第8話 その1
「失礼します、私……の2年…組の………です」
「……さん、を読んでいただきたいのですが」
ざわつく教室の声が彼女の声を隠す。
多種多様な話題が入り混じりもはや雑音でしかない、
……が、ふと
クラスのみんながその少女を見た瞬間、
話題は統率の取れたただ一つの話題に集約する。
「見ろ、珍しい」
「ほんとだ、聖女だ」
「俺こんな近くで初めて見た」
「噂通り可愛いな」
「いやしかし珍しい」
ざわつきはより一層大きくなる、
けど一つの話題のみ話されるその現状はそれほど不愉快ではない。
「本郷く〜ん、お客さんやってぇ!」
そんな中よく通る声がする、
歩くスピーカーの異名、伊達じゃない。
ざわつく教室の声などに負けないその声は皆の耳にしっかりと入る。
しかし、返事はない。
一睡もできてない彼は今、昼も食べずに夢の中。
「本郷、本郷!起きといた方がいいぞ!」
「中等部の聖女がご指名だ!」
友崎が彼を叩き、起こす。
「……‥何」
包帯に包まれ、
顔色悪く、
その不機嫌そうな声も相まってもはや彼は一種のアンデットのようである。
「お客さん」
彼は入り口に立つ少女を指差す。
早太はゆっくりと立ち上がりフラフラしながらも何とか彼女の前に立つ、
そしてじろじろと彼女の顔を見て後、
「………誰だっけ?」
と、首を捻った。
どうやら見覚えはあるが思い出せないようだ。
聞き耳立てた静寂の教室にその声は間抜けに響く。
「何や本郷くんしらんの?」
「彼女は今の中等部1番人気、この学園の3姫…メギドちゃん入れたら4姫…の1人やで?」
「……いや、そういうのじゃなくて」
「どっかで見かけたような……」
「あ、あの……自己紹介、聞こえませんでしたね」
「もっとはっきり言うべきでした」
「いやいや、僕が寝てただけ」
「悪いけどもう一回お願いできまるかな?」
「はい」
「私は中等部、2年」
「華家来花音です」
「………華家来?」
「はい、父がお世話ななりました」
「いや、現在進行形でお世話になってるけど……そうか、あの人の娘さんか」
「そういや、弁当を届けに来ているのを以前見かけたな」
「はい、私もあのときが会うの初めてでした」
「それでですね、あなたに父より伝言がありましたのでお伝えします」
「『個人的に君達と話がしたい今日の6時、カフェ:カレイドに来て欲しい』とのことでした」
「君達……アルもってこと?」
「そう言うことだと思いましたけど……」
「うん、わかった」
「ありがとう、わざわざ伝えてくれて」
「いえ、こちらこそ父のわがままに付き合ってくださりありがとうございました」
「……そうです、これからも父のこと付けはあると思ったので」
彼女はポケットよりスマホを取り出し、
「アドレス交換、しませんか?」
そう言ってくれる。
ざわつく教室、
しかし、彼は申し訳なさそうに、
「ごめん、僕スマホ持ってない」
そんなこの島の住民とは思えないことを告げる、
「ガラパコス、でしたか?」
「ならメールアドレスを……」
「いやごめん、両方ないんだ」
彼はポケットの中のSOCUDOにしか伝わらない無線機を撫でながらそう言った。
「え、それまじかいな本郷くん!」
あまりの衝撃に!
と言う顔でスピーカーは割り込んでくる。
「いや、ちょっと厨二病的なものを拗らせた時にね」
「一度手放してからいろいろあって買ってなかったんだよね……」
「え〜、もったいない、買いなよケータイ」
「聖女のアドレスなんて2度と手に入らないよ?」
「……そうだねぇ、もう買ってもいいかもなぁ」
「‥‥って、どうしたの華家来さん、顔赤いよ?」
「え、その、聖女なんて呼ばれてしまいました」
「初めてでした、ちょっと……嬉しいです」
「え、なにこの子可愛すぎひん?」
「聖女ってみんな呼んでるんだと思ってた」
「そりゃ本人には呼ばんよ」
「なんで」
「どうせなら名前、呼んでみたいやろ」
「ごめん、わかんないその気持ち」
「本当に枯れとるなぁ君」
「あなたがイキイキしすぎなんです」
「……あ、思い出しました」
早太達がなんだとかんだと話していると花音はふと、
まさに思い出したとばかりに、
「父にこと付けを頼みたかったんでした」
そう言った。
「それこそ電話で伝えればいいんじゃ?」
「父もあなたと同じで電話を持っていないんです」
「僕が言うのもなんだけど、珍しいね」
「特に技術者なんて肌身離さずってイメージだけど……」
「父は技術者ではなかったので」
「それに持ってないというのは持ち歩いていないという意味でした」
「ふぅ〜ん……で、伝言って?」
「今日、登校していない子の様子を見てくることになったので遅くなることになりました」
「でも、夕飯には帰ります。……と、伝えてほしかったんです」
「うん、わかった」
「ありがとうございました」
「では、お昼休みに失礼しました」
「………あ、そうでした」
頭を下げ、出て行こうとした彼女はポッケから財布、その中のレシートを取り出し、
「あの、これメールアドレス書きました」
「買ったなら登録してください」
ボールペンで書き込んだそれを彼に手渡し改めて立ち去った。
「さて、この空気どうしようなぁ本郷くん」
振り返れば針の筵のような空気、
人気というのは本当らしい。
しかし、その一切を彼は気にしない。
ポケットにメモを突っ込みちょうどいいやと呟いて、
「玉緒さん、聞きたいことがあるんだけど」
「ん、なに?」
未だそばに立ちっぱなしのスピーカーさんに声をかける。
「彼女のこと教えて」
「……おやぁ?」
「珍しいね君がそんな表情するなんて」
「もしかして惚れた……って、そんな顔やないか」
「いいよぉ〜、聞いて聞いて、噂話でええなら答えたげるで私」
「じゃあ彼女が聖女って呼ばれてる理由」
「そりゃぁ、あの美貌……って言いたいところやけどちょっと違うんよ」
「彼女な、たまに奇跡を起こすって噂があるんや」
「奇跡?」
「うん、落ちてきた植木鉢を避けたとか腐った床を歩いたのに床が抜けなかったとか」
「跳ねた泥水が彼女にだけかからなかったとか」
「砂糖を塩と間違えたのに失敗しなかったとか……」
「それは……まぁ、奇跡か」
「あと猫にめちゃ好かれる」
「……それはもはや魔女では?」
「「「あぁん!?」」」
「シャラップ!」
怒りと共に立ち上がった男子生徒を玉緒は一喝で座らせる。
「アイドルを貶すと歯向けられるから気をつけぇよ?」
「はい、気をつけます」
「で、他には?」
「他ぁ……う〜ん」
「あぁ〜、そうそう、面倒見がええって聞くなぁ」
「こないだも一人で何匹もの野良猫の飼い主探ししてたらしいし」
「それとよく教会に出入りしてるって噂に聞くで」
「教会?そっちの方が聖女っぽいじゃないか」
「まぁ、そうなんやけどね」
「そんな訪れる回数も多くないんや、数月1度くらい」
「……今更だけどなんでそんな詳しいの?」
「うちの学園って他の部とは先輩後輩くらいでしか関わんないよね?」
「そりゃ、学園のアイドルのネタは男どもに高こぉ売れるからや」
「…ぇ、有料?」
「なははは、今日は気にせんでええで」
「その痛々しい体へのお見舞い金とでも思ってくれればいいから」
「……ただな?いいネタあったら流してくれや」
「わたしあんたの洞察量は買ってんやから」
背を叩き、
肩に腕を回し、
そう囁いて去っていく。
「お花摘みかな?」
彼は彼女の背中を見ながら相変わらずデリカシーの無いセリフを呟いた。
あらすじって難しいですね




