第9話 その3
「………あ、来てくれたんですね」
電柱野前で体育座りをする花音は早太を見上げて笑う。
力ないような微笑みに彼は慌てながら、
「大丈夫?怪我は無い?変な怪物に襲われたりとかしなかった?」
「ずっとまっすぐ道だったのに急に曲がり角だらけになったり不安だったんじゃ……?」
息継ぎもなく無数の質問を投げかける。
それを彼女はクスクスと笑い、
「はい、大丈夫でした」
「変なことも怖いこともここに入っちゃったこと以外とくにありませんでした」
「そ、そう?ならよかった」
「……いや、良くないか」
「とりあえずこれ、水、食べ物は……ないんだ」
「ごめんね、救助なんだから食べ物も何か持ってくるべきだった」
できる限りの優しい口調で彼は彼女に水を渡す。
「平気です、私は人より少ない食べ物でも」
「………そう?」
「いや、甘えたらだめだよね」
「急いで脱出しよう」
彼は彼女に手を差し伸べる。
「はい」
「………あの、どうやってですか?」
戸惑う彼女に彼はとびっきりの笑顔で
「前進あるのみ」
「行こうたぶんもう、そんなにないよ」
2人は並んで歩いている。
曲がり、くねりながらも道は一本きり。
変化する風景に違和感がないことから曲がるたび転移していないことがわかる。
「あの、本郷さんはどれくらいかかったんですか?」
「何が?」
「あの長い直線です」
「あぁ、あれ」
「長かったよねぇ、10kmくらい?」
「そのくらいでした」
「それで、どれくらいかかりましたか?」
「あ〜……」
(どうしよう、怪物化を話すか?)
(……まぁ、たしかにすぐバレるし)
(いや、とりあえず)
「僕、陸上してたから長距離走だけは自信があるんだ」
そんなことを言って今はごまかす。
「しかし……その後は急に角が増えたな」
「そうですね、最初は不安になるくらいただまっすぐだったのに……」
「本当にまっすぐ進んで大丈夫だったんでしょうか?」
「たぶんね、まぁ、そもそも選べる選択肢自体」
「進むか」
「戻るか」
「壊すか」
「乗り越えるか」
前を後ろを、壁を天を指さして、
「それだけだけど……」
「まぁ、実質選択肢は上2つだけだよね」
肩をすくめて笑う。
「あと、これを見て根拠になるかわかんないけど」
「これは……地図ですかこの地区の」
「うん、さっきから僕が定期的に壁に何かを貼り付けてたの覚えてる?」
「はい、あなたがつけているのと同じやつですよね」
「そう、これ発振器になってるんだけど」
彼は地図の真っ赤な場所を拡大する。
「これは……」
「どうやらこの道、距離はおかしくなってるけど彼女の家の形にそってるみたい」
それはただ通ってきた道を示している。
曲がり、くねり、時には円のようになりながらも、
その道跡はただ白い箱のように描かれた彼女の家からはみ出ず、崩さず、刻まれている。
(やっぱりこの能力……)
彼は加速した脳で考えた仮説を思い出す。
「あ、本当ですね」
「中をぐるぐる回ってた線がだんだん縁を目指してます」
「うん、だからふと思ったんだ」
「もしかしたら僕らは逆だったんじゃないかって」
「逆……ですか?」
「この道は本当は彼女の家に入った人が迷い込む場所だったんじゃないか……とね」
「そうだったんですか?」
「いや、まぁ、仮説だよ?」
「ただ、例えば君が先に今の道に来たとする」
「曲がりくねった一本道」
「それが急にただただまっすぐな一本道になる」
「こうなると?」
「不安……ですね」
「そうだよね、僕だってそう」
「そしたら今度は急にたくさんの分岐が現れる」
「ついつい曲がってしまいますね」
「そしたら絶対に外には出られない」
「あの迷路はただ道なりに進むだけで良いのだから」
「道なり……ですか?」
「うん、この地図を見て」
「僕らは地図の印の同じ色から同じ色へ転移するんだけど、少し変じゃない?」
「変……ですか?」
「私にはわかりませんでした」
それを聞いて数秒、早太はどう説明しようと考え、
「えっとね」
「この地図だとね……絶対に細道に入れないんだよ」
「全ての細道への入口が、太い道への入口に繋がってるんだよね」
「犬小屋とか住宅の門とか潜ろうものならわからないけど……」
「この迷路は迷路じゃない」
「迷宮だ」
「迷路と迷宮……」
「違いは知ってる?」
「はい、たしか出口があるのが迷路、無いのが迷宮でした」
「う〜ん、ちょっと足りない」
「それだとこの迷宮から出れる場所、今回で言うと入口と範囲外が存在するから……」
「その分ではこれは迷路と言っていいことになるね」
「僕が読んだ本での迷宮の定義はゴールが無いかつ」
「一本道なんだよ」
「つまり……」
「元よりあの迷路は道一本、あの道からそれてもあの道のどこかに転移するよう設定されていた」
「そういうこと……ですか?」
「あぁ、伝わって良かった」
「そう、そういうこと」
「そして……」
「これが入口だ」
眼の前にあるのはただの扉、
どこにでもある普通の住宅の扉、
ただ……
そこに家はなく、
道もない、
ただその扉は初めて現れた行き止まりに、
あって当然と言わんばかりに貼り付いている。
「………よし、僕が先に行く」
「ケータイが鳴ったら君も出てきて」
「わかりました」
「じゃぁ、行ってくる」
ゴクリと息を飲みドアに手をかける。
(開けたら眼の前に怪物がいたらどうしよう)
不安
(怪人態で出るべき?)
(いやでも……)
ちらっと彼女の顔を見る、
(………いや、これ以上彼女を不安にさせるわけにはいかない)
決意を固めドアをくぐる。
「…………だ!」
「よっしゃあ!外だ!」
思わずガッツポーズを決める、
「き、君……今その家から出てきたのかい?」
喜ぶ僕に見覚えのない隊員バッチ付きのおじさんが僕にきいてくる。
「えっと……いいえ、僕はこの家から出てきたわけじゃありません」
「このドアからは出てきましたけど」
「???」
何を言っているのかわからないという顔で彼は首を捻る。
「詳しくは正児さんにきいてください」
僕は携帯を取り出す。
「あ……ちょっと失礼」
電話をかけながらも一応相手に断りを入れる。
コール音が3度する。
繋がった音とともに妙な無音。
ガチャ
ドアノブが動く。
「外……ですか?」
「うん、外だよ華家来さん」
僕はおっかなびっくりという様子の彼女に手を差し出す。
「やったね、迷宮クリアだ」
僕は彼女の不安を少しでも和らげられることを願い、
全力の笑顔で彼女を連れ出した。
その瞬間
「痛っ」「あうっ」
何かが僕と彼女の頭に落ちてきた。
地面に落ちている金と銀の2種4つのそれを拾い上げる。
(……バッチ?)
(金の方は糸玉に牛座……)
(銀は短剣に牛座……)
(これって)
「あの、それは何だったんですか?」
「………良かった、こっからどうやって帰ろうかと思ってたけど問題なさそうだね」
僕は彼女に金のバッチを放おる、
「これは……?」
「たぶんそれをつければ迷わずに出れるよ」
「出たらたぶん外にいるだろう黒いロボットっぽい人に銀の方も一緒に渡してくれるかな」
「……あなたは?」
「僕?」
「僕は……まぁ、まだちょっとやるべきことがあるからね」
「大丈夫、大丈夫、ちょっと先に行っててってだけだから」
銀のバッチを取り出しながら僕は彼女に笑顔でそう言った。
予定より何かぐだついてる気がしますね、
やっぱりストーリーって難しい。
そもそも9話の時点で怪物との戦いに入っている予定だったのに……




