第15話その5
『早太、どうした!?』
「プロトさんが、プロトさんが吹き飛んだ!」
『な、生きてるのか!?』
「わかりません、あそこ……廃ビルですか?」
「人がいたらまずいんじゃ……」
「怪物と勘違いされてリンチとか……」
『落ち着け、発想から間違っているような気もするがそこは数週間前から空き部屋だ、どうやら入っていた会社がつぶれたらしい』
「そうですか、ならあの中で戦闘が起こっても大丈夫ですか?」
「プロトを追いたいんですけど」
『やめてくれ、下はまだ契約中だだ』
『崩れたら困るぞ』
『またガス会社に責任を負わせるつもりか、責任者ストレスで死ぬぞ』
慌てたような正児さんの声
………むぅ、確かに
追ってきたら危険だよなぁ……
『というかそもそも追ってくるんですかね?』
「?」
「アル、それどういうこと?」
『プロトさんって私達と同じだけのエネルギーを保有してるはずなのに払いのけるだけでした』
「………そう?」
『だって最初なんて倒したかの確認もせずバイクで走り出してましたよ』
「いやでも、あいつどう考えても自然系でしょ?」
「怪物の本能のままに動くはずじゃないの?」
『ん〜、もしかしたら契約者に人格を引っ張られかけているのかも?』
「んなことあるの?」
『そりゃまぁ……千に一分は?』
『前例があるかは忘れたんでわかんないですけど……まぁ、理論上ありえないこともないくらいには』
「つまり十二分にあり得るってことね」
『………まぁ、そうとも言います』
『最近の人は我が強いみたいですし』
「英雄王なら簡単に成功しそうだな……いや、むしろあの人はカードにされても人格が残る方か」
『まぁ、完全じゃないですし知力はそんなに無いと言っていいと思います』
『どちらかというとその願いにかける思いがすこぶる強いとか?』
『………そういえば、私達って日朝のように契約者を諭したりしませんよね、ドラマチックにかける気がします』
「そりゃ、自分も自分の願いのために契約してるくせにどの口が言うんだって話になるからね」
突風を交わしながら状況をもう一度確認する。
僕、
目立った外傷なし
せっかく用意してもらった光学迷彩繊維はもうズタボロ、使い物にはならないだろう。
刀の調子は好調、怖がらなければよく切れる。
SOCDO部隊は数キロ先で迷彩テント内で待機中
怪物だけなら危険すぎるからとかいろいろでI.P.が動けない理由をでっち上げれるが、彼らがいると動かざるおえなくなるから……らしい。
正直この距離でできるサポートは狙撃くらいだが、
この局所的豪雨では射線の確保もままならないだろう。
あとは……物資配達くらいかな?
怪物はと言うと……まぁ、端的に言って今だ健在、
細い体に脆そうな骸骨してるのに目立った外傷なし
………まぁ、直るしね。
そしてプロトエンジンことHA-08、通称プロトさん
いつの間にか呼び捨てになってたけど。
彼は現在ビルの空き部屋に飛ばされ安否不明
死んではいない……はず、
でもなぁ……戦線復帰は無理だろうなぁ
吹き飛ばされる前からボロボロだったし、
やっぱカッコイイとか呑気なこと言ってないで止めるべきだったよな……悪いことをした。
「しかしまずいなぁ……僕この状況勝っても負けても契約破棄で結局負けじゃん」
『いっそのこと逃亡してみては?』
『まぁ、契約者はどうやってもフィールドであるこの島から出ることはできませんけど』
「………無法地区にでも逃げこむ?」
「正直あんな場所手生きてける気がしないけど……」
「いや、実際は本物を見たこともないけど」
「まぁ、その前にこいつだけは倒していくけどね!」
突風を躱す
瓦礫を切り裂く
もうこの道路もボロボロ
特に横なんてもはや無いも同然だ。
ほんとに走りたいのか……?
『そこ、危ないですよ!』
「え!?ぁ、うぉっとっと……」
気がつけば道路自体も端から少しずつ崩れ始めている
思った以上に時間はかけてられないな。
「落ちないように気をつけないと」
そう言いながらも
飛んでくるガラスやら瓦礫やらを避けながらは中々難しい、
「………って、待って瓦礫、そっちはまずい」
切って縮めた破片でも
プロトへの万が一を考えてビルへは行かせない
庇うようにその前に立ち
鞭で全部払い落と
「!?」
この怪物速度も早い!
払いのけるのに破片に意識を向けた一瞬、
いつの間にか我前にいた!
眼の前の骸骨
母の葬儀以来のちょうドアップに体が一瞬すくむ
その隙を突かれ鋭い、
というかゴツゴツした骨の拳が
放たれ、僕の鳩尾を抉る。
「ふぬっ!」
なんとか足に力を入れて耐える、
しかし
「………あ、やっぱできるよね」
拳をなぞり、
芯とするような竜巻が
僕の腹、拳の打点へ追撃する。
となれば僕の重くなった体重も意味をなさない、
秒速どれくらいかもわからない風が僕を軽々吹き飛ばす。
これではプロトの二の舞いだ
「しゃっ!」
鞭の先が壁を穿つよう放つ。
「よし」
なんとか風が止むまではこれで耐えられそうだ
止んだあと戻れるかは別だけど。
「…………あれ?」
『早太くん!?相手風を出しながら近づいてきてます!』
「ありゃぁ……となると?」
ベシッ
「ですよねぇ〜っ!?」
刀の先の刺さった壁は怪物に簡単に蹴り砕かれ
やっぱり僕はプロトの二の舞いで吹き飛ばされる。
その場所ちょうど……
『早太くん、ズレてます!』
窓ではなかった、
無駄に抵抗したせいか少しズレたらしい。
壁……
壁ねぇ………
斬るか
『おい!?』
正児さんの声がするが無視、
壁を蹴れる体勢ならまだしもこの体勢、この速度で壁にぶつかるのは流石に危ない。
悪いとは思うけどね、一応は
「よっ、えっ?うぉぁあぁぁ、いてっ!?」
切って作った穴からビル内に飛び込む
だが受け身を取れそうにないので置きっぱだった机を掴む………が、固定されておらず倒れ腹を、強打
落ちてきた引き出しがその顔を追撃する。
重いし痛い、人なら鼻折れてるぞ……
しかしなんだ、備品も中身も置いていったって
詐欺でもしてたのかこのビルは。
「………って、それより急いでここから出ないと!」
「の前にプロトの安否だけ確認を……」
「…………おい」
そう呟き立ち上がろうとしたとき、
後ろから声がする。
「プロト?」
振り向けば壁に持たれる誰かが一人。
「他に誰がいやがるですか……」
朦朧としているのか口調が変だ
機械を演じる敬語と本音を示す口調が混じってる。
良く見れば黒いスーツの裂け目や装甲の隙間から
何か垂れている、十中八九彼の血だろう。
「おい、おい!」
「大丈夫か!?」
「意識を保て、大丈夫、こんぐらいの出血じゃ死なない!」
銀の足が赤に浸る
歯をきしませる。
「うるさいですよハヤタ……だまりやがれですよ……」
「タマみたいな口調で話してんじゃねぇ!」
「おい、僕はあんたに死なれたくないし」
「あんたが死んだら俺の死も決定するんだぞ!」
「あ、いや、攻めてるわけじゃないけど!」
眼の前で知人が死を迎えるパニック、
この前とは違う、まだ助かる可能性があるのに
僕はまた、何もできない。
「………こっからテントに」
だめだ速度が足りない
間に合わない
安定して支えてあげられる力が無い。
「なんでだよ……」
力を手に入れたんじゃないのかよ僕は
あの日
足が速ければ
母を救えた
母だけじゃない
母を追い抜いて犯人も助けれた
車より早ければ助けた人が死ぬことは無かった
犯人も捕まえられてあの大量殺人も起こらなかった!
だから鍛えたのに!
だから願ったのに!
なんで三割なんだよクソが!!
「………ねぇ」
「私、人として生きれるのかな……?」
「………わかんないんだ」
「わからないなら、探せ、探せよ!」
「他人に自分の答えを求めるな、生きろ!」
「ここで生き抜けば人間として生きれるかもしれないじゃないか!」
「私さ、銃を持ったとき……震えた」
「だってさ、私達は生まれたときから誰かを倒すために教え鍛えられてたはずなのに……手に取ったこと無かったんだもん」
朦朧としているのだろうか
朦朧としているのだろう。
「教わ、ったのは、ただ組み付く……こと、だけ」
「私、もろとも爆発さして死なせ……だったんだ う」
「育てられたの、なんて……兵にするためなんじゃなかったです、た……だ、……為に」
「……………って、……から」
…………
空白が増える
彼の表情はどんなんだろう
今だヘルメットに隠れ見えない
彼はどんな顔をしているのだろう
1度もこの、壊れたヘルメットの下を見ていない
そもそも彼は彼と呼んでただしいのだろうか。
「暗いな………」
「なんだかな………」
「私は……」
「僕は………」
「結局…さ、誰の役にもたてねぇんですよ」
「巻き込む……増やして」
「あぁ………いっそ僕は」
「本物の……機械になりたい」
「!?」
『えっ!?』
『どうした!?』
僕はとっさに後ろに跳ぶ。
彼の下
血の海の底
暗がりで見えもしない場所から光の帯が
記憶を巡るフィルムのような光が
彼を包み込む。
その光に力与えられたようにマスクを引き剥がす。
『契約……?』
「あほっ!本当に機械になる気かよ!」
蛹は羽化する。
「人になりたいって言うんなら、なりふり構わず人として死ねよっ!」
それは銅のような色
錆びたような色
金属色
そして基盤のような緑
顔面の、
たった1つのカメラアイに光が灯る。
ネジが配線が装甲を繋ぎ止め
アンダースーツに回路が刻まれている。
まさに無機質なロボ
しかし明らかなる人外
正真正銘………怪物
だが
「…………あ」
『あ!』
「あ?」
その腰にデバイス輝く。
「私は怪物にもなり損なうのかよ……」
自我を保つ彼は
嘆きうなだれ、
デバイスのスイッチに手を伸ばす。
『元の姿に戻る気です!』
「やめろ、バカ!」
そんなことしたらあのボロボロの体に戻って
出血多量で死ぬ!
そう思ってどうせ言葉で止められないと
容赦なく彼を殴る。
だが
「いっ……てぇぇぇっ!!?」
ダメージを受けたのは僕の方だった。
「だ、大丈夫ですか……?」
あまりの痛みにしゃがんだ僕を気遣うように
スイッチに手を伸ばすのをやめて目線を合わす。
低くなった姿勢、説得のチャンス。
その肩を逃さず僕はガッチリと掴む。
「すげぇ、すげぇよプロト……ではないかHA!」
「あんたは今、僕より強い!」
「絶対に!」
「本物だ、本物の半怪人……いや狩人役だ!」
「私が……本物?」
「そうさ!僕よりもうんっ倍も価値ある存在さ!」
「良かった、良かった……これで君も、僕も…死なない、殺されない!」
「………私は」
「なんだよ、死にたかったか?」
「私はこれからも自分を変えなくて良いのでしょうか?」
不安そうな声
それに対して僕はここは正直に
「え、ダメなんじゃない?」
と、答えた。
「ならやっぱり!」
「君は、変わるんだよ、これから」
「今日から君は人になる努力をしなくてはならないよ」
「どう……すればいいんですか?」
「私の周りの人達は誰も、普通なんて教えてくれません」
「私一人では……学べません」
「何言ってんの?教師ならここにいるじゃん!」
「………え?」
「僕だけじゃない」
「部屋を1つ出れば人なんて無限にいる」
「同じ人なんて居ない、数多くの人を学びその中から自分に合ったものをつなぎ合わせて自分を作るんだ!君の見ていた窓の外は先生で溢れているよ!」
「ようし、手始めに明日カラオケに行こう!」
「僕の友達も誘って、アルも来るよね?」
『もちろんです!』
僕は彼に伝える
僕が、僕の足りない脳みそで考えられる限りの寄り添いを。
僕は彼を知らない、
彼の過去も良く知らない、
彼の経緯を知らない
彼が今僕の言葉をどう思うのかわからない
それでも、彼の願いを知っている。
だから
「あ〜、でもそれには名前がないのは不便だなぁ……」
「よし、君に人としての名前を与える!」
立ち上がった僕ら
向かい合う彼を指さして
告げる
君らしさを残しつつ、
君が多くの縁を繋げるような名前を
「君は今日から葉黄恵縁だ!」
「将来のためじゃない、誰かのためじゃない、明日のために戦おう!」
そして指差す手を開き強く差し出す。
「私の……名前?」
「私の、明日?」
「……………」
「……ふふっ、はははっ!」
「私の名前!」
「うん、うん、うん!」
「そうだね、明日のため、明日のために!」
「私は、ハオウエイトは……戦うよ!」
強くつかんだ手は機械らしく無機質で
熱なんて通ってなんていないけれど、
なんだかとても温かく感じた。
〜人物紹介〜
葉黄恵縁《HAO-EIGHT》
性別:無し(二人称は便宜上彼)
年齢:約19歳(生後31年)
身長:約185cm
体重:約64kg
役職:暗部所属特殊生物執行官
好き:任務→カラオケ、散歩
苦手:特に無し→牛乳(腹を壊すから)、腹痛
嫌い:無差別な暴力
(概要)
人として生きるべく勉強を始めたHA-08が
社会に溶け込みやすくするために早太が名付けた名前。
幼い頃からの教育の影響で誰にも顔を見せたがらなかったため切れなくて伸びっぱなしの長髪が特徴、人らしくなる訓練としてマスクを外すようにしてからはきれいに整え手入れされるようになっており、性別の無い体かつ日々の鍛錬で形成された体型によりカッコイイや可愛いより「美」といったような外見をしている。
名前を与えられてからは今まではいつ任務があっても良いようにと本部に居座っていた非番の日には積極的に外出するようになった。
ただまだ自己決定能力が乏しい彼は早太らが作ったくじ引きで行き先を決めており、
それを隠された日は特に目的もなく歩いている。
食にもいろいろ興味を持ったらしく食べ歩きもしているようだが今までいつでも出撃できるよう携帯食料ばかりを食べていたためなれない食事で最近良く腹を壊している。
早太達や同僚とカラオケに行くことも多く、
無趣味を心配した先輩からの洗脳……もとい布教活動のおかげでいろんな世代の歌を歌うことができ、なにげにうまい。
溜まりに溜まっていた通帳の残高の減り具合を見て人間らしくなってきたなとアンティキティラもにっこりである。
今だに任務第一主義なのは変わってないが少しずつその理由にも変化が出てきておりあとは自分で決めることさえできれば……といったところ。
名前の由来は
HA-08→HA0-8→ハオー-エイト→葉黄恵縁
元は「英人」の予定だったけど早太が彼の性別を知らなかったのにその名前はちょっと男らしすぎる気がしたので、読みは男の子っぽいので漢字の方は女の子っぽくしようとした結果こうなりました。
糸が縁になってるのはたぶん読まないだろうけどまぁ、読みなんて適当に作っても問題ないよね精神で使ってます。




