第6話 その5
「執行役、HA-08……カメラの調子はどうかね?」
明かりの一切点かない上段からしわがれた男の声がする。
場所は中央議会、
されどああの日のような大衆は見られない。
影らしきものが最上段に数個、
証言台に1つ。
『問題ありません、正常です』
浮かぶ左右3つずつの光、
体中のエネルギーラインは彼の姿をゆっくりと照らしあげている。
「それは上々、では報告書の内容の確認といこうか」
『はい』
『まず本体として動いていたパワードスーツ部隊ですが壊滅状態です』
『落命者こそ0ですが隊員の多くに心的ダメージがあり、復帰が難しいと診断された者が複数います』
淡々とHA-08の人外的ボイスが議場に響く。
「そう……まぁ、それはどうでもいいわ」
「私が聞きたいのは特級監視対象03aのことよ」
「この報告書には正確な数値を記すよう命令していたはずなのだけど……」
「いくらかあなたの主観が混じっているように思えるのよね……」
「あなたにそんな知能あったかしら……ね?」
今度は後方より女の声がする、
HA-08はそちらに振り向こうとはしない。
「まぁ良いでは無いか天王、戦闘の全てをインストールした者の意見だ聞く価値もあるだろう」
老人の声がする。
「時間の無駄よ、そもそも知識だけのガラクタが何を語れると言うのよ」
「戦闘の素人に半壊させられたくせに全ての知識を持つだなんて…笑わせるわ」
「目標も一方しか回収できない、しかも温情でだなんて作った身にもなって欲しいわ」
「……口を慎め天王、そもそも穏健派に一切の相談無く行った今回の所業、彼がいなければ03とは離別していた可能性もあるのだぞ?」
「そもそも貴様の担当は経済だろう、貴様こそ素人かつ部外者だろう」
「うっ……それはまぁ」
女の声が止まる。
「ほれ08、読み上げたまえ」
『はい、まず彼と戦闘を行った際の第一の印象は……十数年戦場を忘れた武士のよう、でした』
「ほう?」
「抽象はいらん、率直に言え」
『……そうですね、彼の戦闘能力は体に染み付いているかのようでした』
『彼は嘘でないならば武道を最後に習ったのは母からとのことでしたが……』
『明らかに見合わないほどの技を持っている』
『おそらく……あのようなものを【天賦の才】と言うのでしょう』
「ふむ、なるほど」
「つまり03aは原石である……ということか」
「いや、それはまだ早計だ」
「怪物達の戦い方から見てもその戦闘技術は彼女由来とも見れるだろう」
「なるほど、03bか」
「その線もありえんことはないな」
「では08、君は敗北した原因はどこにあると思う?」
『……脅威なのはその思考速度と反応速度でしょうか』
『人間であればあの状況で拳を逸らすという手段は思いつかない』
『私はそう思います』
「ふむ、つまり結局は彼もまた怪物……いや、怪人であるということか」
誰かが悩むように唸る。
「……貴様も黙っていないで何か言ったらどうだ」
しわがれた声が隣の人影に問う。
返事は無い、
……ようやく、彼は口を開く
「私としては意見を二転三転されては困るとしか」
「私はここで決め手欲しいのだ、7の同志よ」
「彼の処遇を」
「今後一切の改変は認めない、ここではっきりと決めてもらおう」
空間が静まり返る、
そして数秒、
「猟犬とするならば替えはきかんだろう」
「事実成果も上げている」
「‥‥そうだな、プロジェクター・システムのみではこの先不安ではある」
「負けが続けば運用すらままならん、戦力は多いに越したことはない」
「しかし……信用に足るのですか彼は」
「出生から見ても彼がただの人であることは疑いようがない」
「問題があるとすればまだ大人の管理の目の下にいるため自由に行動できないくらいだろう」
「そこも問題ないわ、もう手は打ってある」
「彼ならあれでもう邪魔はしてこないでしょう」
「……なれば決まりだな」
八方から彼らが立ち上がる気配がする。
「HA-08に命ず」
「特級監視対象03aに協力し即刻25の怪物を排除せよ!」
そう告げられた瞬間青い光は赤く染まる。
『了解しました』
「う〜ん、濃いいかなぁ?」
コトコトと煮込まれた肉じゃがの鍋を覗きながら早太は首を傾げる。
「味見……はもう少し煮込んでからかなぁ」
本郷早太、この男取材や締め切りでよく父が家を留守にする上他に家族もいないため家事はもはや万能と言っていい領域に足を突っ込んでいる。
だが唯一の弱点は全ての料理の味付けを薄く作ってしまう癖があることである。
無論レシピ通り作れば普通の味に仕上がるのだが二度三度作ってレシピを見なくなった瞬間味が薄くなるのだ。
これは母が死んでからの数年間料理を作ってくれた父が濃くなりすぎるのを恐れて薄味ばかり作るため出来上がってしまった彼の舌のせいであり、これを自認したのは高校で友達に唐揚げを食われたときが初めてである。
彼ら曰く、「本郷の漬けダレは黒くない」‥‥らしい。
「さて煮込んでいる間に味噌汁も……」
切った野菜の入ったボールを引き寄せ引き出しから鍋を取り出し火に……
「……あれ?」
何度も捻るが火は出ない、
「壊れたかな……?」
彼はつまみの下の部分を叩きメーターを取り出す。
「う〜ん?あ、電池切れか」
「電池まだあったっけ」
「最近は充電式ばっかだから乾電池常備してないんだよな……」
「……というか左右別の電池から供給してるんだ初めて知った」
今時珍しいIHではない3口コンロ、
これは彼の父曰く妻のこだわりだったらしい。
調理は火を使ってこそ‥‥らしい、
だがそにせいで数年に一度電池が切れて着火できなくなることがある。
「さて……味噌汁どうしよう」
鍋を肩に乗せ首を捻る。
「……まぁ今日はインスタントでいいか」
捻ったつまみを戻し、
彼は鍋とメーターをしまい、
水切りカゴから炊飯器の釜を取り出し背の段ボールから米を掬い取る。
「い〜ち、に〜、さ〜ん合っと」
蛇口を開け、
水道水でよく研ぐ、
無洗米なのでたいして水は白く染まらない……が、彼は無洗米を信用していない。
しっかり3度水を入れ替えよく研ぐ。
……しかし、洗うんじゃない研ぐんだと皆言うけれどなぜ『無洗米』なのだろう……?
釜の縁に取り付けた道具でよく水を切り、ペットボトルの天然水を注ぐ。
雑穀を同じ段ボールの隙間から一パック取り出し流し込む。
2度ぐるっと米を手でかき混ぜ雑穀を全体に散りばめ炊飯器に放り込む。
「えっと…早炊っと」
ボタンを押した瞬間画面の文字は- - -から30へと変わる。
肉じゃがの火を弱めとりあえず晩御飯の用意は終わり、
エプロンを脱ぎ、台所を出る。
ピンポ〜ン
すると見計らったかのようにチャイムが一度なる。
とりあえず椅子にエプロンを掛けドアへ向かう。
鍵を持ちながらも彼の出迎えを心待ちにしてドアの鍵はピクリとも動かない。
1、2、3と鍵とチェーンを外す。
これまた今時珍しい物理ロックだ。
まあ、そもそもこの家には電子ロックを含めれば4つ鍵が付いている。
念には念を込めてさらにもう一丁念を込めたような設計だ。
……これも元治安維持部隊の母を持つが故か、
それとも怖がりな父を持つが故か、
ドアを開く。
「たっだいまぁ〜!」
両手を広げる1人の男が明るい声で家に踏み込んでくる。
手に無数のバックを持ち、
肩からも一つカバンを斜め掛けしている。
早太に一度ハグし背をにど叩く。
「お、おかえり父さん」
「ああ早太、悪かったな大変なことになっていたのに帰って来れなくて」
「いや、電話で僕が言ったでしょ面会拒絶の病院だから帰ってこなくていいって」
「いいや、親なら退院時すぐに帰ってくるべきだ」
「父さん……」
早太はこめかみに親指を当てる、
彼は今となっては唯一の肉親であり、過剰とも言えるほど自信を愛している父を嫌ってはいない。
しかし、一定のラインを超えられるとさすがに煩わしく思ってしまう上、
彼にとって父のやりたいことの足枷になることが1番したくないことであった。
「あ、そうそうお土産」
「何これ」
渡されたのは金の毛と枝のような角を生やした謎のお面、
「麒麟の面」
「キリン?よくて龍でしょ?」
「……む、麒麟を知らないのか?」
「え、黄色くて首の長い牛でしょ?」
「違う、龍のような頭と馬のような体を持つ伝説上の生物だ」
「へ〜そりゃぁ勇ましい……で、何のお土産なのこれ」
「ああ、それは島内の宗教関連の木彫りを一挙に請け負っている職人を取材したときに買ったんだ」
なるほど、それはオカルトライターらしいお土産だと早太は1人頷く。
「今度は木彫りか……ねぇ父さん、もうちょい消費できる系のお土産にしてよ」
彼はそれを徐に冠りながら言った。
「ははっ、似合ってるじゃないか」
ぽんぽんと仮面からはみ出た頭を叩く、
……たぶん僕の不満を聞いていながら無視している。
「やめて」
彼はそれを静かに離させる。
玄関から移動してリビングの椅子に父は座り、
手のカバンは机に置き、斜め掛けカバンを椅子にかける。
早太はキッチンに戻り忘れていた本を回収に向かう。
「あ、そうだ父さん」
「父さん宛ての手紙そこにまとめてあるから」
「ん?おう、ありがとう」
早太は肉じゃがの味を確認し水を足し、
少し火を強めてから本を回収、
ようやっと台所を出る。
「……どうしたの?」
リビングの机で一つの手紙を見つめたまま黙り込む父を不思議に思い彼は問う。
「……早太、これを見てくれ」
そう言って差し出された書類に目を通し……固まる。
目を見開き何度も何度も読み返し、
机の上の封筒を見る。
透かしはある、詐欺……ではない。
「信じらんない、これって……」
「………ああ、島外外出許可だ」
2人はこれは現実かとゴクリと息を呑む、
島外外出許可、
それは読んで字のごとくこの神織島の外に出ることを政府が許可したことを証明する書類である。
これがないと何人たりともこの島から出ることはできない……まあ、密航とかはできるんだけど。
島外外出許可には2種類あり一般人に対し発行される青と役人などに発行される赤、
前者は期間、手段、場所が指定されるが後者にはそれが無い。
(まぁ、そもそも一般人に実際に発行された前例なんて芸能人の島外交流でくらいしかないんだけど)
島内にある技術の流出を防ぐため申請後何度も何度も繰り返し繰り返し身辺調査をされ数年かけて却下されるのが普通であり、
記者なんて職業を外に出すなんてことは本来有り得ない。
受け取った本人が訝しむほどにだ。
じゃあなぜ発行されたかと考えれば……
(十中八九僕のせいだろうね)
(人目を避けるためパトロールは深夜だし……)
(親がいれば行動しづらいと考えたんだろう)
(えっと、期間は……)
「明後日から……3月まで」
ほぼ半年である。
「……無理だな」
ぼそりと父は言う、
「え、何で?」
「せっかくの機会だし行ってきなよ」
「……無理だ」
「何で、僕もう高2だよ1人でも大丈夫だよ?」
「俺が大丈夫じゃない」
「えぇ……」
「あのね父さん、僕が一番辛いことって何かわかる?」
「思い出話だろ?」
「違う、それはただの黒歴史」
「父さんのやりたいことの邪魔をすることだよ」
「父さんは僕にやりたいことをやらせてくれるよね?」
「なら、自分のやりたいことも自分にやらせないと」
「……って、僕はそう思うな」
「………そうか」
「……………そうだな」
ゆっくりと眼鏡を外し彼目頭を押す。
そして少し遠くに置いていた書類を手に取り、
「そうするか」
そう言った。
「……しかし、時期が悪い」
「今からでは見たい物も見れん」
書類をパラパラと捲りながら彼は1人ぶつぶつ呟きながら計画を立て始める。
どうやら行く気になってくれたらしい。
Pirrrrr
早太の部屋からコール音が響く、
「ちょっとごめん父さん」
……集中しているのか無反応、
彼は自室に入り机の上に置きっぱなしだった通信機を起動する、
「はい」
『もしもし、早太君かね?』
「そうです」
『河清志郎だ』
「どうしました局長」
『夜分に住まないが君に頼みたいことがある』
『怪物退治だ』
まだ閉めてなかったカーテンから刺す月明かりに照らされた彼は告げられた言葉を噛みしめるような表情で机の上のデバイスを見つめていた。
天将十二火器1〜6
元は7つの予定であったのを急遽12に増やしたため未完成の物なども存在する、
作成者がもっぱら人工知能は専門外だったため自動操作系は特に出来が悪い。
増えたのと名前の理由は班長が陰陽師系の漫画に偶然ハマったからなので式神の名前と武器の内容にはほぼ繋がりが無い
1:貴人
とある執行システムに似たデザインのゴツい拳銃であり小木が使用したものの同型。
残念ながら射出するのは普通の貫通弾。
だが射出時に銃口に辺りを吹き飛ばすような衝撃を発生させるためゼロ距離で生物に放てば肉体を抉り取る。
2:玄武
3: 勾陳
それぞれ形の違うブレードの取り付けられた片手用マシンガン。
ボディが硬い以外は普通の武器と変わらず、威力も他より群を抜いて低い。
しかしそれでもパワードスーツ未着用の一般軍人が使用するには反動が大きく片方でも両手での使用が推奨される。
それぞれを片手斧のように使用する他、男のロマンということで合体させて大剣にする機能がある。
4:朱雀
ウイルスやナノマシンなどの視認できない攻撃を焼き払うために使用される火炎放射器。
ブーストとの戦闘後解析データを元に改良され火炎弾を打つことが可能になった。
出力は横のつまみで操作可能、ボンベを交換する仕組みになっている。
5:白虎
壁越しでの狙撃でも1cm以上のズレが発生しないほどの貫通力と破壊力を誇る狙撃銃。
その分もう一つのものより射程が狭く、弾丸も特殊なものになっている。
それ以外はただの狙撃銃なので固定さえすれば一般人でも撃てる。
あともう一つ特徴を上げるならスコープが付いておらず代用となるプログラムはHA-08にしかダウンロードされていない。
6:天空
自身の死角を補うための4機の円盤型の偵察ドローン。
4機が互いの死角を補うように自動的に行動するオートと手動操作があるが操作系統は常に統一される。
ある程度の重さまでなら物資を運ぶこともでき、一応一般的な拳銃程度の威力の銃火器を搭載している。
専門じゃない人が作ったオートシステムなのでもっぱら手動じゃないと役に立たない……が、
手動は手動で4機全部1人で操作する仕組みとなっておりかなり使いにくい。




