第5話 その2
「そういや、複製品って他に何があったっけ?」
僕はアルに問う。
「えっと、4枚だよね、たしか……」
「D、ドリュアス」
「I、着火」
「M、鏡」
「R、レーダー……ですね」
「それプラスEか」
「ん、Eってことはアルの元契約者?」
「はい、たぶん、たしか、おそらくだけど」
「何で曖昧?」
「いえ、思い出せないんですよ、曖昧にしか」
「誰かと契約してた気はするんだけど……」
「まあ、この戦いをはじめた理由すら忘れてるんだもんな」
「聞いた僕が間違ってたよ」
「え、あのぉ〜」
「その言い方、微妙に傷つくんですが」
「それに目的もなくこんなことしてるわけでもないんですよ?」
僕のため息混じりの呟きにアルはムッとしたような……悲しそうな顔でそう言った。
「目的ってこの戦いの決着だろ?」
「目的って言えるの、それ」
「言えますよ、たぶん、おそらく」
「それにこの戦いを終わらせたらその理由だって思い出せると思うんです!」
「……まさか、11人倒した参加者を運営が容易した13人目が倒すという出来レースとかじゃないよね?」
「……どうなんでしょうね」
「ま、まあ、昨日読み漁ったこういうゲーム系にしてはこの戦い優しいと思うんですよ!」
「極力無関係の人は巻き込みませんし」
「参加者も基本は死なないし」
「負けたって報酬があるし……」
「こんな良心的な運営のゲームですし、きっと……たぶん」
「そこらへん、追加ルールだけどな」
「速やかにゲームを遂行するためだけのルールだな」
「うっ……」
「というか、何万年前から開催してるくせに未だ一度の決着もないってクソ運営もいいとこだろう」
「そもそも勝負無効終了条件自体曖昧かつふわっとしてるよね」
「まあ、たしかに、そうですね」
「……あ、着きましたね」
彼女が立ち止まる。
もし立ち止まってくれなければ僕らは話しに夢中で通り過ぎているとこだった。
いや〜危ない危ない。
「しかし……」
正児さんは室名プレートを見る。
そして……
「特別研究室……名前のわりに普通だよな、入口は」
そんなことを言う。
「入ったことあるんですか?」
「いや、無い」
「噂じゃあ、かなり他と違うらしいが……」
「さて……」
金属のスライドドアを3度ノックする。
返事はない。
「いないんでしょうか?」
「ふむ……」
「珍しいな、会議以外はずっとここにいると聞いていたんだが……」
「今何時だ?」
「えっと、5時すぎです」
「ならまだいるはずなんだが……」
「珍しいですね、華家来さんってここに住んでるわけじゃないんですか?」
大抵の研究者は研究室、もしくは与えられた自室に住んでる。
「ああ、娘さんと2人暮らしらしい」
「娘」
「ああ、たしかお前と同じくらいの歳のはずだ」
「たまにここにも来てるぞ?」
「ここ、一応暗部で秘密施設ですよね?」
「まあ、地下にあるくらいだからな」
「あの、その話は一旦おいてですね、いい加減探しましょうよ」
会話に割って入ったアルの言葉に2人は頷く。
「何処から探します?」
「ありそうなのはこっから1番近いテスト室C、もしくは食堂とかか?」
「食事を外でとってるとこなんて見たことありませんよ?」
「まあ、いっつも弁当らしいしな」
「とりあえずテスト室に行くか」
「はい」
「お、誰かいる」
入口から覗けるガラス窓から無数の人影が見える。
うちの学校の体育館よりも大きい場所の端から端、顔は見えない。
……が、
「ん?」
「正児さん、あれ、開発長じゃないですか?」
「……本当だな、しかも」
「全員いますね、珍しい」
「……珍しいというか、僕、すっごく嫌な予感がするんだけど」
「同感だな、ろくなことがない気がするぞ?」
「入ります?」
「……入るしかないだろ」
正児さんが思いっきり勢いよく重い防音用のドアを開く。
全員がこちらを見る。
……やはりそうだ、全員いる。
6人の開発長と探していた1人、華家来綺照。
『……ジジッ、えらくタイミングよくキたものだね』
「まあ、お披露目会のゲストとしてはピッタリな人ではあるわね」
「しかし……来てしまったなら秘密裏に運び出すのは不可能だろう」
「まあ、いいじゃないすか、俺らとしても反対なんですし」
「ふむ、たしかに現状唯一交渉ができる人物ではある」
「そうか?無理だろ」
「………というわけで話は彼とつけてくれ」
6人はこちらをチラチラと見た後、その円陣の向こう、
見えなかったそれに結論は告げられた。
『了解した』
現れたのは……
(ロボット……?)
すらっとした人間に近いスタイルの存在、
男らしい口調と体躯、僕より少し高い全長を見つめる。
すでに変身しているかのような姿、
コアのようなものが胸で白に近い青で輝いている。
所々コードが見え、アンダースーツを思わせるその姿、
そして、その顔………
(プロトエンジンの中身か)
『私はHA-08、特殊生物討伐用特殊アンドロイドであり、中央に所属するものだ』
「………いったい、何の御用でしょう?」
まさか代わりが完成したから僕を拘束する気か……?
それとも……
『率直に言おう、ここに保護されている元契約者』
『W、下河絵縫』
『B、増井樹老』
『両名を拘束、直ちに身柄をこちらに引き渡してもらう』
「断る」
僕は考えるより早くそう言った。
『……これは中央の決定だ、本来君も拘束されるところを3体討伐の実績で免除されたが』
『逆らうならば君も』
「……っ」
『中央に反逆の意志があるようならば結んだ契約は直ちに破棄と勧告されているはずだ』
「……そう、だね」
『今、引き渡すならば君の自由は保証する』
『ここで起こったことも一切報告しない』
「それは……本当か?」
「お前はロボットだろう、感情もない」
「ただのロボットの交渉ごとなんて信頼できない」
『これは交渉であると同時にただの通告に過ぎない』
『私は中央の出した条件を適したタイミングで発しているだけだ』
『つまり、これは私ではなく、中央の出した条件であり』
『私の意志による変更点はない』
『私と結んだ契約は中央と結んだ契約と同義だ』
「本当に……彼らを引き渡せば、僕の自由を、保証してくれるんだな?」
『ええ、約束します』
『貴方は素晴らしい功績を残している、こちらとしても君の拘束は惜しいのです』
『さあ一言言うだけで良いのです』
『YESと、それだけで』
『自由を奪われたくはないでしょう?』
『さあ……さあ!』
敵はどんどん距離を詰めてくる。
こちらの緊張感を煽るように。
………ならば
「だが断る」
吹き飛ぶ人影、
突き出された金を纏う銀の拳。
近づいてきたその顔面を殴り飛ばした。
「この僕、本郷早太の思考に友を売るという文字は……無い!」
アルミシャッターの穴の向こうの敵に、
僕はそう、しっかりと、宣言した。
盤梨伊香出(Ikade・Bannasi)
性別:男
年齢:32歳
身長:170cmほど
体重:60kgくらい
役職:SOCUD第一開発班副班長
好き:小型ロボ
苦手:人前
嫌い:代理
(概要)
会議で聞き取り辛いクスマスガに代わってピッケルの説明をしてくれた。
本来憎まれ口を叩く性格だが、
人前の緊張で大人しそうな性格になっていた。
「そもそも、ロボットごとの設定にこだわってテンションが高かったクスマスガが悪い」と、
会議後ぶつぶつとつぶやいている様子が見られた。
名前が示すとおりたぶんもう出番は無い。
というか副班長の面々は影が薄くなるかもしれない。




