)
足で敵の胸を蹴り上げる。
そうすることで突進から転移を使って離脱する。
(やっぱり剣は付いてこないか……)
彼は荒ぶる怪牛を見つめる、
怒る可能性は十分にあると彼もわかっていた。
元より先程の言葉は本心であるものの挑発としの意味もたぶんに含まれていた。
これは彼が使いたくもないし考えたくも無かった作戦、
敵の能力が人工物系だと気づいたときから考えていた契約者の判断能力を奪う方法。
「………やっぱ、つらいよな」
剣を拾い上げた敵は怒りに任せたように乱暴にそれを振るう。
それを彼は避ける、避ける、避ける、避ける!
「……っ」
しかし一発足を掠めた。
着地の体勢が歪み動きが遅れる。
それを後期と見た剣を思いっきり横薙ぎで
「………ァ?」
剣が急にその手から溢れる、
破壊できない絶対の壁は奴の怪力を持ってしても崩れない。
敵の位置が回避ごとに少しずつズレたことで振るわれた剣は壁へ当たりどうしょうもない逆力を発生させ怪牛の手から見放すように離れたのだ。
その結果、剣を振り下ろすつもりの間合いでその腕が彼に触れるはずもない。
その隙に焚かれるフラッシュバン
「グアァァァッ!?」
彼は駆け出しその剣を拾い上げる。
敵の剣を持って怪牛を討つ、
この状況に彼はいつか見たアニメを連想する。
「………はは」
それを彼は嘲笑する。
「悪いけど僕は兎じゃない」
接着したばかりの足が飛ぶ、
「手数が違う」
「技が違う」
「力も違う」
目が治った瞬間再び閃光、
「僕には今君を確実に倒せるだけの力がある」
めちゃくちゃに振るわれた両腕を切り飛ばす、
「そしてなにより……」
斬
敵の足が、
敵の体が、
離れる。
「僕は英雄じゃない」
突進のような渾身の一撃が怪物の胸を穿つ、
抜けない刃をそのままに彼はその巨体を紋章へ押し付ける。
「今!」
胸を弾丸が貫く、
その剣だけで致命傷だっただろう。
追い打ち
油断しない彼らしい一撃なのか、
「………今、僕には近くにいなくても助けてくれる仲間がいる」
「君にだって絶対いる、それを魂に刻み込んで忘れないでほしい」
光の粒子となって消え始める怪牛に彼は最後の思いを告げる。
それは彼女も同じ
「助けて」
溢れるような最後の言葉、
それはどちらの意味だったのかわからない、
彼に対する答えなのか
はたまたただの命乞いだったのか
ひび割れ始める迷宮に1人
彼は誓う
「悪いけど僕は自己中心的なんでね」
「自分の都合のいいように考えるけど……うん」
「助けるよ、絶対に」
「君が変えてくるまでにはどうにかしとくから」
「安心しておやすみ」
空間が砕け散る。
床は影のような黒へかわり立つもの全てを飲み込んでいく。
外への出口だ
「プロト!」
突如現れた早太から預けられていた大剣が変換される。
『閉じましたね?』
「うん、しっかりと!」
『では、こちらも終わらせましょう』
首に巻かれたマフラーが黒煙を溢れさせる。
戦車思わせる突撃、
進む道に発生する壁は全て無駄だと斬り砕かれる。
距離数十センチ
斬
天将十二火器No.1+5、勾玄武
ミノタウロスの振るう剣に並ぶ大剣が敵を切り裂いた。
『………泣いているのですか?』
敵の顔を至近距離で見つめた彼が呟いた。
確かに瞳のない黒い彼女の顔から涙が流れている。
『……まったく、理解できません』
消えていく敵を見つめながらプロトは呟いた。
視点が二転三転する話なんてするんじゃないですね、何書いて何書いてないんだかわかんなくなっちゃったし長くなってしまった……




