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電光怪人チェイン〜ヒーローになりたい僕と26のチートな力〜  作者: 蒲竹等泰
第1話 自由の翼と雷の成り損ない
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第1話 その1

「おはよ~」


「おはよう」


いつも通り教室の友人に挨拶をして席につく。


「今日は早いね」


友人は文庫本から顔を上げ彼に言う。


「うん、今日は父さんが早くに出張に出たから……」

「時間もあったし弁当作ってきたよ」


僕は手に持つ弁当用のバックを少し持ち上げ見せる。

その男子高校生が使うには可愛すぎる巾着を見つめて彼は、


「2つ用意してたりしない?」


と、呟いた。

それを聞いて僕は思わず苦笑いをしながらも、


「いや~、してないな……ああ、でも少しくらいなら食べていいよ」


と、答えた。


「おお、それは楽しみ……」

「いや~、これで水曜の辛い授業を頑張れるよ~」


そう言いながら本を置き伸びをする。


「ん~ん…ん?」

「ねえ、出張が有るってお父さんって何してる人?」


「う~ん、作家……かな?」

「今日は取材に行くって行ってた」


「何で曖昧なの?」


「雑誌のコラムとかも書いてるから」


「へ~、どんなの?」


「噂話とか都市伝説関連が多かった気がするよ」


「ふ~ん、それじゃあ仕事には困らないね」


「何で?」


「だってこの街じ、噂や都市伝説で溢れかえりすぎてるもの」


「え、そうなの?」


「うん、だってさっきもそこの女子が面白い話をしていたよ」


「面白い話……ね」


「『何でも願いを叶えてくれるフィルム』らしいよ」


「はは、聖杯の方がまだ信じられる噂だね」


机の上のライトノベルのタイトルから思わず素直な感想を笑いながら口からこぼす。


「はは、だよね」

「噂の内容も何かいろんなお話しを混ぜたようなのだったよ」


「そりゃ興味深いね」


「………と言いつつ、興味無さげだね」


「う~ん、叶えたい願いとか無いからかな」


「無いの?」

「ほら、もう一度走れるようになりたいとかさ」


「はは、いや~、言ってなかったっけ?」

「走れないんじゃない、走らないんだよ、限界が見えたからさ」

「6年の限界が、だからさ、走らない」

「そんだけ」

「……君は?」

「君こそ、あるでしょ願いごと」


「まあ……ね」


友人は青空を見上げる。


「もしも叶えられるなら叶えたいよ」

「せめて叶えてるとこを見てみたいね」


そう言う友人を見つめてまたも思わず、僕の口から言葉が漏れだす。


「じゃあ、放課後一緒に探しに行くか?」


その言葉にさして驚いた様子もなく窓から目線を僕にずらして微笑みながら、

きっと見つかることなんてないんだろうと思ってそうな表情からはにかむ。


「いいね」

「行こう、楽しみにしているよ」


そう、嬉しそうに告げた。


『リ~ンゴ~ン、ガ~ンゴ~ン』

『リ~ンゴ~ン、ガ~ンゴ~ン』


始業の鐘が鳴り響く。




「や~、昼だね~」


僕と友人は二人で階段を下っている。

いつも通りに聞き流すように授業を受け。

目当ては中庭、弁当袋をぶら下げて4度目の踊場を通る。

こんな暑い夏の時期、クーラーの効いた教室からわざわざ出てくる物好きは少なく、ここまで他学年の生徒とすらすれ違っていない。


特別教室から帰る人達はもうすでに教室に戻っており、上って行く人の影もない。


「あ、飲み物買っていい?」


中庭の入り口への渡り廊下で友人は言った。


「うん、いいよ」


僕は少しは涼しい渡り廊下の屋根の下で立ち止まる。


「貯まってた十円玉処理したくってさ」


そういって自販機へチャリンチャリンと入れていく。


「……先行ってていいよ?」


ふとその手を止めて言ってくれる。


「いいよ、暑いし」


「そう?」


「………ああ、そういえば噂が絶えないってどんなのが他にあるの?」


僕はどれにしようかと百円分だけ入れてから悩んでいる背中に突拍子も無く問い掛ける。


「ん?あぁ、朝の話?ん~そうだな~」

「僕が知ってるのは残り4つだよ~」


そういって自販機から目をそらさず四本の指を立て、ゆっくりと左右に揺らす。


「1つ、この世界は歴史を繰り返している」

「2つ、教室から半分の生徒が行方不明となった」

「3つ、この世界はからくりで成り立っている」

「4つ、ある年に怪事件が多発しその全てが未解決」


「なんかどれもどこかで聞いたことがあるような噂ばかりだね」


「うん、まあこんな街だし普通にありそうなのは言ってないしね」


そう、答えてくれた瞬間、

友人の手で転がしてた一枚の小銭が落ちる。


「あっ」


それを取ろうとしてバランスを崩し、口の開いた財布を落とす。

貯まりに貯まった十円玉は数多の力によって一面に散らばっていく。


「あぁ~っ」


そんな叫び声を上げながら中庭へ入ってしまった小銭を追う背を見ながら僕は自販機周辺の小銭を拾ってああげることを思いつく。


「こっち、拾っとくね」


「うん~、ありがとう~」


数枚拾った後、


「う~ん、あらかた拾ったけど……」


コンクリに小銭のぶつかった音はもっと多く聞こえた気もするが辺りにはもう見つからない。


「自販機の……下かな?」


ゆっくりと頬を床に付ける形で覗き込む。


「ん?」


何か光った、

小銭だろうか?

いいや、僕が光を遮っている以上、何かの光を反射するわけがない。

となると何だろう?

僕はポケットに入れていた定規でそれを手繰り寄せる。

運の良いことにそれには何らかの出っ張りがあってとても簡単に手繰り寄せられた。


「あ、取れた」


僕は定規で現れたそれをつつく。

結構硬い。


「ん~、何だろこれ」


透明な板にフィルム模様を入れたような外見、

1つと3つのダイヤが角に描かれ、

定規を引っ掛けたところだけが白く塗られている。

不思議な魅力にかられ僕はゆっくりと手をのばす。

もしかしたらこれが願いを叶えるフィルム……?


「見つけた!」


「!?」


珍しい友人の大声に反射的に振り返る。


目に入るのは、

眩しい閃光、

光の帯に包まれたその姿。


「え、な、何これ?」

「それ大丈夫なの!?」


呼びかけても返事がない、

まるで誰かと話し込んで僕の声が聞こえていないかのようだ。


「────僕の願いは()()になりたい!」


光の帯を放つ掲げられた一枚のそれ、

僕が今さっき拾おうとした謎の物体。

そしてその帯が全身をミイラのように包み込みそして羽化する、蛹のように。


『KYUaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!』


その姿は以前の外見より高い身長、開けば身の丈を超える豪翼、黒いくちばしはさながら漫画にでてくるランスのようで、そしてその根本には四つの金の瞳がギョロつき、人のような下半身の腹には4つの黒いダイヤの紋様とそれを囲む3つの線、漫画の鳥人のように無粋な人の腕など無く、どちらかと言えばハーピー。

灰色の羽毛を震わせ、飛び立つ。


急いで渡り廊下から飛び出て見上げる。


運良く誰も見ていなかったのか外を覗き込む人影はまだ無い。


飛び上がった怪物は───

天高く………いや、屋上のフェンスで止まった。


………フェンスって彼の重みに耐えられるのかな?


しかし急に飛び立ったと思ったら屋上でとまる……


「そんなに長く飛べないのかな?」


脳が現実だと受け入れることを拒否しているのか、妙に冷静にそんな風に考察しながら眺めていると、


「…………ぁ」


間抜けな姿が目に映る。


バキッ、と音を立てていそうな勢いで鳥人間の留まるフェンスが前へと倒れ込んだのだ。


さすがにあれの重量には耐えられなかったらしい。


鳥は前に倒れる勢いのまま反射的になのか飛び立つ。


飛び立っ……たが、勢いが足りず反対側の校舎の教室へと突っ込んでいく。


大きな音と共にガラスは勢いよく割れ───


「危なっ!?」


気をとられてる間に落ちてきたフェンスを渡り廊下の屋根下に、転がり込むようにして避ける。


かなり大きな音を立てフェンスは地面に直撃、

いや、本当、危なかった。


さっきの窓の破壊音も聞こえたのか、

数人の先生が「大丈夫か!」と駆け寄ってくる。


僕は、「大丈夫です」と返すと、

先生がたは生徒は教室で待機していなさいと言い、

いそいそと向かいの校舎へ走っていく。


割れる瞬間は見られていなかったのか誰も何も持っていない。


刺又すらも持っていない。


行けば死ぬかもしれない。


止めないと、


……でもなんと言う?


「犯人は鳥の怪物です!」ってか?


無理だろ~、信じるわけがない。

いや、もしかしたら他の生徒が目撃してるかも?


……なら刺又くらい持ってくるよな。


「どうしよう……」


あれに理性が有るようには見えなかったけど……

立ちふさがった相手を襲ったりするのかな?


……そんなことさせたくないな。


『じゃあ、私を使いなよ』


「!?」


え、どこから声がした?

前は先生しかいないし、あり得るとしたら……


後ろ……?


「…………」


えぇっ………、誰もいないんですけどぉ~っ。


えぇ、怖、え、怖いんですけど……


『あの~、もしも~し、聞こえてますか~?』

『私を使わないかって言ってるんだけどぉ……』


………うん、わかってる。

わかってますよ、ええ、そうなんじゃないかなって心の中ではわかってましたよ。


ああ、あのとき触れなきゃよかったな……


ゆっくりそれに近づきしゃがみこむ。


「………何?」


それはフィルム模様の透明な物質、

さっき目の前で人間を怪物に変貌させ、

今は僕の脳に直接話しかけてくる謎物質。


『私と契約して、彼を倒しませんか?』


「……そういうのは白い宇宙人だけで十分なんだけど」


『それじゃあ、何でも願いを叶えて差し上げます!』


「うん、いらない」


『何でですかぁ!?』


「いやだって、願ったら怪物化するでしょ?」

「倒すどころか二匹になっちゃうじゃん」

「怪物になったら願い叶えてもらっても意味ないし」


『大丈夫です!邪魔さえしなければ彼らは同類以外襲いませんから!』

『それに怪物化しても怪物がある程度ダメージを受けたら契約は破棄されますし、中身は無傷です!』

『人間に戻っても少し能力も残りますし!』


「……同類?」


『私達との契約者です』


「達……ねぇ」


僕はじっとそれを見つめる。


もしこれの言うことが正しいとしよう。


同類同士仲良く潰し合いをしたらどうなる?


うまく潰し合っても一体残るぞ?


人間に対象できるのか?


………どうにかなりそうなんだよねそれが、


なら、両方怪物化したっていいじゃないか。


IPが来るまでの時間稼ぎになればいい。


そんなことを数秒間考える、


…………よし、


「いいよ、契約する」


『本当ですか!』


「……そのハイテンションぶりは少し不安だけど」

「この状況なら……ギリ人死(ひとじに)は出ないよね」

「そう、僕は思った!だからその話、乗った!」


僕は乱暴にそれを拾い上げる。

そして、自然に、当たり前のようにまばたきを、






「──してみたら、どこだここ」


そこは黒い黒い暗い場所、

少なくとも学校ではない。


「まあ、よくあることか」



とりあえず僕はそんな一言で思考を断ち切った。


そうだ、ファンタジーではよくあることだ。

契約する瞬間、時が止まったり。

時間の進みが遅い精神世界に招かれたり。


つまり目の前にいるのは声の主というわけだ。


「初めまして、私はアルドナープ」

「電脳……No.5」

「今回のルールだと……《E》を冠する者です」


スカートを少しあげ令嬢のような挨拶をするのは金の混じった黒髪の少女。

古風とも現代的とも言い切れない民族衣装のようにも見える衣装を纏う彼女はそう告げた。


「まずはお名前をお聞きしても?」


「……なんか、さっきと雰囲気が違うね」


「!」

「あ、いやぁ~、契約ぐらいちゃんとやろうかな~って思いまして……」


アルドナープは気まずげにそう言った。


「そう、まあ、どうでもいいけど」

「………っで、ああ、名前ね」

「僕は本郷早太(ほんごうはやた)、本郷が名字で早太が名前ね、以後よろしく」


……ここで「そこんとこよろしく!」とぼけるべきだっただろうか?

………通じるわけないか。


「ホンゴウハヤタ……ヒーローにはぴったりな名前ですね!」


「…………?」


「あ、いえ、忘れてください」


僕が黙ったのを滑ったからと思ったのか慌てて取り消した彼女はわざとらしい咳を1つ。


「で、では、願いをどうぞ」

「大抵のことは叶えて差し上げましょう」

「運が良ければですけど」


「願いごと……ねぇ~」


僕は何もない天井を見上げ目玉だけを一回転する。


「………じゃあ、速そうなのを頼む」


僕はそう言った。


(なんか見苦しいねがいだな)


まったくもって自分が嫌になる、

僕は自嘲気味に笑う


「速そうなの……ですか」

「う~んと……そ・れ・じゃ・あ~」


そんな僕をよそに彼女はどこからか取り出した本を捲る。


「とっさに思いつくのは……」

エスケープ(Escape)ですかね」


「逃げてんじゃん」


「あ、イーグル(Eagle)なんてどうです?飛べますよ」 


「う~ん、できれば室内で仕留めちゃいたいかな」


「あー、確かに空に逃げられたら余った一体倒すの大変ですもんね~」

「……?」

「速い方が捕らえにくくありません?」


「……いいから、他ないの?」


「う~んと……」

Eddy()……は違うか、Eject(追い出す)も、う~ん」

Elastic(伸縮)Elasticity(弾性)……どっちも加速しそうではありますけど……」


「……ねぇ、Eを冠するってEから始まる英単語じゃなきゃダメってことなの?」


「ええ、まぁ、毎回違うんですけどね」

「無制限で叶えてるといろいろあるんで」

「ちょっとしたルールがいろいろと……」


聖文字みたいだな……


「あ!これなんてどうですか?」

「速そうですし、強そうですよ!」


彼女はそう言って僕にページを見せる。


「……ああ、なるほど」

「じゃあ、これにしようかな」


「了解です!」


彼女はその文字をよく見えるよう本を開く。


「じゃあ、ここに手を置いてください!」


「……こう?」


「はい!OKです!」

「じゃあ、いきますよ!」


「?」


「《私、第5の電脳アルドナープは、(おの)が役目を忠実に遂行し、全力をもって我が契約者、ホンゴウハヤタの生命を維持、保護、擁護することをここに誓う》」


本からあの光の帯が溢れ出す。

それはまるで生きているかのように僕を彼女を包み込んでいく。


「……ああ、そうだ、最後になるかもですけど」


「?」








「私の勘って……」

「───案外当たるんですよね」

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