3. 青い朝になるにはまだ早い時間
母の鼻歌で目が覚めた。
お茶碗を片付けるというのが面倒になって眠ってしまった。
それを母が片付けてくれている。
ミル姉が母に寄りそうように横に立っているのが和室の部屋から見えた。
また夜食をねだったのだ。
夜食というには、遅い時間帯。その時間にミル姉はいつもご飯が欲しいとやさしくお願いをする。
「ミル、ご飯おいしい?」
その言葉は、僕に向けられたものではなかったが、甘く優しく心に響く。
鮭とご飯を混ぜて柔らかくしたおかゆが夜食の内容らしく鼻に残る。
母がミル姉の頭を撫でながら、美味しいねと言っているのが聞こえる。
聞きたくなくて、耳を塞ぐ。
ご飯を食べ終えると、ミル姉は縁側に来て外を見る。
いつもミル姉のために赤いベルベットの布の張られた上等そうなアンティークの椅子が置かれている。所定の位置に行くと座る。
眠れないのか母もうちわを持って、椅子の横の床に座り込む。
二人とも黙って座ったまま、月を見ているようだった。
鈴虫の羽を震わせる音が響いている。
遠くから近づいてくるバイクの音、ブレーキの音が頻繁に聞こえてくるから、新聞配達員だとわかる。四時半ぐらいか。寝たふりをしたまま、二人の様子を見る。
どこか二人で行ってしまいそうな危うささえ感じる。
網戸を開けて帰ってこないような気さえしてくる。
いつも二人を止められるようにと思いながら、目を開けているつもりなのだけど、慣れない家事と六時に起きなければいけないという緊張感からすぐに深い眠りにつく。
朝、隣の和室の襖をあけて、眠っている二人を見て安心する。
「おはよう」
ミル姉と目が合ってしまい、大きなあくびを見てしまった。
レディの着替えを見てしまったようなバツの悪さを感じる。
かわいいのだが、大きな口の中を覗き込んでしまった。
「今日もミル姉、お願いします!」
上の方を指さして、手を合わせてお願いをすると、ミル姉は仕方ないわねというように大きく伸びをすると、階段を僕の代わりに上ってくれる。