第6話 その3
「おう、本郷!」
待ち合わせ場所にやってきた本郷に向かって俺は大きく手を振る。
今日は風が強いな……あいつの長い前髪、鬱陶しくないのか?
……お、どうやらこちらに気付いたようだ、こちらに駆け寄ってくる。
「悪いね待たせて」
「いや全然、思っていた以上に早かったぞ」
俺は時間潰しに飲んでいたカフェオレを飲み干し、
缶をゴミ箱に放り込む。
「じゃあ行こうか占い屋さん……だよね?」
「おう、悠曰くありえないくらいよく当たるらしい」
「好きだろこういう系?」
「まあね、父さんの仕事の影響も無くはないけど」
「そういやぁ、下河も好きだったなこういう系」
「そうだね、あの日も都市伝説の話してたし……」
「そういやあの日は休みだったよね、風邪?」
「俺じゃなくて弟がな」
「ああ音君か……相変わらず体が弱いの?」
「いんや、だいぶ健康」
「一年ぶりくらいじゃねぇかなひいたの」
「それはよかった」
「遊びに行く度に寝込んでるイメージだったから」
「そこまでじゃなかったと思うけど……まあいいや、行こうぜ」
「うん」
俺らはとりあえず公園を出る。
そこから先はレンガを組み合わせた道となっており商店街のように無数の商店が並んでおり、
こちら側には車が入れないため平日ながら左右無秩序に多くの人で賑わっている。
うん、ここなら本郷も安心して歩けるだろう。
そしてその最果て……じゃなくて、なんて言うんだろう?
到達点?
う〜ん、いまだ後遺症が残ってるな、いちいちかっこ良さげな言葉を使いたがってしまう。
まあ、とりあえず。
この道をずっと行けば島内最大のショッピングモールRIONにたどり着く。
そんなことを考えながら遠くを見ていると
「うあっ」
少し遠くで子供が何かに躓いたのか大きく転ぶ。
手から離れた風船が風に流され、
ゆらゆらと高所めがけ進んでいく。
「子供よろしく」
鞄を地に落とし彼は駆け出した。
俺は転んだままの少年に歩み寄る。
「立てる?」
まずは手を差し出さずにしゃがんで尋ねる。
「う……うん…」
えらいなぁこの子、泣くこともなく、こちらを見ることもなく、
自力で立ちあがろうと地に手をついた。
俺はこれくらいの頃はどうだったろう……?
1人で立ち上がれないくせに誰かに手を差し出されたらそれをイヤと払っていたような気がする。
「ケガは……あぁ、ここ擦りむいてるね」
「あそこの水道で洗おうか」
俺は先程いた公園を指差す。
「うん……でも、風船が……」
俺は泣きそうな少年の頭にポンと手を置く。
「お兄ちゃんの友達はな、誰よりも早くって、誰よりも高く跳べるんだ」
「よっ」
強風に煽られて大人でも届かないほど天高くへ行こうとする風船に追いつき、
階段を踏み台に跳ぶ………着地、
「ふぅ〜取れたぁ」
『おぉ〜』
無数の人から拍手が送られる。
「え、あっ、どうも…」
恥ずかしい……
僕は駆け足で2人の元へ……結構追いかけたな。
……しかも居ないし、
「ああ、公園ね、ありがとう」
僕は急いでそこへ向かう。
「あ、バッタのお兄ちゃん!」
おでこに大きな絆創膏をいた少年がこちらに駆け寄ってくる。
「本当に取ってくれたんだ、ありがとう!」
輝いたような、憧れるような真っ直ぐとした瞳、
嬉しいけど……少し恥ずかしい。
「もう放さないんだよ」
僕は彼の手に風船の糸を2周させしっかりと握らせる。
すると少年は嬉しそうに笑い、
「うん!あ、バッタのお兄ちゃんにもこれあげる!」
「1番大きいの!」
そう言ってポシェットから取り出した物を僕に渡す。
「じゃあね!」
少年は風船を揺らしながら人混みに消えていった。
それを僕らは手を振りながら見送り……受け取った物を見る。
「……何かなこれ?」
「水……らしい」
「水?よくて海、というかガラスでしょ」
僕は手に握れるほどのそれを日にかざす。
青や緑に色を変えた光が僕の瞳を照らす。
いや、鉱石…‥かも?
「拾ったんだと、近くのガラス工場のできそこないかもな」
「ふ〜ん、もし海だと忘れさせないように塩水に3日漬けないとね……で?」
僕は一度目を瞑り、とびっきりの笑顔で彼を見る。
「バッタのお兄ちゃんって何?」
「だってお前ヒーローって呼ばれたくないんだろ?」
あっけらかんと彼は言う。
「そうだけど!いや、それ以前になんでそんな風に呼ばれるんだよ!?」
「俺がお前の凄さをアピールしたからだ!」
胸を張り、ドヤ顔で彼は言う。
「ゆ〜う〜す〜け〜!また割り増しで教えたんだろ!?」
「もちろん!友情割だ!!」
「じゃあ引けよ!?増すなよ割合を!」
ああ、なんか久しぶりに彼の名前を呼んだ気がする……
「………ぬぬぬぅ、一緒に行きたかったのにぃ〜」
そんな中木陰に1人、黒い気を放つ女生徒が1人。
「何で紹介した私じゃなくてあいつなのよぉ………!」
木が燃え上がりそうなほどのオーラを揺らめかせながら彼らを数m後方から見つめていた。
「あ、あの〜」
「何よ!?」
怒気を孕んだ口調で振り返る………が、その顔を見た瞬間その怒りがカッ消える。
目に飛び込んできたのは自分以外には珍しい無改造の全身指定制服、
何より目を引くのはそのグレーの瞳と太陽に照らされてか純金のように見える髪色。
「もしかしてなのですが、夢の森学院の学生さん……ですか?」
「あ、しかも同じ学年……ですよね?」
綺麗なこ……え?
どこかで……そう、聞き覚えのある声。
「あ、あんた、もしかして……」
彼女は思い出す、
その美声、
陰で見えなかったあの憎たらしい奴の前に聞いた声…
「アルドナープ・メイギ!?」
「え、あ、はい、そうですけど……」
「あの……私何かしましたか?」
「できれば話を聞いて欲しいのですが……」
おどおどとした口調、
甘えるような顔……
頭に嫌な記憶が蘇る。
「……何その口調」
「やめてよね、敬語使われるのは気分悪いわ」
「タメなんだから友達とか親に対する口調でいいのよ」
「そ、そう?」
「じゃあ、そうするね」
「えっと……あなたは」
「う~ん?まだ取り繕っているような……」
「まあいいわ、直らないなら仕方ない」
「……で、私の名前ね?」
「私は悠奈、陣内悠奈よ」
「悠奈ちゃん?」
「う~ん……どこかでその名前聞いたような」
彼女は腕を組んで数秒考え込む。
「……あ!」
「もしかして早太君と友崎君が言ってた友崎君の彼女の悠ちゃん……?」
「……あいつら他人に教えるときもフルで呼ばなかったのね」
「ちゃんと私のフルネーム覚えてるのかしら……」
「お、覚えてますよきっと!」
「じゃなかったら付き合ったりなんてしませんって!」
「でも、告白したのは私からだし……」
「あいつが私を好きか何て………って!」
「何で暗くなってるのよ私!?」
「いつもの私を取り戻しなさい!」
「何で会って3秒の人に弱音吐いてんのよ!」
彼女は気付けのように勢いよい頬を叩く。
「聞いてた以上に元気な子だなぁ……」
その痛みでか涙を零す彼女の1人百面相を眺めながらアルは頬をかきながら呟いた。
「で、何?」
「えっ?」
「えっ?って何よ、用があるから声かけてきたんでしょ?」
「あ、そうだった」
「えっとね、こんな変なことを初対面の人に頼むのもおかしいと思うんだけど……」
「なによ、嫌なことは嫌とはっきり言ってあげるからさっさと言いなさいよ」
「……この島での服の流行を教えてください!」
アルは顔を赤くしながら勢いよく頭を下げる。
「いいわよ」
「え」
「何よ、口癖なのそれ?」
「いや、その、あんまりにもあっさり引き受けてくれるから……」
「……?」
「だって嫌がる要素なんて一つもないじゃない」
「むしろ私、頼られるの好きだし」
「あ……」
「あ?」
「ありがとう!」
「ちょ、何よ!?」
「そこまで声を大きくいうほどのことでもないじゃない!」
陣内はあわあわと前後を見ながら言う。
でもそんなのお構いなしと彼女は笑顔で手を差し出し、
「これからもよろしくね悠奈ちゃん!」
そう言った。
「わかったから声落として!」
「……元気だねぇ、相変わらず」
「悪い子じゃないんだけど……第一印象がねぇ」
「まあ、仕方ないか」
彼女を見ぬまま僕はぽつりと呟く。
友崎も同意とばかりに頷いている。
……しかし、あれで本当に気付かれてないと思っているのだろうか?
「しかし悠にあんなにもぐいぐい話しかけるとは……度胸あるな彼女」
彼は感心したように呟く。
「知らないだけだよ、たぶん」
「……で、どうなの?」
適当に返した僕は話題をそらすために彼の肩に腕をまわす。
「どうなのって何のことだ?」
彼は聞き返す。
すっとぼけてるのか天然か、
まぁ、どちらでもいいんで……
僕はニヤニヤとした顔で囁く。
「彼女……愛してる?」
その瞬間彼の顔が熱くなる。
なんなら首まで熱いほどに。
その後口がむにむにと動き……
やっとというように、
「………好きじゃなかったら自分からぐいぐい関わろうとなんてしねぇよ」
そう断言した。
「そ〜だよねぇ、ひよってるうちに向こうから告られちゃったんだよねぇ〜?」
僕はつい楽しくなってさらに煽る。
しかし、彼は悔しげに答える。
「ああ……今思っても情け無い」
「いまだにあだ名じゃないと呼び捨てすらできないとか……」
「まあ、気長にやればいいと思うよ」
僕は彼の肩にポンと手を置いてみる。
それを苦笑しながら肩をひねって落としながら、
友崎はそうだなと呟いた。




