レインは眠る、悪魔は狩りへ行く
少女マンガ「不思議少女サニー☆サンシャイン」は、サニーちゃんと、クラウドくんの恋と冒険の物語だ。
聖夜祭の日。すべては、そこから始まる。
友達以上恋人未満な2人は、初めの冬休み、初めてのデートをする。
その晩、トキメキと幸せで胸いっぱいで夜更かしをしてしまったサニーはお星さまに祈る。
『町中のみんなの幸せ』と『クラウドくんともっと仲良くなりたいな☆なんちゃって……、えへへ☆』
夜なのに、不思議な青い鳥がやってきて……運命の時が始まるのだ。
女神さまのお使い『幻鳥ハミング』に導かれた二人の恋と冒険の行方は……。
学園七不思議編を経て、悪魔に取り憑かれた、クラウドの幼馴染レインとのバトルへと、物語の舞台は移っていくのだった…。
◇◇◇◇
マンガに出てきた聖夜祭とは、まさに『昨夜』のことだった。
レインの通う学園は九月に新入生を迎え、十二月の半ばから冬休み、一月初旬に授業が再開される制度となっている。中等科一年生にとっては、初めての長期休暇だ。
友達もおらず、冬休み開始直後から屋敷に引きこもっていたレインには……、当然何の予定もなかった。
ぼっちの非モテが逆恨みを募らせ、そんな日に召喚をしようとしてしまったのは、仕方がない事なのだ。
街へと繰り出して、リア充カップルへ直接の迷惑行為を行うよりは、おうちで独りで励んでいただけ、だいぶマシな方だ。
日付けの変わったばかりの、聖夜祭の翌日の深夜一時という非常識な時間に、召喚を実行した。
そこから、クダンと出会ってスッキリして、深夜二時過ぎにパンケーキを焼いていたら、ベルがきた。というのが本日の流れだ。
現在の時刻は午前四時。真夜中のお茶会&契約を無事に終えたところだ。
生活リズムが無茶苦茶で、遅いのか早いのかも意味不明な時間だが、さすがに眠気が湧いてきた。
今日の店が開いている時間に起きるため、レインは眠ることにした。
名ばかり貴族のレインは、日頃フラフラ街歩きをしているが、貧弱なので、日用品の配送を利用している。
けれど年末は店じまいもあるし、配送も込み合うため、今からの依頼では、年明けまで待たされることになるだろう。
こういう時は直接店へと出向き、エネルギードリンクをまとめ買いしないといけない。
レインはエネドリジャンキーなのだ。
このまま店が閉まったら、完全に干上がってしまう。
屋敷は広いので、自分の使用している寝室以外にも、客間がある。
そこをベルに使わせることにして、レインはさっさと休むことにした。
詐欺被害に続けて遭い、幼馴染の言葉に追い詰められ、悪魔召喚に挑戦する程の闇に飲まれていたのだ。
多少スッキリしようと、問題は何も解決されていない。
むしろ予言によって、さらに増えている。
そんな時にベルという理解者を得たのだ。
明らかに怪しい所も『異界の人はいろいろ違う』で、全部見過ごしてしまっても仕方がない。
溺れる者が掴んだ藁。
耳障りの良い言葉から甘い罠に落ちたのは、必然だった。
疲労が溜まっていたレインは、あっという間に眠りについた。
◆◆◆◆◆◆
濃厚な、野鳥のスープを味わう。
とりガラの風味と、聖属性独特のうま味。
流石に小さすぎて、肉はほとんどないが、実に良い出汁が取れた。
幸運値を上げる作用も、あるようだな。
大正解だ。食材の確かな力を感じ取れる、仕上がりだ。
幸先がいいな。
これからのこの『界』での珍味との出会いを祝福してくれているようだ。
さすが、聖夜祭の女神からの贈り物だ。
有難いことだ。贅沢な一皿となった。気に入ったよ。
これからも何羽か、こうして送り込んでくれるのを、期待しよう。
毟った羽と残った骨、それに髪留めは地元に送り、品種の確認、種族詳細の、問い合わせ中だ。
産地や用途の確認は、しておきたいからね。
鳥は、召喚電波娘となるオレンジ頭に、髪留めを渡し、供に眠りについていたのを、狩ってきた。
翌朝の「うっそー?! 夢、夢だと思ってたのにぃ?! 本当だったんだぁ!」というシーンに繋がっていたのだから、ただの一夜の幻で、終わってしまっても、全く問題ないだろう。
◆◆◆◆
ここでの召喚と呼ばれている行為は、外の『界』への求人や、集客イベントの告知のようなものなんだ。
その情報は、我々の住む『界』では、基本的に求人媒体に転載され、掲載される。
どこの媒体に載るかは、方法と運に左右されるが、貧弱な、この『界』の通信状況や地盤では、有力媒体に掲載される事は、まずない。
記事も小さくて、希求力のない、印象の薄いものばかりだ。
おまけに移動の便も、悪すぎる。
ここは非常に、文明の低い未『界』なのだ。
ちなみに、レインちゃんからの召喚は、マイナーグルメ媒体の、読者通信コーナーに掲載されていた。
だから、この僕がきたのだよ。
めんつゆや、ワインよりもずっと、甘美で吸引力のあるトラップだったよ。
こうして彼女に捕らわれてしまうのも、仕方ないことだろう。
僕の方も、既に逃げる気も、逃がす気もないけどね。
食に関するアンテナは、あちこち張り巡らせているつもりだけど、今回は見逃さずに済んで、本当に良かったな。
つまり、何が言いたいかというと、あのオレンジ頭の召喚は、明らかにおかしいということだ。
予言牛は、掲載文の文面を評価していたが、こんなに寂れた魅力のない界まで来るのは、よほどの酔狂な者だけだよ。
未開の地の新たな珍味を求めるという、探究心豊かな、この僕のような。
グリフォン、フェンブル、キャットシー、ドラゴンなどの平凡な肉体労働に勤しむ奴らがわざわざこんな所に来るなんて、おかしなことなんだ。
獣の考えは理解出来ないがその程度の存在にとっては、移動にも困難を伴うはず。
あまりにも、割に合わなすぎるんだ。
地方都市の地元で、平均的な収入を得られる仕事をして、程々に幸せに暮らしていた者が、惑星の裏の国のド田舎で未経験の軽作業に、自費異動で挑むのって、どう考えても、一般的な感性とは言えないよね。
オマケで、手土産に戦艦まで持参してつけちゃうほどの、大判振る舞いだよ。オーバースペックにもほどがあるよね。
後進『界』にお恵みをするという感覚にしても、そういう手合は貢献だの理念だのというお題目を、求めるものではないか。
慈善事業ならば、栄養の取れた食事、教育、仕事の斡旋が基本だろう。
これではスラム街に、宝石、高級酒、上質な麻薬、それに殺傷力の高い銃火器を、ばら撒くようなもの。
そう、あまりに不自然。
過剰で、余剰で、不穏な気配しかしないだろう。
だから鳥と髪留めには、早速対応することにしたんだ。
オレンジ頭の作る『おいしいごはん』とやらに、何かあるという可能性も捨てがたいので、あれは残しておいた。
あんなに獣が集まるんだ。
僕が気になるのは、念のためだよ。
『暴食業』の紳士が、まさか獣のエサ程度に釣られたとか、そんな品の悪いことは、絶対にないからね!!
さて、レインちゃんが起きたら買い出しだ。
人は少し運動させた方が、よく食べると聞く。
適度に動かして、よく食べさせよう。
あの子、最近まともな食生活をしていないと言っていたけど、薄味のスープなら飲んでくれるかな。
お世話係としては、まずは適切な水分補給を、させて欲しいよね。
めんつゆトラップで、自分から「来ちゃった♡」するタイプの美食家は最初から重ためな溺愛です。
細胞から作り変え、好みに育て上げようとしてきます。




