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レインと悪魔はグループ課題をする②

 そんな自覚するタイミングが遅すぎる恋心も、すでに終わってしまったものだ。

 頭が()()()()してしまったレインは、もう彼に何かを求めることはない。


 それでも久しぶりに顔を合わせると…、なんとなく気まずいものがある。



(まだ何もしてないから大丈夫。刺されたりとかしない……。うちには女神のトングだってあるのだ!)


 ベルに調理器具を渡した女神のことを頭がおかしいとすら思っていたレインだが、今にして思えば、あれは素晴らしい采配だと言える。だって刺されずに済むのだから。


 レインの中でのクラウドの印象は、マンガの中の事とは言えど、『自分を殺しに来るやべー奴』という認識へと、書き換わってしまったのだ。


 盗んだのではない。あれはくれたのだ。ベルが貰って何が悪い!!しいて言うのなら悪いのは女神ではないか!と正当化したいのだが……。

 アダマンタイトの魔法剣なんて希少なもの、クラウドの小遣いで絶対に買えっこない。

 二度とない入手の機会を、奪ってしまったような、そこはかとない罪悪感も抱かざるを得ない……。


 今のレインはヤベー奴にバレたらやばい秘密(刺されるかもしれないほどの)を抱えているのだ!!


「あれ、こっちの彼は?」


クラウドの無邪気な笑顔には、後ろめたさすら感じてしまう。


「ベ、ベルだ。ベル・プルヴィア……」


 サニーにベルを紹介した時よりも、はるかに緊張してしまい、紹介の言葉さえうまく出てこない。

 親戚なんて大嘘だ。幼馴染の彼に、悟られはしないかと、ハラハラしっぱなしだ。嘘を見破られ、咎められ、刺されたりしたらどうしよう……。レインの中では、クラウドはいわゆる『キレやすい若者』という存在になってしまったのだ。些細なことでぶちギレて刺してくるのだ、このタイプは。


「レイン・インバルス令嬢の母方の親戚、ベル・プルヴィアだ。彼女と同じCクラスでもある。貴殿は確か……、Aクラスのクラウド・ヌービルム子爵令息かな?………あぁ。()()()()()()から、同郷の出身だと、伺っているよ。うちも子爵家だ」」


 にっこりと笑い、握手を求めるベルの銀灰色の髪は、図書室の照明の中でも艶やかにまぶしくも輝いていた。赤い瞳からは穏やかさと知性が感じられる。


 初対面の相手へレインとの関係を説明してから、既知のクラウドの存在をたった今認識したかというように、少し口調と声色を軽くして、親しみを滲ませる。

 

 ゆっくりと握手を求めただけなのに、なんとも印象深い振る舞いだ。佇まいに趣がある。

 なんという好青年っぷり!!この美食家、レインとは役者が違う!!


「あぁよろしく。なんだ、()()()の友達じゃなくて、ただの親戚か。ん、プルヴィア家?あれ?()()()とは、たしか縁遠かったんじゃなかったっけ?」


 彼の声にどことない悔しさを感じてしまうが、仕方がない。

 レインと同じで貴族との社交に疎いクラウドでは、ベルには全く歯が立たないのだろう。やはり、キレやすい彼はこの程度ことでも敏感なのだ。


「……確かにそう思われるかもしれないな。プルヴィアの一族はいろいろと訳ありだからね……。()()()()()()とは、もともと僕の方がずっと慕っていたんだけど、やり取りをしていく中で、すっかり()()になってね………。本格的に()()するようになってから、ますます意気投合したので、編入に備えて冬休みからは()()もすることにもなったんだ。もちろんボルト領のサンダース辺境伯ご家族にも、きちんと()()()させて頂いているよ。。家同士の繋がりだけではなく、僕と彼女とで、()()()()()を作って行きたいと考えているんだ」


 すごい。召喚のことやボルト領に冬休みに行ったことを、ぼやかして説明しているだけなのに……。


 これなら『適度に交流していた親戚同士が王都で再会。腹を割って話しあった結果、同居までするほどの親しい友達となった』という話にも聞こえるではないか!

 

 物は言いようである。

 実際とはまるで違うのに、嘘はつかず筋の通った話として、綺麗に収まっている。


 清潔感がありながらも、有無を言わせぬ笑顔。何故だか妙な説得力がある。


「「あぁ、今は王都の屋敷に一緒に住んでいるんだ。……その……ベルくんの兄君や使用人とも一緒にだが……」


不自然でないようにと思えば思うほど、レインの舌は回らずモゴモゴしてしまう。


「そ、そうなんだ……。僕の知らないうちにそんなことになっていたんだね………」


「まぁ、貴殿は()()()()()()とは、この程度の情報共有も出来ないような間柄なんだろう?なにせ冬休みの間に一度も連絡が取れなくても、お互いにまったく平気な、ただの()()()()()だ。久しぶりに会って、互いの近況に驚くこともあるだろう」


「……そ、そう言われたら、そうなのかもしれないな……。はは、否定できないよ」


「兄は勤めもあるからあまり家にはいないのだが……、一応監督者として、ね。僕らはまだ未成年だからね……。もちろん()()が起こらないように、きちんと()()をもった生活しているから、そこは安心してくれたまえ。サンダースご一家にも認めていただいたし、レインちゃんには、僕がいるから、もう何も心配することはないよ。彼女のお世話をするのはこの僕だけの特権だからね。同郷の君にもソル令嬢とかいう、恋人がいるのだろう。よかったじゃないか。互いに、遠くで、それぞれ、幸せになろうではないか。……ね、そういった方向で、よろしく頼むよ。クラウド・ヌービルム子爵令息」


「…………分かった……。その、レインもお幸せに」


「あ、あぁ……。ありがとう……。クラウドも達者で暮らしてくれ」


 クラウドは、すっかり押し切られてしまった。


 麦穂のような色味の金髪と穏やかそうな紺色の瞳を、温かくて優しい彼らしい色だと思っていたのに、今は煤けた頼りないだけの色に感じてしまう。


 ベルは、屋敷に一緒に住むことの説明と、クラウドへ距離を置こうという表明を無事成し遂げた。

 どちらもレインが伝えたかったことだが、こんなに、ぴしゃりと言い切ることはできなかった。


 まさに立て板水。自分の口では、絶対に、こうはいかなかった。


 ベルの『お互いに遠くで幸せになろうと』いう言葉に、クラウドが『お幸せに』と返したので、流れに任せるように『お達者で』と口にするだけでも、精いっぱいだったのだから。


 『本当に親戚なの?』『友達が出来たって本当?』『なんで急にきて一緒に住むの?』なんて当たり前のように湧くであろう疑問も、すべてベルが粉砕してくれた。爆発物のようなやべークラウドの導火線に火をつけることなく、スムーズに距離を置くことも達成できた。おそらく『アイツなんかちょっとウザイ』ぐらいの適度な悪印象でのフェードアウトを達成したのだ。なんと完璧なヘイトコントロールであろう。特におかしな言葉や攻撃的な言葉も使わずに、完全勝利を成し遂げたのだ!これは大戦果である。


 モンスターを退治する力だけでなく、舌戦においても、ベルは格の違いを見せつけたのだ。


 これこそが、女神からの試練に打ち勝ち、アダマンタイトの調理器具を授かった者の貫禄であろう。


(すごいな。ベルくんは……。わたしも、強くなりたい!!自分の言いたいことをすっぱり言い切って、有無を言わせず、飲み込ませる。あの強い主張、表現力、好感度調整能力……、いや、さすがに難易度が高すぎるな)


 レインは密かに決意した。ベルのような……いや、憧れのヘルミーナ様のような趣のある人になるのだ!!と。


 アダマンタイト級の美食家のレベルは、さすがの不可能だと悟ったので、クラスメイトのヘルミーナのレベルならば、いずれ届くのではないか……と現実的な目標意識を掲げることにしたのだ。


 C組の演劇で女魔術師役を演じる、ヘルミーナ・プレディアヌ男爵令嬢は、濃紺の髪色に、ターコイズのような美しい瞳でちょっと釣り目気味の、コケティッシュな雰囲気のある令嬢である。


 あだっぽいのに媚び媚びした感じはあまりなく、自分の意見もはっきり言うが、キツイ印象を与えない、そんなさじ加減が絶妙なのだ。


 彼女が『よろしくてよっ!!』とか『ユニークな発想だことっ!!』というだけでも、何とも言えぬ風情があるのだ。男爵令嬢なのに、上位貴族のような気品を漂わせる。



 そして伝説の女魔術師役に選ばれたという点においても、レインの中で、非常にポイントが高いのだ!!


 髪色の近さと釣り目という共通点に、勝手に親近感を感じていたレインは、帰ったらさっそく鏡の前で『そこはかとなく色気が漂う会話』の練習をすることにした。


ヘルミーナ様は、実際には低血圧でときどき怠そうだけど、根はしっかりしているお姉さんキャラですが、発育の良い憧れの女生徒を盛大に勘違いしています。

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