第6話 その4
「いやぁ賑やかだねぇ」
入口をくぐった瞬間さっき以上に人、人、人。
放課後だからか制服を着ている子達も多々見られる。
「久しぶりだなショッピングモール」
「最後に来たのは?」
「悠とのデートみ映画、三ヶ月前くらい?」
「ひどい彼氏だなお前は」
「いや違うぞ!?ちゃんと他の場所でデートしてるからな!?」
「あ、3号館増築するんだ」
「聞けよ!?」
横目に流れた広告に僕は反応する。
「ああそういやぁなんか工事してたな」
「最近この地区は工事が多いね、どっか別のとこも工事してなかった?」
「定期的にある再建築だろ、AビルBに移るらしいしなぁ」
「十数年すりゃあいつのまにか3号館が1号館になってるかもな」
「そういやぁ、ここってこないだ置きっぱにしてた鉄筋とか材料が落下する事故があった場所だね」
「あぁ、危ないよなあれ」
歩きながら話しているとまた別の広告が目に入る。
「あ、イベント広告」
「風船配りは……無いな、どこでもらったんだろう?」
僕はさっきの子を思い出しながら呟く。
すると友崎がスッと広告の端っこを指差す。
「よく見ろ本郷、地下で配ってるってここに書いてあるぞ」
「え?あ、本当だ」
「小さいなぁ、というか何で地下?普通一階か外で配らない?」
「家族連れはみんな車だからな、地下駐車場から上がってくる子をターゲットにしてるんだろ」
「あ〜、なるほどね」
僕らはそんな話や休んでいたときに学校で起こった出来事を話しながら歩みを進める。
「そういやぁ、下河はどんな具合だ?」
「ん?」
「同じ病院だったんだろう?気になってたんだ」
「ああ、下河なら特に怪我はないってお医者さんから聞いたよ?」
「でも復帰はまだしばらく先かなって」
「何でだ?」
「さあ?」
……嘘だ、本当は知っている。
一度完全に肉体を怪物に変えたことによる後遺症でまだ目を覚まさないからだ。
その後遺症の理由も知っている。
この間アルが局長達に説明していたときに僕も聞いた。
たしか……
完全に怪物化した人は肉体が契約解除後に黒い球よろしく再構築され、
その後その肉体に魂を定着させるらしく定着までしばらくかかるから。
それとごく稀に定着が失敗することがあるとも言っていた。
その理由は魂を保存しているプレートが移動中に離されたりするからだそうだ。
だから今も彼らには目覚めるまでは念のためプレートは契約者に身につけさせるべきらしい。
だからWは今彼女の首に掛けられていたりする。
(説明できるわけないよなぁ……)
「お、ここだ」
彼がふと立ち止まる。
「はぁ?」
あまりの想定外に一度そこを通り過ぎる。
「え、ここ?」
そこはショッピングモール南西口付近の2階行きの階段の下、
物置になっていそうな一件壁にも見える扉。
彼はそれを真っ直ぐと指している。
「うん、ここ」
「いや、でも看板も何もないぞ?」
「え、あるじゃんほら」
彼はそのペンキで塗ったような白い扉を指して言う。
「どこさ?」
「あ、そっちからは見にくいかも」
「こっち立ってみて」
「……?」
言われた通りに彼の場所まで動く。
すると……
「あ、本当だなんか貼ってある」
白い扉に光が反射したことで滑らかな白が浮かび上がる。
……どうやら文字の形に切った白いシールが貼ってあるらしい。
「……どのみち読めない、というか読みづらい」
僕が目を細ませると、
「水晶の氷室っていうらしいぞ?」
ああ、これ晶か、
「じゃあ入ろうぜ」
「うん」
彼はドアノブの輪を起こし回そうとする。
「回んない」
「休み?」
「いや、そんなはずはないんだけど」
「とりあえずノックしてみたら?」
「そうだな」
コンコンコンコン
金属を軽く叩くいい音が四つ響く。
「おっ?」
するとうんともすんとも言わなかったノブが勝手に回り出す。
ガコンと音がする。
そして、
「すげぇ」
白かった文字が綺麗な空色に染まっていく。
そして、
【welcome boys】
シールも何も無かった場所に文字が刻まれる。
僕らは顔を見合わせる。
見つめる彼の顔はワクワクを抑えられないと言わんばかりの笑顔、
きっと僕の顔も同じだろう。
「……入るぞ」
「……おう」
暗幕で先の見えない室内へ僕らは並んで踏み行った。
「扉でも告げたがもう一度、ようこそ少年たち」
暗幕の向こう側は吊るされた水晶に電球を通した明かりでぼんやりと水色に明るく、
思った以上に広い、階段下で収まっているとは思えない広さだ。
そして奥に佇むのは片手に水晶玉を持つこの部屋の主人らしき人物。
「……おや?どちらも見覚えのない顔ですねぇ」
スカーフでくぐもった声がする。
顔もベールで覆われていて見えない……が、訝しんでいるような気がする。
「誠に残念ながら当部屋では一回につき1人を占うという決まりとなっております」
「本来紹介者と被紹介者の2人でお越しになるため問題ありませんでしたが……どちらを占いましょうか?」
僕らは顔を見合わせる。
「じゃあ早太で」「じゃあ僕で」
「受けたまわりましたどうぞそちらのお席へ」
電飾と彼女で注意していなかったからだろうか、
古ぼけた、それでいて少し豪華な木の椅子がそこに置かれていた。
そこに僕らはゆっくりと腰掛ける。
「……座らないんですか?」
僕は目の前に立ったまま動かない主人に問う。
「はい、立って行うので」
「………?」
急に主人は首を傾げる。
その目線の先はおそらず僕。
「あの……お名前は?」
「本郷です、本郷早太」
「本郷……ああ、なるほどそれで」
「何か?」
「いえ、以前あなたのお父さんらしき人物にお会いしたことがありましたので」
「たしかお名前は……本郷進さんでしたか」
「ああ、それは確かに父ですね」
「なるほど、どうりで似てらっしゃる」
「そうですか?僕、母親似だと言われるんですけど……」
「外見もそんな似てねぇよな?」
今度は僕らが首を傾げる。
「ふふ、まぁ人は見かけによらないと言いますから」
「それに君は……」
「「?」」
気のせいか薄いベールの向こう側が青く光ったような……?
「では、始めましょう」
「詠唱始めます、万が一があると怖いので動かないでくださいね」
そう言うと一つ咳をして水晶玉を首ほどの高さに上げる。
「浮かべ・未知の水晶よ」
ゆっくりと水晶玉が輝きを得て手を離れ出す。
まるで奇術のように、
「詠唱開始」
「水晶は受け取る物」
「未来は回る物」
「過去は回収する物」
「絶対とは未知なり」
「回収せよ、乖離せよ、理解せよ、絶対を」
「内包せよ、読み解け、映しとれ……」
「我らの未完を知らしめせ」
水晶の外表が散る、
破片一枚一枚が翼を開き燕のように僕らを回り出す。
「すげぇ、すげぇよこれどうなってんだ手品か!?」
「シッ、静かに集中を切らさせると危なそうだ」
部屋を大きく回っていた燕は僕を回り出す。
小型ドローンか映像か、はたまた別のそういう系か、
「ねえ友崎、お前って奇跡とか信じるタイプ?」
「そりゃぁスポーツマンで信じねえ奴はいないだろ」
「そういうお前は?」
「そりゃあ信じるよ」
「父の仕事的にも、自分の経験的にも」
その瞬間次々と燕が僕に向かって飛んでくる。
痛みはない、
砕けるように、
そもそもそこに居なかったかのように消える。
そして、
「うわっ!?」
僕の腹が燃える、青い炎が漏れ出し揺れる。
館の主人を見る。
風もないのにローブが、ベールが揺れる。
そしてスカーフまでもが解け落ちる。
長いまつ毛、青く光る瞳、口紅を薄く塗った口元、
招くように指を動かす。
すると、
火の玉のように臍から炎は離れ彼女の胸元に浮かぶ水晶玉に囚われる。
……魂を取られた人質のような気分だ。
それを慎重に両手で使い。
「……ふ〜う」
「投影完了っと‥‥では、解析を開始します」
主人はゆっくりと水晶を眼前に持ち上げ覗き込む。
「……ほう、珍しい色をしている」
「赤、白……いや緑、黒か?」
青い炎を見つめながら彼女はゆっくりと色を告げ、
そして今度はその解説を始める。
「言った色全てを順に説明しますと……」
「赤は情熱を意味します、不屈、人に影響を齎す人に多い色です」
「緑は受動、柔軟に受け入れながらも自身を自身で変化させる色です」
「ふふ……白は良くない、緑でよかった」
「黒は不変、自身を貫き続ける強い意志を持つ者もしくは何か縛るような絶対的な何かを意味する色です」
彼女は僕に聞き取りやすいようゆっくりハキハキ教えてくれる。
「いやしかし、赤と黒の両立はたまにいらっしゃいますがそこに緑が加わるとは……」
「もしかするとあなたには何か与えられた使命があるのかもしれませんね」
「もしくは生涯かけて実現しようと思い続けていることがあるのでしょう」
「でも、あなたはまだ未完成です」
「その定めに自覚があろうとなかろうと多くを経験し、視野を広くすることをお勧めします」
「なるほど」
「次にあなたの魂の形、あなたの象徴ですが……」
彼女はじっと覗き込んだまま黙り込む。
「揺らいでわかりにくいですね……」
「まるで取り合うように動き続けています」
「まあでもこれは緑の人にはよくあることです」
「……しかしこの、底で安定している存在、何という名でしたか、これは」
「たしか……見覚えが」
「何で見たかは覚えているんですが……あいにくそこら辺にはうとくって……」
「……ああ、そう恵比寿、恵比寿ですねたしか」
恵比寿?
恵比寿って七福神の?
「随分ありがたい魂の形ですね」
「そうですね、神々しく実に勇ましそうです」
「ふむ……それからこの感じ……いや、でも……何でしょうこれは人?人なんでしょうか?」
「影にいますね、小さい、あなた……我が小さい、もしくは言いたいことを言えない性格ですか?」
「もしくは……今時珍しいですが人形の呪いとか恋結びとかそういう他から影響を受ける心あたりは?」
「ああ、もしくは小さい頃のトラウマとか」
「いえ、そんなのは無いと思いますが……」
「そう‥‥ですか?」
「いや、でもう〜ん?」
もしかしたらアルでも映ってるのかな?
となると別の話題に移った方がいいかも、
「あの、それで僕のこれからの運勢はどうでしょうか?」
「‥‥そうですね、この大きさなら今は特に影響を受けることは無いでしょうし、運勢自体は悪くありません」
「あ、いえその人についてでなく全体的なのをお願いします」
「ふむ……そうですね」
「最も言うべきはやりたいようにやりなさい、ですね」
「ああでも責任から逃れようとすることと善意を拒むことだけはやめなさい」
「あなたを、そして周りの人を不幸にします」
「それからあなたは若い、過去の経験から学ぶのもいいですが新しい経験を得る努力をなさい」
「進める道を多く用意するのです」
「そして時が来たら手を引かれることなく、手を引くように歩きなさい」
「繋がることできっとわかることがあるでしょう」
「……と、これくらいですね私に言えるのは」
「ありがとうございました、参考にします」
「いえ、珍しいものが見れてこちらも満足です」
「ああ、そうそうお値段なんですが」
「あ、はいいくらですか?」
友崎が問う。
「いえ、今は開店セール中でして」
「新しいお客様を連れてきてくださるとお約束いただければお代は結構です」
「え、いいんですか!?」
「ええ、なにぶんわかりづらいところにある上店の雰囲気上デカデカと広告を貼るわけにいきませんので」
「ああでも人に教えるときは必ず口でお願いしますねそういう呪いなので」
僕らは三度顔を見合わせて、
「「わかりましたうんと連れてきます」」
「ありがとう、ああでもそんなに多く連れてこなくていいわ一回1人ですもの」
「それもそうですね……っと、ああ」
「質問いいですか?」
「どうぞ何でも」
僕はふと思い浮かんだことを主人に問う。
「これは純粋な興味なんですがあなたの魂の色と形ってどんなんものなんですか?」
「……おや、珍しいことに興味を持ちますねぇ」
「でも残念、水晶は自分を見れないのあくまで受けとる物ですから」
「術者と水晶は一心同体」
「未来を知れるものでも己の未来を知ることだけは許されないのです」
「う~ん、よくわかんないけど」
「とりあえず、ありがとうございました」
「はい、あなたの道が良き道であるよう願っております」
ゆっくりと開いたドアをくぐり抜け、
僕らは今、ありふれた日常へと帰還するのであった。
後書きになんらかの記載がない限り(改)は読み返して気付いた誤字や矛盾を修正した物です。
読み返してみるとそういうの結構多いですね、
アルドナープが自身を前話でアル読んでいるのにアルと呼ぶことを早太が決定するシーンがあったり、
前回のあらすじで思いっきり怪物の能力の正体を言ったくせにカッコつけて「俺わかっちゃいました」風に振る舞うシーンがあったり。
「無問題」と書いて『モーマンタイ』と読むところを『ノーマッタイ』と間違えて覚えて使ってたり…
(ネットでノーマッタイって調べてみてください、他に誰も間違えねぇよバ〜カと言われた気分になります)
(なんかもう笑えるんでそこはそのままにすることにします)
もし他に誤字にお気づきになったなら是非ご指摘ください。




