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レインは悪魔と新たな契約を結ぶ

長らく放置しておりましたが、更新させて頂きます。


性癖を詰め込み過ぎた結果、完全に拗らせてしまいました。

拙い仕上がりとなりましたが、ご笑納頂ければ幸いです。

 文化祭が終わると、学期末の試験が間近に迫る時期となる。

 

 2週間後に迫る試験に備え、レインとベルは、放課後に図書館棟の自習室へ向かったり、自宅での勉強会を開催していた。


 レインは、前回は学年で十六位の成績だった。


 入学前から教育水準の高い王都で、一流の教師に教わっていた者と比べて、ハンデがある地方出身組の中では、異例のことだと教師にも褒められた。


 友達作りを放棄し、寮で部屋に引きこもった前期の成果だ。

 教師ならば質問という会話が話題に困らず出来る上、褒めてももらえる。

 頑張れば、結果が付いてくる勉強は苦にならなかった。

 

 今期はクラスメイトとの雑談も嗜めるようになったのだから、こちらも気長に頑張ろう。



「せっかくだ、次は十位以内を目指すぞ!!」


「うん、一緒に頑張ろうね。……ねぇレインちゃん、試験で良い成績取れたら、僕ご褒美が欲しいなぁ」


「ご褒美……ゲルか?この間のゲルボール4号は単色だったから、やはり物足りない味だったのか?」


「あれも素朴で良い味だったけど……、ご褒美があると思うとやる気出ない?僕はそういうタイプなんだよ。レインちゃんも何か欲しいもの、ある?」


「それは同意する。ベルくんにとっては初めの試験。学び始めたばかりで焦る必要はないが、目標があるのは良いことなのだ。わたしも力になろう。理解し辛い所はないか?」


 ベルが言うには、数学や化学、歴史などの暗記科目に問題ないが、文法や熟語や言葉の言い回しなど、文化的な壁があるらしい。解説役は引き受けることで、新しい発見がありレインも楽しめた。


「うん、この『界』についてはまだまだ勉強中だけど、授業内容はおおよそ理解できてるよ」


「なら、そうだな。わたしは十位以内、ベルくんは一科目でもいいから、五十位以内に入ることを目標にしよう」


 一年生は約百五十人。

 ベルにはまだ厳しいかもしれないが、目標は高く持っておく方が良い。

 達成できなくとも、次回への励みになるだろう。


 お互い目標達成したら、ご褒美に一緒においしいものを食べようと約束をした。




◇◇◇◇



 食べ物の話をしたことで小腹が空いたので、休憩がてら、コーヒと供に黄色いマロンクリームパイを食べていたら、辺境を思い出した。


「試験が終わったら待ちに待った春休みだな。わたしは辺境で春のブタ祭と畑の世話をする予定だが、ベルくんも何かやりたいことや、行きたいところはあるか?」


 ベルははるばる異『界』から来た美食家だ。

 普段は学園生活に追わていても、休みはなるべく好きにグルメ巡りでも楽しんで貰いたい。


「予言ノートには、他にもいろいろな事件があったよね。中には魔王の封印の影響もあると思うんだ。辺境以外の土地にも一緒に旅行がてら視察に行ってみない?」


「うーん、そうだな」


 封印の話が出て、改めて祠での話をする良い機会だとレインは悟った。


 次の聖夜祭が契約更新日だとしても、それ以前に意識のすり合わせは重要だ。

 ベルには自分の思いを、きちんと伝えてなくてはならない。

 

 大切な、存在だから。

 

 異『界』人の美食家の価値観はあまりに個性的で、レインが彼を理解できているとは言い難いが、もっと分かり合うためにも言葉は欠かせない。


「あれからわたしもいろいろと考えたんだ……。少し長くなるが聞いてほしい……」


 あの話をレインが聞いてたどり着いたのは、悩んでも意味がない、ということ。


 名ばかり貴族なレインには、ノーブレスオブリージュという価値観の実感は乏しい。

 自分の辺境への思いは、施政者目線ではなく、あくまでも共同体の一員としての目線だ。


 世『界』の異常を放置するのがマズイの分かっている。

 

 だが、自分が全てを捨ててまで、全力で救う必要があるのか?

 ごっこ遊びではないのだ。

 そんなことが出来るような存在ではないと、自覚している。


 もし仮に出来る力を持っていたとしても、正しい行いであろうと、その結果の責任を負えるのか。

 支持を受けるどころか、()()()()()()都合が悪い存在ならば、搾取され踏みつぶされてしまうだけだ。

 

 かつての聖女ローズの姉や、レインの両親のように。

 独裁的で善良とは言い難いプルヴィア一族の方が、よほど上手く立ち回っていて、支持されている。


 結局、誰もが納得いく正解なんてないのだ。

 

 魔王を開放して、プルヴィア一族を成敗したとしても、この世『界』で暮らす全ての人にとって、それが最適な選択なのか。


 ローズは、好き勝手無責任にやった上で自分を善の側へ仕立て上げるだけの力を持っていた。

 どう考えても懸命な選択とは言い難いものだったが、自分の道を貫き通した。


「正解が分からず、責任も取れないわたしだが、それでも何もしないでいることも選びたくないのだ。だから、正体不明の覆面や、謎の義賊みたいな……。そういうのを、目指そうと思うのだ!」


 レインだって、好き勝手、無責任にやってやろう。

 闇に紛れて身を隠し、独りよがりな正義を貫いてやるのだ。


 腐敗した権力者や金持ちを襲撃して貧民に小銭をばら撒こうと、意味がない。

 貧困問題は解決しない。経済格差は無くならない。

 解決は出来なくとも、自分のやりたいことをする、そういうあり方こそが、自分のやりたいこと。


 それがレインの選べる道で、答えなのだと閃いたのだ。


「う、うん……」


 いつもの厨二発作だと理解したベルは、否定せずに話を受け入れるモードに入った。


「まずは父上の作った結界の研究、サンダースさんに相談すること、ベルくんの助力を求めることから始めたい」


「なるほど。意外と堅実だ」


 父の研究室の扉には、幼少期に編まれた魔術的チャイルドロックが掛かったままになっている。

 それをベルに解除してもらい、結界について必要な知識を得る。


 一人で背負い込まず辺境伯家に相談もして、魔王への対処やプルヴィア一族からの介入を防ぐ手立てを講じていくのだと伝えるとベルは頷いてくれた。



「あぁ。わたしには、君の力をあてにしてこの世『界』を救ってもらうほどの、対価は差し出せない。それでも、集るようでは友達では居られなくなる。助けてくれなかったと勝手な逆恨みもしたくない。だからベルくんには、わたしの共犯者になって欲しい。君の出来る範囲、やりたい範囲の行動でいい。一緒にダークヒーローを目指そうではないか!!次の聖夜祭まででは時間が足りないのならば、契約の延長も含めてそれを考えて欲しい。そしてそのために、わたしが差し出せる対価があれば言ってほしい」


「……共犯者かぁ。何だかとっても素敵な響きだね」


「大きすぎる代償は払えなくとも、わたしが一緒に組みたいのは、力を持つ都合の良い誰かではなくて、ベルくんという友達だけだ。契約が終わって異界に帰ってしまっても、ずっと繋がっていられるそんな関係になりたいんだ……。だから共犯者という関係は、すごくピッタリな気がするのだ!」


「ずっと繋がっていられる関係……。最高だね。僕もそうありたいよ。ねぇ、レインちゃんは高等科を卒業した後どうするか、もう決めてる?」


 顔を赤らめて、赤い瞳をキラキラさせながら、ベルは問いかけるように見つめてくる。

 

「うーん、まだはっきりとは。いらない貴族籍を抜け、魔法か薬学に関する仕事をしようとは、考えているが……」


 なるべくカッコイイ職業を名乗りたい。

 ダークヒーローは闇に紛れて行うお仕事なので、表の顔も必要なのだ。


「約五年半だもんね。それだけあれば、魔王解放後の『界』復旧には充分だと思うよ。学園を卒業するまでの間、共犯者になってこの界のお世話をしてあげてもいいよ。その代わりその後は、レインちゃんには僕の『界』に一緒に来てほしいなぁ。それが願いを叶える代価、それでどう?」


「やったっ!よかったぁ!!ありがとう!!!ん、待て……それは、旅行か?」


 この最高にシビれる計画に加担して共犯者となってくれるとは。

 こんなにも真摯に自分に向き合ってくれるなんて。

 やはり、彼は、彼こそは、レインの真の理解者だ。

 

 レインは感激したが、帰省に付き添うだけでは、あまりに対価が釣り合わない。

  

 さすがに疑念を抱えてしまう。


「ううん、永住。ずっと僕のそばに一緒にいてよ」


 なるほど。ダークヒーロとは、追われる定め。

 ボルト領に影響がなければ、故郷を捨て逃亡者として、ベルの故郷へと共に旅立つのも仕方がない。   

 学園とともにダークヒーローを卒業するのも悪くない。

 

 立つ鳥跡を濁さずという奴だ。後始末もちゃんと考える、大人らしい発想だな。


「うむ。それはアリだな。友達で、ゲル職人で共犯者としてということか?」


「友達でゲル職人で共犯者で僕のお嫁さんとして、だよ」


「嫁?」


「うん。新しく婚約という契約をしようよ。レインちゃん、僕のお嫁さんになって」


 マロンクリームよりも甘く、蕩けるような笑顔を浮かべられても……、意味が分からない。


「どうしてそうなった?」


「どうしてって、ずっと一緒にいたいからだよ。僕はレインちゃんが大好きだからだよ」


「もしや、ベルくんロリコ…」


「僕の『界』は、時間の流れや寿命の価値感がこことは違うから、あまり気にしないで」


「そういうものか…。しかしわたしは中等科の一年のガキだぞ。幼女性愛者であれなんであれ別に構わんが、見知らぬ地で捨てられては敵わん……。はっ!? もしや非常食か? ベルくんの仲間の悪魔はヒト族の身体や魂を食べたりするもんな……」


 生贄になるのは、流石にごめんである。

 レインがしたいのは、自己満足的な正義を貫くことであって、自己犠牲ではない。

 世のため人のために死ぬ気など全くない。


「そんなことしないよ。僕はずっと大事に大事にレインちゃんをお世話するからね。寿命があるうちに食べたりなんてしないから大丈夫だよ」


「結局食うんじゃないか……。そういえば最近わたしの指を良く舐めてたなっ!! ぐうぅ、仕方ない。齧られるのはちと怖いが……、片足ぐらいならばいいぞ。……あまり痛くしないでくれっ」


「大丈夫だよ。そんな食べ方はしないよ。信じてよ。僕は可愛いレインちゃんを舐めまわしたいだけだよ。体液やいろいろなものを、味わいたいだけ。壊したり、傷つけたり、痛くしたり、嫌がりそうなことはしないから、安心して。たくさん気持ちよくしてあげるよ」


 全然大丈夫じゃない主張ではあるが、生命の危機はなさそうだから、安心だ。よかった。

 

 しかし体液まで嗜むとは……。

 ベルが独特なのは異『界』人で美食家なことだけが理由ではないのだろう。

 きっと、その中でもかなりニッチな嗜好をしている。

 レインもようやく、そのことに気が付いた。


 まぁ、理解できないところがあっても、否定はしないでやろう。

 レインも、そういう大人のコミュニケーションを覚えたのだ。 


「好かれているのは有難いことだし、わたしもベルくんが好きだが……、それは親友や家族になりたい、というような感じだ。恋愛や性愛はよく分からん。それでも良いのか?……不安なのだ。何せ淫乱聖女の血筋だ。あんなにクラウドと仲良くしていたサニーもああなった。わたしもいつかクソビッチになってベルくんを裏切るかもしれないんだ。正直まともな関係を作れる自信がない……」


 結婚しても、相手を裏切るようでは信頼を崩してしまう。 

 壊れやすい恋愛的な繋がりより友達として一緒にいれる今の方が、ずっと良いものに思えてしまう。

 必要としてくれるのは嬉しいが、呪いが怖い。

 不確かで、曖昧な感情なんて信用できない。そんなものを自分が抱くのも怖い。


「恋だの愛だの、そういう感情の問題はすぐにどうにかなるものではないけれど、レインちゃんは絶対にああはならないよ。ずっと僕が側にいるから平気だよ。もしそれでも不安を感じるのなら、監禁してあげるし貞操帯を付けてあげるから、心配しないで」


「被れそうなのは絶対にやめてくれ!!……まぁ、友情結婚というのもあるし、契約で結婚というのも政略結婚は貴族なら定番だから同じだな。感情の問題など些細なことだ。ベルくんが良いならそれでいいか」


「些細なことって……。ちょっとレインちゃん、もう少し僕の気持ちを考えてよ……!!ずっと一緒にいたいって言葉も信じられない?」


「う―ん、ベルくんは信じたいが、自分が信用できないかな……」


「ううう、この契約なら、レインちゃんも絶対に喜んでくれると思ってたのに……。望む結果を得ることこそが全ての筈なのに、何だか僕全然納得がいかないよ!!うーん……。これはさっさと魔王に呪いを解かせなきゃいけないね。ダークヒーローを頑張る意欲が湧いて来たよ!!改めてレインちゃん、これからは婚約者としてもよろしくね?」


「了解した。これからもよろしくな。ベルくん!!」


 こうしてレインは、大切な悪魔と新しい契約を結んだ。

 紳士的な美食家は、友達でお世話係から、共犯者で婚約者という新たな位置づけとなった。



 今度は契約書にもサインした。何せ一生モノの契約を交わしたのだから。


◇◇◇◇



 試験が終わり、返却と解説の授業が始まった。

 レインは目標通り、学年九位になれた。

 

 しかし。今一つ納得がいかない。

 順位は良くなってはいるのだが、欠席者が続出した試験だったのだ。

 A組の生徒を中心にした流感のようで、試験前から休んでいる者も多い。

 体調調整も実力のうちとは言うものの、これでは成績が上がったと素直に思えるわけがない。

 

「ベルくんはどうだった?」


「一位だよ」


「……異界からきてるのになぜだ」


「言語理解にはまだまだ文化的な壁があるけど、試験範囲のみを記憶するのは簡単だからだよ」


「………そうか、何が食べたい?」


 この美食家のスペックが高いことは知っていたが、こんな時まで力を発揮されると、何とも納得がいかない。


 成績が良かった方だけが、御馳走を食べられるという賭けでなくて、本当に良かった。

 メニューを決める権利は、ベルに譲ろう……。



「どうせなら、一緒に楽しめるご褒美にしようよ。今日のディナーは僕が作るから、春休みにはレンちゃんが作ってよ」


「パンケーキで良いなら作れるが、それでよいのか?」


「ううん、ドワーフ村に旅行に行ってお土産に新しい調理器具を入手して、それでレインちゃんにおいしいゲルを作ってもらうって計画だよ」


「春休みの旅行か。しかし何でドワーフの村で調理器具なんだ?」


 ドワーフは鍛冶が得意だ。

 

 彼らの作る武具はどれも品質が高く、名高い名刀、名剣の制作者はどれもドワーフだ。

 王城には古代ドワーフ王から送られた鎧や盾も飾られているらしい。


「うん、お鍋とボウルとざるが欲しいんだよ。レインちゃんの実験器具も良いものを仕立てようね」


「そ、それは最高だな……。行こうっ!是非行こうっ!!ドワーフ村に行かねばなるまい!!!」



 たしかに鍛冶技術が発展している村ならば、調理器具や実験器具も品質の良いものが作れそうだ。

 高品質な実験器具、憧れる。



「僕は、共犯者で婚約者だから、レインちゃんの研究ためのお世話も当然するよ」


「うん、いいな。楽しみだ。良い春休みになりそうだな」




 新たな関係となった二人で、最強の春休み計画を企てるのだ!!

おれたちの冒険はここからだっ!!で、物語は閉幕となります。

オマケで、サニーちゃん視点のお話しとマクマノアクマの投稿を予定しております。


ブクマ頂き、ありがとうございました。

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